最終話「決戦」



 戦争も戦闘の無いままに更に一週間が過ぎ、最後の時を迎えようとしていたころ……新王の野営地で異変は起こった、これがこの戦争唯一のそして最大の転機となる……
「さて、中では夜も寝られずに、そろそろ忍耐も限界……一気に攻めるか?降伏を勧告してみようか? どう思う?」
 新王の内心は決まっていて、しかしひとまずは側近に意見を聞いてみる、それが王たろうとするものの勤めでもあるかのような行ないである。
「我が軍の戦意は今だ衰えておりません、一当てしてから降伏の勧告がよろしいかと、我が軍は戦略において優勢を占めています、ならば戦場において奇略を用いる必要は見当たりません」
 この戦闘はけして無駄では無かったと新王に思わせるのは、こういう時に意見を言える人材を発掘出来た事にあると思っていた。
「陛下!」
 その時に外から伝令が息を切らせて駆け込んで来た。
「何事か!?」
 新王の詰問に伝令は一度頭を下げて後に
「プリンセス・プリシラ様……生存が確認されました!」
 その報告に新王は眉を潜めて
「なに? 今頃か……して妹は何処に?」
『出て来るがいい……面白いものをお見せしよう……』
 一度だけ頭の中に話しかけて来た傀儡師の声がまた響いた。
「今は……その……」
 いい澱む伝令を押えて
「よい、私がその場に赴こう……そうか、始めから奴にしくまれた戦であったか……で、どうする?」
 立ち上がり出発しようとして側近に声をかける
「はい、兵がその事を確認していなければ良いと思いますが、姫の弔い合戦でしたから……」
「ふ……皆が知る前に私の手で処分しろ言いたげだな……」
 新王は口の端を歪めて側近を見つめた。
「申し訳ありません……それが最良かと考えました」
「同意見だ、がその手段は使えまいよ……あの伝令を見ただろう?」
 さらに外の声を耳にしながら
「この野営地で知らぬものは既にいなさそうだ……」


『遅いね……ようやく出て来たのかい?』
 その声の主を探すようにあたりを目配せをしていたが、どうやらすぐの場所にはいないらしい……
「陛下あそこに!」
 街道沿いの少し開けた場所が人垣になっている、新王が近づいて行くとその輪を開いてある程度の距離まで近づくことが出来る
「見世物かよ……」
 その輪の中心にはトロルが数匹いてその中央にいる一際大きな固体がプリシラを抱き上げて今まさにその女淫にペニスを突き込もうとデモンストレーションをくり返していた。
「手出しが出来ないのです……どういたしましょう?」
 その場で輪を作っている兵士達はプリシラの姿が気になり、そしてその身を案ずるあまり手が出せずにいた。
「あふ……熱い……ああああ……熱いのぉ〜」
 プリシラはトロルの腕の中で最高の快楽を与えられる瞬間を待ち侘びていた……
「幻覚だ……切れ!」
 新王の命令は即座に実行に移された……
 幾人かの影が瞬時に間合いを詰めそして……弾け飛んだ……
「ぬるい……」
 アイシャが剣を構えてその場に立っていた
「傀儡師の仲間と言うわけか……いいだろう、かかれ!」
 今度は動き出そうと思った途端に兵士達が爆発に飲み込まれて消し炭に変えられていく
「な……マスタークラスの術師がいるのか……」
 兵達は動揺し浮き足立つ、動いた瞬間には消し炭になるかもしれない、それを潜りぬけても剣先鋭い剣士がいて、そしてそのあとでトロルなのだから……
『注目!』
 その場にいる全ての人間の頭にその声は響き
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
 衆人環視のなかでプリシラの股間にトロルのペニスが突き立って行った……
「あぐぐぐぐぐ……痛い……痛いよぉ……お兄様……」
 夢から覚めたように今までの快楽とはあからさまに違う刺激にプリシラはうろたえていた。


 引き裂かれる痛みの中にあって開発された肉体は快楽を貪欲に求めてその刺激を受け入れようとするものらしい……
「あ……あぶ……あぐ……ああ……お兄様……お兄様ぁ」
 そして、その様子を呆然と見守る兵達にとって終わりの瞬間は突然だった……フローライトの放った幾つかのファイヤーボールが炸裂した……
『思ったよりも呆気なかったな、王子……』
 本陣に残した兵力はけして小さくは無かったはずだ……が、現場としては新王の周りにいる幾人かの騎士を除き全てが焼かれて目の前ではトロルがプリシラを犯し続けると言う異様な光景が展開している
何とした事か……」
 そして何処にいたのか傀儡師が屈強そうな重戦士を従えてその場に現れた……
「お初にお目にかかるがこれより死出の旅を迎える方だ、自己紹介は省かせて頂こう」
 今目の前に人生最大の敵が打ちひしがれているのかと思ったら傀儡師は愉快でたまらなかった。
「気がすんだか? これで復讐は完了と言うわけだな」
 新王はそれでも臆した様子は無く傀儡師と相対する
「強がりですね、これであなたの計画も頓挫だ……
あははははははははははははははははははは、こんな愉快な事は無いなぁ!」
 戦力はここだけの物ではない、城塞の周りに配置している舞台を呼び戻せさえすればこの目の前の戦力くらい叩き臥せられる、が必要な時に必要な場所に必要な量の戦力……いまはそのどれも存在していない。
「死ねよ……王子……そうしたら他の軍は生かしておいてやる……」
 バカな事を言うものだが効果は計算していた
「それが取り引きになると言うのか?」
 選ぶものは決まっている、がそれを兵達に聞かせるものではない、覚悟を持って仕える騎士だけでは無いからだ……
「ふふふふ……じゃあ殺される方を選ぶのかな? 王子よ」
「前に忠告したはずだか、賊よ! 私は王であると、そして正道を歩まぬものよおのがみすぼらしい野望の前に何の勝ちを誇るのだ?」
 この時になっても王者の威厳は揺るがない、そしてそれは傀儡師の望んだ姿ではない
「くっ!殺してしまえフローライト! 何!」
 背後で控えていた重戦士が傀儡師を羽交い締めにしていた……
「貴様!」
「甘く見ただろ……術はとっくに解けちまってるぜ」

 先程までの勝ち誇った余裕は傀儡師から失われていた、目の前にフローライトが現れる。
「あんたの契約は……これだったんだね……」
 フローライトはゆっくりと傀儡師の股間からペニスを引き出すと口にくわえた……
止めろ! 止めないかフローライト!
 目の前で展開される理解不能の事態に騎士がゆっくりと動こうとするとその首先に剣が伸びて来た
ごめんね……すぐに終わる……もう少し待ってもらえるか」
 アイシャの眼光は鋭く、そして……
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 傀儡師が一際大きく叫ぶとフローライトが離れる
「くっ……んぐっ」
 口の端から傀儡師の精液を確認するように滴らせながら
「あんたの契約はこれだったんだね……私も成長がはじまった、もうすぐ魔術は使えなくなるし……その前に心の借りだけは返しておかないと気持ちが悪いからさ……」
 傀儡師は呆然とするようにその場に打ちひしがれていた……
「そんな……いつ気が付いたのだ……」
 フローライトを睨みながら
「なにね……あれだけ私達を人に嬲らせながら、最後まで自分でしなかったろ?」
隷属を誓ったはずだ!真言魔術師がその言葉を違えるのか!」
 状況が済んでしまってからとはいえそのうろたえようはみっともないものがあった。
「残念だね……私の契約ももう切れる……私はもう真言魔術師じゃ無いのよ……あんたが教えてくれた技が役に立ったよ……」
 男を喜ばせるいくつもの技、それは商品に付ける付加価値の一つだった。
 背後で大きな音がするとトロルの身体が裂けて倒れていた、アイシャはプリシラを抱き留めるとゆっくりと新王の方に歩き出した。
「アイシャさん?……」
 腕の中でプリシラはアイシャを見上げていた。
「姫には助けてもらったからね……出来れば処女も守ってあげたかったけど……」
 フルフルと首をふるプリシラは
「私は世間をあまりに知らなかったです……そして……今は悪い娘になってしまいました……」
 そしてその事が悪い事などとは思っていないように目の前まで来た新王とは対照的に安らかな表情だった。
「姫をお返しします……軍は引いていただけましょうか?」
「お兄様……私の為の戦いでしたら……引いて頂けますわよね」
 兄の元に歩み寄りながらプリシラははっきりとそう言い、新王の視線の先にはアイシャが頷いていた。
「迷惑を……かけたな」
 一言そういった新王にプリシラは裸のまま抱き付き、アイシャとフローライトは視線を交わしたあと笑顔になった。

 そして……戦争は終結した……


 敗戦を免れた城内は重苦しい雰囲気から一気に開放されて宴を繰り返していた。
「もそっと、もそっと近こうに寄らんか」
 知性と品位?を取り戻した国王の脇には綺麗に着飾ったフローライトが座っていた。
「王妃はお帰りにならないのですか?陛下?」
 眼鏡の向こうで意地悪く笑ってみせる彼女はすでに女の駆け引きを知っているようだ
「あれは疎開先で色々大変な思いをしたらしくな、今は療養ということだ」
 折角のドレスも早々と脱がされて大きなベッドの上にフローライトの小さな身体を投げ出すと
「胸も膨らんで来たのう……」
 その胸に顔を埋めながら……
「きゃぁははは……陛下ったら……育った私は嫌いになりますか?」
 不安そうな表情を見せるフローライトの小さな胸から顔を上げて
さて? どうじゃろうのう……」
 そしてすぐに笑い出し
「あはははは……私の為に全てを捨てて大人の身体になろうと言うものを嫌いになどなろうものか! 男とは王であろうとも一介の町人であろうともそう言うおなごに弱いものよ」
 そして終戦から何度目かの睦み事を行なう……
「さて……何処が気持ちいいのかはっきりと口で言ってもらうかのお」
 意地悪そうに王は笑い
「もう……ベッドの中は無言で言葉を交わすものですわよ……陛下……」
 フローライトもまたこの世で唯一、身体と心を同時に許す相手に身を捧げその行為は幸せに包まれる。
 このあとマスタークラスとしての地位を失い、それでも城に留まるとすれば色々と摩擦も生じるのだろう、が今はこの王の前で素直でいられる事が無上の喜びであった。

「プリシラ……何処へ嫁に行きたい?」
 新王は王としての責務の一つとして妹の今後を考えるしかなくなっている
「私はお兄様の元で国を支えとうございますが……」
 目の前で微笑む妹はただ優しいだけの少女では無くなっている
なら、嫁に行って……そして子を産む事だろうな」
 近親婚は王家にとってタブーではありえない、今の国内ではその方がおそらくは国民の指示を受ける事になろう、が目の前でトロルに饗された妹を今更愛せるのか?肉体的には別にして……心が
今私が外で子を成せば争いの芽が生まれましょう?」
 らしくない事を考えていると新王は思う、愛するなどと
「何処の国でも姻戚関係になる必要があるだろう、その上でその国をお前の子が継げば争いは生まれないだろう?」
 詭弁とそして……
「ですね、ですが……それは無理と言うものです……」
 ゆっくりと新王の脇まで歩み寄ると
「さわって頂けます?」
 プリシラは新王の手を自分の腹部に押し当てる
「なに!」
 戦争終結から一月の時間がたっていた……
「凄い生命力でしょ? 流石はトロルと言う所かしら……」
 トロルと人間の間にも子は生まれる、それはトロルの外見からは想像も出来ぬような綺麗な、そして生命力に溢れた子供だと言う。
「お前……」
 プリシラは頷き微笑む
「あの時あの場にいたものは遠ざけて下さいますわね」
 そう、時間的にもう新王の子として産ませるか堕胎……
「私、産みますよお兄様……」
 その覚悟をこの一月でしていたのであろうことは新王にも理解出来る。
「何故……産むのだ?」
 あの場にいた騎士達を遠ざける……その言葉の裏を考えながら新王は考える……
「さあ……私にも良くはわかりませんわ……ただ、この世の中思い通りには行かないものですね……ねえお兄様……」
 新王には妹の顔がよくみえなかった、ただ笑っているのだろうとは思えるのだが、何故笑えるのかは理解出来なかった……そして……この妹と夫婦になるのもそう悪い事では無いのではないかと思いはじめていた。

「お姉ちゃんもう平気?」
 フィルは旅支度をしているアイシャに気遣わしげな表情を向ける
「大丈夫よ、いつまでもふさいでいてもお金は入って来ないからね」
 アイシャもおどけて見せる
「何言ってるんだい、ほっといったってもう……」
 ゴスッ
 アイシャのげんこつがフィルの頭を直撃していた
「いったーーーーお姉ちゃんまだ慣れないのか?」
 アイシャは顔を真っ赤にしてうろたえていた
「慣れるって何よ……」
 今だにあなたと呼んでいない事をフィルは知っていた……
「式上げてどれだけになるのかな?」
 戦争が終ってアイシャは結婚した、そう重戦士の彼が打ち明けたのだ
「だって……」
「まあ、ぼくはの人がお義兄さんになって嬉しいよ……でもさ……お義兄さんが起きて来る前に……」
 三人で暮らすようになった、そして……
「大きくなってるのね……」
 アイシャは傅くようにフィルの前に跪くと前を開いて逸物を引き出した。
「元に戻らなかったわね……」
 傀儡師にされたその身体は普通の人には巨大過ぎるものになっている……
「舐めてよ……」
 まるで命令でもするように言うフィルの言葉に言われるままに舌を這わせていく
「ふぁあああああ……おは……お……朝から盛んだね」
 重戦士は姉弟の異常な行為もあっさり受入れて
「ああ、おはよう義兄さん」
「混ざるかな?」
 その宴に加わっていく
「ああ……これから仕事の……」
「嫌なのか? ん?アイシャ」
 惚れて一緒になった男は奴隷のように女を扱った……
「くぅ……」
 三人は事件の痛手を寄り添う事で埋めようとしていた……それが他人から見て異常にも見えるこの状態が平静を保っていられるのかもしれない……それは今だけのことか……それとも……
「行くぞ! 行くぞぉ」
「姉さん気持ちいいよ!」
「あああああん……イクゥ……」
 そして……そして……

 




 そこは暗い闇の底であった……
なぜ……なぜ殺さない……なぜ……」
 傀儡師は……いや力を失い今はただの男となったものは牢獄の底で蠢いていた……
「必ず、復讐してやる……悪魔とだって契約してやる……
滅ぼしてやるぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお
 憎悪でその怨念が燃えていた、が彼が歴史上にもう一度登場したと言う記録は残っていない……





  終わり……