校外に出て別の小学校に向かう数美が、道中ゴーミンにばったり出くわした。
「これはこれは数美先生! こんなところで会うとは。まったく奇遇だな!?」
「何を言うの!どうせ待ち伏せしていたくせに!」
 心の中でそう毒づきながら、数美はゴーミンを無視したまま進んでいく。
 当然ながら校外での移動中も時間はカウントされている。今この時もタイムリミットは刻一刻と近づいているのだ。一秒も無駄にできない。
「そんなに急いで一体どこへ行くんだ?……それにこの時間帯は確か授業中じゃなかったかな?」
「ほっといてちょうだい。私、急いでいるから!」
「オイオイ! 少々おかんむりのようだな? そんなに焦っていると、うまくいくはずの物事もうまくいかなくなるぞ!」
 なおも正面を見据えたまま突き進む数美に向かってゴーミンが言い放った、
「そんなに追い詰められているのなら、『算数チャレンジ』のルールを変更してやろうか?今のままでは少々縛りがキツイだろう? 少し緩いものに変えてやってもいいが?」
「その手には乗らないわ!」
 一瞬立ち止まってそうとだけ言い返すと、数美はまたずんずんと歩き始めた。
 ザンギャックがこちらの窮状を見かねてルールの緩和なんてする訳が無かった。一見数美にとって救いになるような変更に見えて実は数美を確実に追い込むために仕組まれた内容になるにきまってる。
甘い誘いなんぞに乗るつもりは数美にはさらさらなかった。
「どうやら嫌われてるようだな? まあいい。では一つだけ教えておいてやろう。自分の事ばかり考えていては、良い先生になんてなれないぜ」
 そう言い終わると、ゴーミンは数美を追うのをやめ、歩道に突っ立ったまま数美の方を見ながらじっとしているのだった。
 制限時間が残り少なくなっている数美は、ゴーミンを振り返ることもなく前へ進み続けた。
「少しは今苦悶部屋へ送られた生徒たちの運命を考えてみても良いと思うのだがな……」