発車してしばらくすると、車両内でチラホラと美月に携帯を向ける客が増えてくる。
 カシャカシャと電子音が聞こえ、盗撮されているのがわかる。
 そんな中、電車の奥からファンだと言う学生が声をかけてくる。
「すいません、青柳美月さんですか?」
 ゴーミンが学生を美月の前に通す。
「写メ撮っても良いですか?」
 そう言って、おずおずと携帯を取り出す。
「もちろんです。」
 台本には客の要望には全て応えるよう書かれていた。
「ありがとうございます。」
「え?じゃあ、俺らも良いですか?」
 その場にいた男達も自分達も写真を撮りたいと言ってくる。
「ええ、もちろん良いですよ。」
 男達に向かって笑顔を浮かべ、ピースサインを作る。
『早く……終わらせて……』
 笑顔が曇る前に撮影を終わらせて欲しい……美月の目は笑っていなかった。
 カシャっと電子音がし、撮影が終わった事を知らせる。
「ありがとうございました。次回作、楽しみにしています。お仕事、頑張って下さい。」
「ありがとう。頑張ります。」
 ファンに応えて手を振る。
『この人は何も悪くない……』
 学生は目の前でニコニコ笑いながら美月のAVで何が気に入っているとか、どのシーンが良かったなどと感想を言い続けている。
 どの内容も美月にとっては思い出したくもない内容だが、笑って学生に感謝を告げる。
 駅に着くと、学生は頭を下げてお礼言って降りていった。