「ねぇ、待って」
 ハミィは無理矢理に笑って、サーベルドグラーの行く手を遮った。
「あなたはモモコさんが産んだ子供よね?」
「ダ、ダメよ……そんなことしたら……」
 出産直後で息も絶え絶えのモモコを覆い隠すように立ちはだかるハミィ。
「ママに甘えたい気持ちも分かるけど、モモコさんは疲れてるんだから、ちょっと休ませてあげてくれない?」
 首を傾げながらも目線を外そうとしないハミィを見下ろして、サーベルドグラーは残虐的に口を歪ませた。
「邪魔をする気か?」
「……え?」
 サーベルドグラーの醜悪な貌が間近に迫った時、ハミィははっきりとした狂気の感情を悟った。熱くムッとする息が頬を撫でる。
「臭いっ!」
 いやらしい悪臭を手で払い除けた途端、ハミィの体は地面に押し倒された。
 胸から倒れ込んだ形で息が詰まる。
「痛い……離して……」
 ハミィが抵抗しようとするも、俯せの体勢で若々しいお尻を持ち上げられた恥ずかしい姿勢を強いられた。
 強力な万力で挟まれているかのように、腰骨がミシミシと軋む。
「や、やめ――」
 緑かかった黒髪の後ろ毛にビチャビチャと唾液がこぼれ落ちた時、ハミィは危険を感じて顔を背ける。
 ザクッ!
 サーベルドグラーの頭の上の鋭く研ぎ澄まされた剣が、地面に深々と突き刺さる。あと一瞬でも遅れていたのならば、ハミィの頭は永遠に地面に固定されただろう。
 パラパラと黒髪が舞い落ちる。
「ひぃっ!」
「目障りな女ダ」