※注※
このSSは一部の性嗜好(ボテ)に特化しています。
よって、そういった嗜好に嫌悪感を抱く方の閲覧はお奨めできませんし、
また、そうでなくても一般的な性描写がほとんどないため
興味のない方には楽しめない可能性が十分にあります。
どうかご注意下さい。









『雌伏する邪悪の胎動』 (The Ivy’s Episode From 『Soul Calibur』)



 時は十六世紀、スペイン北西部から生じ、瞬く間にヨーロッパ全土へ広がった噂話『ナイトメア』。だが、その恐怖の蒼騎士の話題もいつしか口にのぼらなくなり、その広まり同様急速に人々から忘れ去られようとしていた。そんなある日の夕方、ドイツ山間部にひっそりと存在する小さな農村は、1人の奇妙な旅人を迎えていた。

 それは、確かに奇妙な訪問者だった。女性ながら180p近くの長身に、夕陽を照り返すような銀髪のショートヘアー。
 その長身を包むのは黒レザーのボディースーツ。左腕こそ肩から指先まで甲冑で覆われているものの、胸元や太腿、果ては形良く引き締まった臀肉までがもが露出している大胆なデザインは、豊満な身体を視線から隠すよりもむしろ、強調するように人々の目に晒している。
 都会から遠く離れたこの田舎村では、その姿はまるで別世界の住人だった。
 だが、特筆すべきは彼女のその腹部であろう。ちょうど胸下から腹部のパーツが切り抜かれているボディースーツからは、窮屈だといわんばかりに大きく肥大した腹が迫り出していた。他の箇所が実に扇情的なだけに、膨らんだ臨月腹を隠しもせずに剥き出しにしているその姿は、いや、そもそもこんなに身重な腹を抱えた妊婦がそんな肌を露出した格好をしていること自体が、異様な雰囲気を醸し出していた。

 そして、その希有な格好に違わず、その女性、アイヴィーことイザベラ・バレンタインの様子もまた尋常ではなかった。
 もしここに彼女を、キツい言動とそれを可能にする腕前、そして妖しい美しさで屈強な男達でさえ一目を置いていた女剣士アイヴィーを知る者がいたら、そのあまりの変わりように驚いたに違いない。
 顔は前方を向いてこそいるが、かつては鋭い眼光を宿していたその瞳は虚ろで焦点が合っておらず、だらしなく半開きになった口から舌をのぞかせ犬のようにハアハアと大きな息をついている。その額に、いや、全身にもじっとりとあぶら汗を滲ませ、時折足を止めて瘧にかかったように全身を震わせるのは、見るからに圧迫感を与えていそうなその腹のせいか。明らかに苦しそうなのに、そのくせ決して立ち止まろうとせず何かに憑かれたように歩を進め続けるその姿は、ある種の狂気にも似た凄惨さすらまとっていた。 
 年の頃は二十代後半であろうか、その美しく整った顔立ちは確かに、今は没落したもののイギリスの名門バレンタイン家の一人娘、イザベラ・バレンタインのものである。だが凛とした気品を失い、霞がかかったような瞳をしたその美貌は、初めて彼女を見る者たちにはまるで痴呆か狂女のような印象を与えるだけだった。

 小さな村のこと、その余りにも異様な妊婦はたちまち視線を集めた。ある者は眉を顰め、またある者は好色な視線を向ける。
 だが、当のアイヴィーはそんな人々の反応を認識すらできないのか、気に止める素振りも見せなかった。人々の注目を一身に集めながら、村を横断する街道をおぼつかない足取りでよろよろと進んでいく。また、人々も興味こそ持ちながら、面倒事には関わりたくないとばかりに敢えて彼女に声をかける者はいなかった。一部を除いて。
「よお、姉ちゃん。こりゃまた随分大胆な格好してるじゃねえか」
「旅してんのかい? ヘヘヘ、今にも産まれそうじゃねえか。どうだい、俺たちがいい宿を紹介してやるぜ」
 見るからにガラの悪そうな2人の若者が、アイヴィーに声をかけた。行く手を阻むように街道に立ちはだかり、隠そうともせず顔にいやらしい笑いを浮かべている。ぶらぶらと仕事にも就かず、いつも一緒に悪さばかりしている村の鼻つまみ者たちだ。
「うあ……」
 言葉になっていない声を上げ、アイヴィーが声をした方向に顔を向けた。だが、そのぼんやりとした瞳は、やはり今自分が置かれている状況を正確に認識しているようには見えない。
(オイ、やっぱりこの女頭イカれてるみたいだな)
(ヘヘヘ、じゃあ話が早いじゃねえか。さっさと連れ込んじまってたっぷり楽しもうぜ)
(……だな!)
 その反応に二人は目で会話し、ニンマリと笑う。おおかた気の触れた女が男に玩具にされた挙げ句、孕んでしまって邪魔になったから捨てられたのだろう。だったら俺達が気兼ねすることもない……男達は、そう自分たちに都合の良いように納得する。両側からアイヴィーを挟み込むよう立つと、なれなれしく剥き出しの肩や腰に手を回した。それでも、アイヴィーはポカンとした顔で2人を見るだけだった。
「OKかい? じゃあ行こうぜ。なんなら産婆さんだってつけてやるぜ」
「大丈夫、大丈夫。全部俺達に任しておきな。悪いようにはしないって」
「あう……」
 2人が、まるで抵抗のないアイヴィーを引き立てるようにして歩き始めた。行く先はもちろん宿などではなく、人目のない路地裏にアイヴィーを引っ張り込もうとしているだけだった。その光景を見ていた人々はこの奇妙な女性のその後を多少は心配したものの、厄介事はごめんだとばかりに次々に足早に立ち去っていった。

 2人はアイヴィーを路地裏に連れ込みレンガ壁に背を寄りかからせるようにして立たせた。そして周囲に人がいないことを確認すると、さっそくその肢体にむしゃぶりつきだした。
 1人が乳房を露わにしてそのたっぷりとした量感を味わいはじめると、もう1人は唇に吸いつきながら身体中をまさぐりだす。じっとりと汗に滲んだ肌が、手のひらに吸いついてくるような心地よい感触を返してきた。
 そうやって2人の男にへばりつくように愛撫されても、アイヴィーは相変わらずぼんやりと虚空を見つめたままされるがままだった。だが、時折急所をとらえた男達の手によって身体をピクン、と反応させているのが、精神はどうあれこの肢体が成熟した性感を備えていることを証明していた。男達もそれを感じ取って、ますます粘っこく愛撫に熱を入れていく。
「たまんねえぜ、この女。やっぱ孕むまで犯りまくられたんだろうなあ、いいカラダしてやがる」
「これでもうちっと反応がありゃあ最高なんだがな。まあ多くを望んじゃいけねえか」
「へへへ、じゃあそろそろ本命といくか……」
 次第にアイヴィーの白い肌がピンク色に染まっていき、それに応じて乳首も固くしこり始めた。その反応に上機嫌になりながら、更なる段階へ進もうと男が臨月腹の下、股間を覆う黒レザーに手をのばそうとしたまさにその時、変化は突然に訪れた。

「っ……うっ、うああああああぁぁぁーっっ!!」
「う、うわっ! な、なんだ!?」
 それまで反応らしい反応をほとんど示さなかったアイヴィーが、いきなり絹を裂くような絶叫を上げたのだ。
 その声に驚いた男が、思わずのばしていた手をビクッと引っ込めた。それでも、アイヴィーの絶叫は止むことはなかった。一瞬前まで無表情だったその瞳に、はっきりと苦しみの色が宿っていた。あっとという魔に全身に玉のような汗を噴き出させ、股間を包むレザーを両手で覆って苦しみ悶えだす。
「お、おい……なんか、や、やばくねえか?」
「あ、ああ……ずらかった方が良さそうだな……」
 人形のようだったアイヴィーの突然の狂乱にしばし呆然としていた2人が、我に返ったように呟く。
 もともとアイヴィーの身体を楽しむだけ楽しんだらまた街道にほっぽっておけばいい、もしお楽しみ中に産気づいたら厄介だが、その時はその時だ、面倒なら逃げちまえばいい、と甘く考えていた2人だ。だが、目の前の事態は単純に産気づいたなどではなくて、何か尋常ではない別のものを感じさせた。
 だが、2人がこの場を離れる決断を下したのは、少し遅すぎた。


「あがっ、あががががああぁぁぁっっ!!!」
 さらに一際大きく、アイヴィーの絶叫が響き渡る。内腿に筋が浮くくらいに脚をピンと突っ張らせ、壁に背を預けたまま迫り出した腹を誇示するかのように腰が突き出される。と、股間に重ねられた手の甲の辺りから、魔法のように炎が噴き出した。
「う、うわっ!」
「な、なんだ!?」
 いや、実際には、アイヴィーの胎内から産道を通って、レザーや重ねられた手を透過して炎が噴き出している……信じがたい事だが、そうとしか思えない光景だった。
 二人が言葉もなく呆然と見つめる間にも、炎は次々に胎内から放出されていく。これだけの量の炎が発せられながら、不思議なことに全く周囲の温度が上がる気配はなかった。そしてその炎は明らかに物理法則に逆い、消えることもなく空間に集まって一つの固まりを成していっていた。

「あがぁっ! おごおぉぉっ! あおおおおぉぉぉぉッッ…………」
 プシャアーッ!……
 愛液か、小水か、それとも羊水か──。
 衝撃に耐えかねて、股間から液体が迸る。それはピッタリと肌に密着したハイレグの隙間から染み出し、アイヴィーの内股を濡らしていった。だが、炎はそんな程度の水などまるで意に介さず─そもそもこの不可思議な炎が水をかけることで消えるとも思えないが─噴き出し続ける。
「ひぎっ! ひぎっ!! ぐひぃ!!!」
 ついには獣のような叫び声を上げながら、胎内から噴き出す炎を押し止めようとするかのように、アイヴィーは一層固く重ねた手を股間に密着させる。だが、炎はそんな努力を嘲笑うように、ますます放出する勢いを強めていった。腰を突きだしたままの全身が、身を振り絞るようにブルブルと震える。ほとんど白目を剥き、突きだした舌の先までが戦慄いているのが何とも哀れだった。
 だが、声がかすれる程搾り出された呻吟の声は確かに苦悶に満ち溢れたものではあったけれども、徐々に何処か解放される事の安堵も感じさせる響きも強めつつあった。実際、炎が噴出されるに従って、見事に膨らんでいた臨月腹はみるみるうちに空気を抜いた風船のようにしぼんでいく。
「あはあぁ…………」
 そして、これが彼女の本来のスタイルなのであろう、そのウエストがついにキュッと形良くくびれる細さまで戻った時、ようやく炎の噴出も止まった。
 凄絶な「出産」から解放されたアイヴィーが、壁に寄り掛かったままずるずると崩れ落ちる。まさに精も根も尽き果てた、といった感だった。そのまま、死んだように固く目を閉じ、大きく肩で息を付く。髪を汗でべったりと額にはりつけ、ハアハアと喘ぐその姿は、まさに初産を終えたばかりの若妻のような、不思議な艶っぽさまで感じさせた。
 そして、その胎内から生み出された炎は相変わらず消えもせず空間に漂っており、そして驚くことに今度は人型を取り始めていた。

「コノ程度ノカスナゾ美味クモナイガ……ダガ、今ハ文句モ言ッテハオレン……」
 その炎人、とでも呼べる者が、逃げだすこともできず、憑かれたようにアイヴィーの出産を見続けるしかなかった眼前の2人を見て、面白くもなさそうに呟く。いや、実際にはその声無き声とでも言うべきものは脳裏に直接伝わってきたのだが、2人は地の底から響いてくるような暗く重い声がハッキリと聞いた。その声に得体の知れない恐怖が膨れ上がり、それが一種のショック療法となってようやく二人の呪縛が解ける。
「ば、ば、ば、化け物だぁ!!」
「な、何なんだ!? 何なんだよ、お前は!?」
 ガクガク震えながら、2人は裏返った悲鳴を上げる。そして、恐怖に駆られるままにさらに悲鳴を上げようとした時、既に1人の首は胴体から離れていた。炎人がいつのまにかアイヴィーが腰に下げていた剣を手に持ち、無造作にそれを横に振るったからだ。
「ひっ、ひいぃっ!?」
 相棒の余りにあっけない死に、残されたもう1人が後ろを向いて逃げ出す。だが、必死に走って3メートルほど離れたところで男も相棒の後を追うことになった。『アイヴィーブレード』……アイヴィーだけが操れる伸縮自在の蛇腹剣が形状を鞭のように変え、心臓を背中から無慈悲に貫いたのだ。
「……魂……モット極上ノ魂ガ欲シイ! オノレ、我ガ力サエ蘇レバ……」
 あっという間に肉塊に変わった2人の魂を喰らいながら、炎人・インフェルノは渇望する。この炎人の姿こそ、自らの意思を持つ魔剣『ソウルエッジ』の邪念が具現化したものなのである。数え切れないほどの魂を喰らった邪剣ソウルエッジにとって、今さら1人2人の小悪党の魂など何の魅力も感じられない。だが、背に腹を変えられない今の事態にあっては、それでもそれを糧として少しでも力を蓄えなければならなかった。

 ソウルエッジは所有者の経験に合わせ常に最高の力が発揮できるように形を変える伝説の剣であるが、その実、所有者の意志を操ることで殺戮を繰り返し魂を貪り食う意思を持った邪剣である。そのソウルエッジの宿主となりヨーロッパ全土を恐怖で震撼させた『蒼き悪夢』ナイトメアことジークフリート・シュタウフェンが倒された時、さすがの邪剣もついに消滅の時を迎えるかと思われた。だが、ジークフリートの仲間としてその場にいたアイヴィーが新しい宿主になったことで、辛くも消滅の危機を脱することができた。ソウルエッジが万一に備えて用意しておいた宿主の「スペア」が、これ以上ないという時にこれ以上ない働きをしてくれたのだった。
 しかし、消滅の危機を脱したとはいえ、ソウルエッジの力の消耗は甚大だった。ナイトメアを利用して多くの魂を喰らい蓄えつつあった力は、その大半が失われてしまったのである。何しろ、ソウルエッジの最大の力ともいえる宿主の精神の乗っ取りもままならないほどだったので事態は深刻だった。
 このままでは、いずれ邪剣を破壊しようと迫り来る強力な追っ手に抗しうることは出来ない……
 窮地に追い込まれたソウルエッジは、一つの苦肉の策を弄した。姿こそこれまでのように宿主の使用する「武具」に変えたものの、その思念はそれに宿らずに、宿主であるアイヴィーの体内奥深く、子宮の中へと身を潜めたのである。胎児を育む場所である子宮はまた霊的にも非常に安定して滋養に富んでおり、精神的存在とでもいうべきインフェルノ=ソウルエッジが回復を計る際に、非常に居心地の良い場所であった。ソウルエッジはここをねぐらと定め、わずかに得られる糧も無駄にすることなくひたすらに回復に努めているのである。
 そして、これにはもう1つの利点があった。ソウルエッジの邪念はそれ自体が非常に強大な『邪気』である。そのどす黒い邪気が子宮を押し拡げて妊婦腹になるほど充満し、絶えず渦巻いているのであるから、その凄まじい苦悶はアイヴィーの体力、精神共に消耗尽くさせ、ソウルエッジによるコントロールを可能にしていた。アイヴィーは発狂するぎりぎりの所で踏み止まっている(というより、そのように加減をされている)ものの、その思考のほとんどを止むことなく苛まれ続ける胎内の苦悶に奪われ、とても冷静な思考判断ができる状態ではないのだ。そういった状態ならば、今の力を失ったソウルエッジでも、ある程度のコントロールすることも可能なのである。
 だが、もちろんこの策にも短所はある。何といっても、宿主をいわば心神喪失状態に追い込んでいるので、その戦闘力は皆無に等しい。現に、先程もつまらぬ若者2人殺すために、わざわざソウルエッジが胎内から這い出して、自らの手を下さねばならなかったのである。この状態では、執拗に邪剣破壊を狙う追っ手たちと遭遇したら、とても勝ち目はない。
「力ヲ、力ヲ蓄エテ、再ビ我ガ炎ヲ燃エ盛ラセナケレバ……」
 力さえある程度戻れば、アイヴィーを正気に戻し、改めてその精神を乗っ取ることができる。その時には、アイヴィーの愛用剣として腰に下がり、また思う存分殺戮を楽しみ魂を喰らうことができるのだ。そのためには、今は雌伏の時を過ごすしかない。追っ手に邪気を嗅ぎつけられぬようにアイヴィーの胎内でジッと息を潜め、先程の馬鹿な2人組のようにアイヴィーの肢体に釣られた男を殺して糧とする。アイヴィーは、餌を招き寄せる誘蛾灯でもあるのだ。

「サテ、ソロソロ我ガ寝床ニ戻ルカ……」
 インフェルノの炎が人型から、一本の長い紐状になっていく。その先端の向かう先は、いまだ気を失っているように壁に背を預けてへたり込んだアイヴィーの、大きく開かれた足の間だ。
「あがッ!? ひぎぎぎいぃぃーッ!!」
 魂もとろけるような解放感から一転、再び胎内への侵入を感じて、アイヴィーが電気を流されたように跳ね起きた。
 やっと与えられた至福の時間を奪われまいと、アイヴィーはイヤイヤをするように顔を左右に振りたくり、両手で必死に股間を覆う。だが、炎は出てきた時同様、やすやすとその手を、ボディースーツを通り抜け、アイヴィーの膣内に侵入する。
「がぁぁぁぁッ! あぉぉッ!! あががががぁッ!!!」
 物理的な実体のないはずの炎が子宮口をこじ開け、本来なら胎児を宿すべき部屋に乱暴にもぐり込む。さらに次から次へと侵入しては中でとぐろを巻き、無理矢理に子宮を押し拡げていく。その凄まじい苦悶に泣き喚き、白目を剥いて悶絶しながらも、アイヴィーに押し止める術はなかった。それでも、ほんの少しでも侵入を防げれば、と無駄とは知りながら股間を固く覆った手を決して離そうとしないのが哀れだった。
「おおおおおぉぉぉっ! ぎひいいぃぃぃっ!!」
 今や、アイヴィーの胎内で起こっている変化は外から見ていても一目瞭然だった。引き締まっていたウエストがまるで時間を戻されたように再び孕み腹に、それも短時間で戻っていく。膨張を続ける腹部の表面が不気味に波打つが、それもすぐに収まってなだらかな丸みを帯び、元の見事な臨月腹を形成していった。いや、新たに2人の魂を喰らったせいか、先程より心もちその大きさが増しているようにさえ見える。淡く血管が浮き出したその白い肌は、アイヴィーの身体が限界まで充填され、引き伸ばされているのを物語っていた。

「んんんっ、んむむ…………」
 インフェルノの全てがアイヴィーの中に収まった頃には、すでにアイヴィーは半失神状態だった。のたうち回るような膨張感に次いで、息をするにも辛いほどの強烈な圧迫感が再び蘇ってきたのである。しかも、こちらは二十四時間常に休まることがないのだ。だが、彼女の支配者たる邪剣にはそんなことは関係ないことだった。
「うあああっ!」
 アイヴィーの胎内で、我が物顔で居座るものがビクリと脈動した。それが、新たに進む方向を指図しているのだということをアイヴィーは悟っていた。誰が、何のために様々な命令を下すのか、いや、そもそも何故自分は胎内の蠢きからメッセージを受け取ることができるのか……それを考える余裕は、今のアイヴィーでは持てなかった。だが、朦朧とする意識の中で、何故かそれに従わなければならない、ということだけが強迫観念のように刷り込まれていく。促されるがままに、身体を起こす。
「ふううう…………」
 アイヴィーは疲れ切った身体に鞭打ち、剣を杖代わりにしてようやく立ち上がる。足に力が入らず、立っているだけで辛かった。それでも、懸命に力を振り絞って一歩、足を踏み出す。それだけで身体に、子宮に衝撃がビンビン響いてへたり込みそうになるが、それをグッとこらえて一歩、また一歩とその方角へ向けてヨロヨロと歩き始める。扇情的なボディースーツから禍々しく迫り出した腹を、それがもたらす生き地獄のような苦悶を抱えながら……

 その痛々しい姿を、沈みかけた夕陽が毒々しいまでの紅に染め上げていた。