『まどろみ』




 雄大な山々に緑豊かな森、そして穏やかに湖水を湛える湖……
 そんな静かな大自然に囲まれながらも、今日も柾木家は騒々しかった。
「てめぇっ、阿重霞! 天地をいったい何処へ隠しやがった!!」
「それはこっちの台詞ですわ! 魎呼さん、あなたこそまた天地様に何かちょっかい出したんでしょう!!」
「お義姉さんも奥さんもやめて下さ〜い! ご近所に筒抜けじゃないですか〜〜っ!!」
「お、お義姉さんって? 奥さんって誰? と、とにかく魎呼お姉ちゃんもお姉様も、ついでに美星お姉ちゃんも落ち着いてよ〜!!」
「みゃああん!!」
 もう日常茶飯事とも言えるようになってしまった光景。魎呼と阿重霞が言い合いを始め、美星と砂沙美が何とか2人の仲裁に入る。とはいえ美星は錯乱して訳の分からないことを口走っているようだが。そんな4人の足下で魎皇鬼はただ困ったように鳴いている。
 いつも通りの喧噪の原因は、いつも通り柾木家の一人息子、柾木天地だ。要するに、まだ十代半ばの少年を巡って何かと諍いが起こるのであるが、それは恋の鞘当てなんて言葉が似合う可愛いものではない。何しろ、かたや凶悪無比で知られた宇宙海賊・魎呼、かたや宇宙に冠する樹来皇家の第一皇女・阿重霞なのだ。この2人が己の破壊力も顧みず、時には死人でも出そうなくらいの激しさでやり合うので、全く持ってタチが悪い。
 さて、では当の張本人、柾木天地はというと……


       ◆


「まったく。毎度毎度あの娘たちもホント飽きもせずよくやるものね」
「ははは……」
 その光景を空中に出現させたスクリーンに映し出させて、鷲羽が呆れたように呟く。それに対して天地は争いの原因が自分なだけに、乾いた笑いで返事するしかなかった。
「でも……」
 鷲羽がスクリーンから視線を天地に映す。その瞳は先程の呆れた表情ではなく、悪戯っぽい色に変わっていた。
「当の想われ人が他の娘とくっついちゃってるんだから世話ないわよね〜」
「は、はあぁ……」
 揶揄するような口調で発せられたその言葉に、天地はため息をついて下を向く。そんな困惑しきった表情の天地を、鷲羽は「にしし」と意地悪な笑みを浮かべて見上げ、そしてやや後ろに座っている天地の胸元に寄り掛かるように身体を傾けた。小柄な身体をすり寄せるように身を預ける様は、まるで子猫がじゃれているようだ。

 ちなみに、今の2人がどんな格好をしているかというと……
 天地は上半身裸で、下半身は白いシーツの中に隠れている。鷲羽に至ってはシーツを胸元まで引き上げて身体を隠していた。その仕草は、まるで甘いラブシーンを終えた直後の映画ヒロインのようにどこかしどけない。本来なら、どう見ても12、3歳にしか見えない少女にそんな雰囲気は不似合いなだけのはずなのだが、何故か今回に限っては怖いほどにその様が絵になっていた。もちろん、シーツから覗く滑らかな肩や背中には、衣服の類を着用しているような様子は全く見えない。しかも、よく見るとその肌はほのかに紅潮しているようにも見受けられ、およそ少女の外見からは似つかわしくない艶っぽさまで醸し出していた。
 そして、そんな格好のまま、2人は仲良く「ベッドの上で」身を寄せ合って座っているのだ。ついでに言うと、当然2人が居間や台所でこんな格好をするはずもなく、ここは鷲羽の広大な個室の中のベッドルームに使われている空間である。
 この状態からこの2人が少し前までいったい何をしていたかを想像するのは決して難くないだろう。

 2人がこんな関係になったのも、元はといえばまさに現在スクリーンに映し出されているような連日の魎呼と阿重霞の喧噪に端を発していた。日毎に衰えるどころか激しくなるばかりの「天地争奪戦」から安息の場を求めて、ある日天地がたまたま鷲羽の部屋に天地が転がり込んだのがそもそものきっかけだったのだ。
 何しろ、自称・宇宙一の天才科学者の鷲羽の部屋は元は物置だった部屋を勝手に亜空間につなげて構成されているので、そもそもどのような間取りになっているかすら部屋の主以外にはわからず、下手に足を踏み入れると迷子にすらなりかねない。その上に、特に他人の立ち入りを拒むような空間は厳重なプロテクトが施されているので、鷲羽の許可がなければとても立ち入ることは不可能なのだ。時々偶然の天才である美星が恐ろしいまでの確率を乗り越えて辿り着いてしまうこともあるが、それを除けばまさに何者の侵入をも防ぐ鉄壁の要塞ともいえる場所である。
 そんなわけで、それ以後何かあると天地が難を避けて鷲羽の部屋を訪れ、その度にやれ実験だの身体検査だの何だのと2人でいちゃいちゃ(?)するうちに、いつの間にか深〜い関係になってしまったのである。

「あ!?」
「え、どうしたの?」
 突然声を上げ、指を鳴らしてスクリーンを何処かへ消し去った鷲羽に、天地は内心ギョッとして尋ねる。超マイペースな鷲羽はいきなり何かを思いついて実行することが多いのだが、それが「良からぬ企み」であることもまた多いのだ。そして、顔を上げてこっちを向いた鷲羽の顔がにま〜と何とも妖しげな笑みを浮かべているのを見て、今回もまた「良くない」方の企みであるのだと確信した。だが、今回は天地の読みもちょっと外れたようだ。
「ねえ〜ん、天地殿ぉ〜〜」
「な、何ですか?」
「ね、もう一度、し・な・い?」
「えっ、ええっ!?」
 上目遣いで天地を見つめる鷲羽の口から、甘い口調でおねだりの言葉が漏れる。それはどんな妖しげな実験や発明を言い出すかと身構えていた天地の予想から完全に外れていた展開だった。動揺する天地に、さらに鷲羽は冗談ではないのよ、と言わんばかりに瞳を潤ませ、絡みつくような熱っぽい視線を送る。年端もいかない少女のあどけない顔に蠱惑的な微笑みを浮かべ、男を誘う。それはどう見ても十代前半くらいの少女にしか見えない外見ながら、その実、地球の常識など遙かに及ばない実に2万年以上もの年月を生きている鷲羽にしかできないものだ(天地に『鷲羽ちゃん』と年下風に呼ばせているのは、あくまで彼女の趣味である)。その姿に思わず魅入られ、カアッと頬が赤くなり鼓動が早くなるのを感じながらも、しどろもどろに天地が言葉を紡ぐ。
「で、ででででも! ちょ、ちょちょっとわ、鷲羽ちゃん……っ!」
「う〜〜ん、天地殿のいけずぅ」
 もう何度も、つい先程だって関係しながら、それでもいざ迫られると真っ赤になって舌が回らないほど動揺する。そんな生真面目さ、純情さを好ましく思いながら、鷲羽はさらに悪戯っぽく、甘えるように囁きながら緊張した天地の身体に抱きつくと、自身の体重を掛けてゆっくりとベッドに押し倒していった。そして、なおもたいして意味を成さない言葉を発しようとする唇を、自分の唇で塞いだ。
「うん……んん……あむむ……」
 最初は、唇を合わすだけのついばむようなキス。そして、天地の身体から緊張が抜けていくのを感じ取るに従って、次第に天地の口内に舌を差し込み、大胆に動かし始める。
 その巧みな愛撫に、天地は徐々に全身に、頭の芯まで、痺れにも似た快感が走り始めるのを感じた。すると、先程まで主導権を握っていた照れや気恥ずかしさといったものが薄らいでいき、代わりにそれらに覆い隠されていた正直な自分の感情が顔を出す。覆い被さってくる鷲羽を受け止めたい、いや、それだけではない、自分もまた鷲羽の柔らかな身体に触れたいという思いが。
「ふ……ふうん……あむ……はあっ……」
 徐々に、受け身だった天地の舌も自分の意志で動き始める。それを受けて、鷲羽の動きもますます積極的になっていく。舌を絡め痺れるほど吸い、吸われる。息をするのも苦しいほどピッタリと唇を重ね合わせ、互いの唾液を交換し、相手の口内まで舌を差し入れ、歯茎や上顎まで、至る所を舐め回す。かと思えば、唇を合わさずに突き出した舌だけを、もどかしげにユラユラと揺らしてこすり合わせる。
 ちゅぷ……ちゃぷ……ちゅっ、ちゅっ……
「うんん……はあ……ふあああ……」
「あむむ……ちゅむ……ちゅ……」
 いつしか天地も、そして鷲羽も、夢中になってお互いの唇を貪っていた。2人の唇の間からは淫猥な水音がひっきりなしに漏れ、溢れた唾液が唇の端を伝う。それでも飽くことなく、愛おしさと情欲に頬を紅く染め、2人は熱にうかされたようにただただ熱烈な口づけを交わし続けた。

「はあ、はあっ……」
「ふう……んはあ……」
 長い、長い貪りの後、ようやく唇が離れる。その間には、行為の濃厚さを物語るように銀色の橋が掛かっていた。離れるにつれその橋が途切れてしまうのを、何となく切なく見つめる。真っ赤に火照った2人の顔は、まるで強い酒に酔ったようだった。
「ふふふ……天地殿、随分キスが上手になったわね……素敵よ」
 陶然とした表情で、鷲羽は微笑む。そこには、いつもの茶化すような、悪戯っぽい笑みはない。内側から湧き上がる昂ぶりに身を灼かせ、熱っぽく瞳を潤ますその姿は、情事に耽る女性以外の何者でもなかった。
「ね……次は…………」
 キスを交わしている間、ちょうど太股に押しつけられる形になったそれが、固く、大きくなっていくのがシーツ越しでも手に取るようにわかっていた。もう一度、唇に軽くキスをすると、今度は天地の上に乗っかった身体を滑らすようにして、下に移動していく。その意図に気づき、恥ずかしさから上体を起こそうとする天地をやんわりと手で制し、胸、腹、さらにその下へと。目的地に辿り着き、下半身を覆っているシーツを剥ぐ。
「わっ……ふふふ……天地殿、立派ぁ」
「わ、鷲羽ちゃん…………」
 シーツをまくられ情けない声を上げる天地とは裏腹に、そこは隆々と力を漲らせて、存在を誇示していた。雄々しくそそり立ったその姿に、情欲の炎がますます煽り立てられる。その一方でまた、自分を求めてこんなにもしてくれているのかと思うと、キュッと胸をしめつけられるような愛しさも鷲羽は感じていた。
「あむ……」
「う、うあっ!?」
 根本に添えるようにして細い指を絡めると、膨れ上がった先端を口内に収める。そのまま表面に沿って周回させるように舌を動かすと、敏感な箇所にゾロリと舌が這わされる感覚に、天地の口から思わず声が漏れた。その声に背筋がゾクゾクするような快感を感じながら、鷲羽はさらに舌の動きに熱を込めていく。
「むぅ〜、ふうう……んむう……はあっ……」 
「ううっ、鷲羽ちゃん……うあっ」
 股間から全身へ、ジンジンと津波のように快感が広がっていく。鷲羽の巧みな技巧の前に、ただ天地は全身を横たえ、その快楽を享受することしかできない。そんな初心な、可愛いとも思える天地の姿にますます愛おしさを募らせながら、今度は鷲羽は大きく口を開くといっぱいまで肉棒を頬張り、ゆっくりと抽送させていく。その小さい口でできる限りまで含むと、ゆっくりと先端が口内に残る程度まで引き出し、そしてまた目一杯まで押し込んでいく。その動きは先程までの一方的な天地への奉仕ではなく、むしろどこか鷲羽自身が天地のモノで口内をいっぱいに満たして欲しい、と願っているような雰囲気が感じられた。その証拠に、徐々に激しく出し入れをする鷲羽の瞳は膜がかかったようにどこか焦点が合わずトロンと蕩け、特にこれ以上入らないという所まで迎え入れた時には、その小さな身体を抑えきれないようにピクピクと震わせる。喉の奥まで貫かれる息苦しさも、もはや快楽の1アクセントでしかなかった。
 湧き上がる快楽に頬を紅潮させ、蕩けきった表情で貪るように男のモノにしゃぶりつくその姿は、宇宙一の天才科学者を自認し、常に理知的な行動原理を第一とする普段の鷲羽の姿からは、とても想像できないだろう。

「わ、鷲羽ちゃん……お、俺、もう…………あれ?」
「ぷあっ……ハアッ、ハアッ、ハアッ……」
「あ……」
 熱くぬかるんだ口内の快美な感触にひとたまりもなく、天地はたちまち追い上げられてしまう。しかし、熱烈な口唇愛撫に昂ぶりを感じて口を開いたちょうどその時、鷲羽はズルリと口内から肉棒を引き抜いてしまった。そのまま、酸素を求めるようにハアハアと大きく息をつく。肩透かしを喰わされてしまった形となった天地は、思わず未練げな目を鷲羽に向けてしまった。そんな天地の視線を、鷲羽は蠱惑的な視線で受け止めた。
「ふふふ……ゴメンね、天地殿……でもね」
 悪戯っぽく、だがまるで駄々っ子をあやす母親のように優しげに言われ、思わず制されてしまう。
「……でも?」
「今度は、アタシも気持ちよくして欲しいの……ね?」
 唾液と天地自身の先走りの汁でヌラヌラと淫猥に濡れ光る肉塊を舐め上げながら、鷲羽は器用に身体の向きを入れ替えた。小振りなヒップが、仰向けの天地の眼前で悩ましげに揺れる。その姿勢から、首を捻ってもう一度天地を見つめる。
「ね、お願い……アタシも……天地殿と一緒に感じたいの……」
 その言葉は甘く媚びを含み、瞳は情欲にもどかしげに潤んでいる。お互いに高まりたいと言えば聞こえがいいが、実のところは、火照りに火照った身体は、もう天地に触れてほしくてどうしようもなかったのである。そうして淫靡に誘っておいて、自らは天地の屹立した肉棒を、口に含まずに今度はゆっくりとした動きで舐め上げていく。天地を絶頂に導くのが目的でなく、果てることないまま快感は持続するように。
 一方、天地はと言えば目の前であられもなくさらけ出された、鷲羽の秘所に目を奪われていた。
 2万年以上生きているとはいえ、あくまで鷲羽の外見は地球人でいえば12、3歳程度の少女に過ぎない。当然、秘められた箇所もそれ相応のよそおいで、飾り毛一本ないすべすべした肌に、ひと筋の亀裂が走っているだけだった。だが、そんな幼い姿にも関わらずその秘裂は少しほころびてピンク色の内側をのぞかせ、花蜜にたっぷりと潤っていた。
 ただでさえ女性の秘所を間近で凝視するという行為に加え、そのアンバランスさが背徳感にも似た情欲を呼び起こし、クラクラするような興奮に目眩すら感じる。まだ経験の少ない少年にとって、それは余りにも刺激的な光景だった。
 もじもじと羞じらっているのか、またはもどかしげに焦れているのか、熱っぽい視線を受けてよじれるように揺れるヒップの動きも、より一層身体の芯を熱くさせる。そして天地は、誘われるがままにその秘裂に舌を延ばした。
「ひゃんっ!?」
 鷲羽が、悲鳴のような声を上げて背筋を反り返らせる。熱く疼いていた媚肉をいきなり襲うヌチャリとした舌の刺激は鮮烈だった。そしてそれは、ここまでずっと主導権を握ってきた鷲羽が初めて上げた声だった。
「ああっ! ちょ、ちょっと、そんないきなり……あっ……ふああ!」
 鷲羽の声を聞いて、ますます興奮した天地が媚肉にむしゃぶりつく。いきなりの激しい口撃に鷲羽は思わずずり上がって逃げようとするが、天地ががっしりと腰を抱え込んでしまう。そしてぴったりと唇を密着させると、より一層舌の動きを激しくしていった。
「はあっ! 天……殿っ……つ、強すぎッ! ひぃんっ!」
 襞の一枚一枚まで丹念に舐めしゃぶられたかと思うと、今度は尖らせた舌先がスルリと奥まで侵入する。その先端に深い所をかき回されると、まるで脳の中までかき回されるようで頭の中がうつろになる。ようやく舌が抜かれホッとするのもつかの間、今度はすっかり尖りきった肉芽に目をつけられ、根本から引っこ抜かれそうな程強烈に吸引され、背筋を反り返らせる。
「ふああぁっ! だ、駄目ぇ! ひっ、ひいっ、ああああ〜〜っ!!」
「あっ、ああ〜っ! そこはやめっ、や、やあああっ!!」
 天地の愛撫は稚拙で乱暴ともいえるものだったが、強すぎて痛いくらいの刺激にも鷲羽の身体は自分自身でも驚くほどの敏感さで反応していた。天地の一挙一動ごとに全身に熱い電流が駆けめぐり、秘裂は滾々と熱い蜜を吐き出し続ける。その鷲羽の反応に、量を増す悦びの証に、天地は激しい昂揚感に包まれながらますます愛撫に熱を込めていく。そして、鷲羽は軽いアクメに何度も達していた。
「ああっ!? ちょ、ちょっと待って……天地殿っ! 天地殿ぉっ!!」
 連続するアクメに翻弄されながら、一際大きな波の接近を感じた鷲羽が、ほとんど反射的に叫び声を上げる。それはほとんど懇願にも近いレベルのものだった。その甲斐あってか、無我夢中で鷲羽の媚肉を味わっていた天地が、ようやくその動きを止めた。

 鷲羽が振り向くと、ストップをかけられた天地は何ともばつの悪そうな顔をしていた。そこでペースを再び自分に戻した鷲羽は、熱に浮かされたようにフラフラする身体をどうにか起こす。向き直って、今度は天地のお腹の上に馬乗りになって向かい合う姿勢になった。
「全くもう〜、天地殿ってばケダモノさんなんだからぁ」
「ご、ごめん……俺……」
 茶化すように言うと、天地は真っ赤になって自らの暴走を詫びる。この辺りが、まだまだ2人の経験の差だろう。
 とはいえ、鷲羽も言葉ほど余裕があるわけでもなかった。今や顔だけでなく、全身までがピンク色に上気し、荒くなった呼吸で肩は大きく上下している。もしももう少し天地が続けていたら、その唇と舌によって盛大に達してしまっていただろう。
「ねえ……天地殿。お口もいいけど、最後はやっぱり……ね?」
「う、うん……」
 後ろ手に、ずっと勃ちっぱなしのそれに指を絡めて、鷲羽が熱っぽく囁く。昂ぶりに余裕がないせいか、仕草がこれまで以上に悩ましい。うっすらと汗ばんだ全身からは、匂うような艶めかしさが滲み出ている。その嬌態に背筋をゾクッとさせられ、思わず生唾を飲んでしまった天地は何とか頷くのがやっとだった。
「ふふふ……じゃあ、鷲羽ちゃんに任せて……」
 一旦天地を跨ぐように立ち上がると、狙いを定めて徐々に腰を下ろしていく。それも、やや腰を突き出して、激しい前戯ですっかり花開き蜜にまみれている花弁を見せつけるようにして。相手が、遥か年下の純情な少年だからか。天地の前だと、自分でも驚くほど大胆になってしまう。
「ん……んんん……ふあああ…………」
「うわっ……」
 腰を下ろしていくに従って、鷲羽のトレードマークとも言える獅子のたてがみのような長い赤毛が、天地の太股をくすぐった。先端が入り口に触れ、そのまま半分程までが呑み込まれていく。熱く絡みついてくるその快感に、早くも天地は声を上げてしまった。そこからは、じわじわと体重を掛けて少しずつゆっくりと押し込んでいく。
「ふうう………んんんんん〜〜っ!」
 小柄な鷲羽のそこは、やはり天地の怒張を全て受け入れるには、少し小さすぎる。それでも、鷲羽は少し眉を顰めながらも、ゆっくりと腰を下ろし続ける。それは、ミリミリと己の体内に肉の杭をねじ込んでいく、そんな感すらあった。
「んんんんん〜っ、ああああああぁぁぁ〜〜〜っ!! …………ッ、はあっ、はぁっ……」
 そして、ついに鷲羽の下腹部と天地の下腹部がピッタリと密着する。鷲羽の口から、まるで体内に入った質量と同じだけの空気でも吐き出すかのように、大きな声が発せられた。そのまま、天地の胸板についた両手で身体を支え、ゆっくりと呼吸を整えていく。
「あ、あの……鷲羽ちゃん?」
「んん? どーしたの、天地殿」
「鷲羽ちゃんは、あ、あのさ……大人の格好にならないの?」
「なーんだ、天地殿。もしかしてアダルトバージョン鷲羽ちゃんの方がよかった?」
 鷲羽は自分の肉体的年齢をコントロールでき、今の少女の姿も、彼女がそれを好んでいるからとっているに過ぎない。そして、天地は一度、大人の女性の姿をとった鷲羽を見たことがある。鷲羽の本来の精神年齢に適合しているのであろうその姿は、地球人で言えば二十代後半から三十代前半だろうか、成熟した肢体を持つ妖艶な美女だった。その身体ならば、難なく天地の全てを受け入れることができよう。だが、鷲羽はこれまでの何度かの情事でもその姿をとったことがなく、それが天地には不思議だった。
 実際、鷲羽の小さな身体に収まった怒張は痛いくらいにきつく締め上げられており、突き当たった先端は行き止まりをムリに押し上げている感すらする。それはすなわちそれだけ鷲羽の負担も大きいということなのだ。
「いや……だって、そのままだと鷲羽ちゃん辛そうだし……」
「ふふふ……相変わらず天地殿は女心がわかってないのねぇ」
「えっ?」
「好きな男性でいっぱいにして欲しい……それが全宇宙の女性共通の願いってものよ。こういうのは『辛い』って言わないの。『嬉しい』って言うのよ。それを捨てるためにわざわざ姿を変えるなんて馬鹿げてるわ」
「……っ!」
 その言葉に天地は言葉を返せなかった。いつもの冗談ではない。目尻に涙を浮かべて、それでもニッコリと優しい笑みを浮かべる鷲羽の幸せそうな表情が、その言葉が本心からのものであることをを告げていた。天地の胸が不覚にもドキッと大きく高鳴る。その心の変化に、天地のなかのある箇所はいち早く反応していた。
「おやっ?」
「あっ………………」
「…………………………」
「しょ、しょうがないだろっ! 鷲羽ちゃんがいきなりあんなこと言うからっ……」
 思いもしなかった鷲羽のいじらしい言葉に、天地の肉棒が埋まったままビクンッ、と大きく脈打った。当然それが瞬時に鷲羽に伝わってしまうと、天地は真っ赤になって横を向き、開き直るように言い放った。だが、鷲羽は微笑んだものの、いつものように悪戯っぽくからかうようなことはしなかった。横を向いた天地には見えなかったが、その横顔に向けられた視線には、情欲よりもむしろ慈愛に溢れていた。
「嬉しいわ、天地殿。アタシで感じてくれているんだもの……あんんっ」
 天地への愛しさが心から溢れそうになった鷲羽が、上に乗ったままゆっくりと腰を動かし始める。腰を揺する程度から、徐々に天地の胸板についた手で身体を支えて上下させる。
「んん……ふあっ、ああん……ああああああっ……」
「んっ、鷲羽ちゃん……」
 嬌声を上げる鷲羽に誘われるかのように、天地も下から突き上げる。最初は戸惑いがちにおずおずと、そしてだんだんと勢いを増していく。そのまま、胸に手を伸ばしていく。
 「ふぅっ……んふうぅ……くぅ〜ん」
 ようやく膨らみかけたかという程度の、手のひらの中にスッポリ収まってしまう小さな乳房。だがそのくせ、先端の果実は充血して固くしこり、この身体が悦びに打ち震えていることを物語っていた。ピンク色の突起を指でつまんでクリクリといじってやると、ピリピリと弱い電流を流すような快感に、鼻にかかった甘い鳴き声が漏れる。その子犬のような声に触発され、ますます腰の動きに激しさを増す。
「ああっ、い、いいっ、うああ、ああっ!」
 力強い突き上げに、鷲羽は突っ張っていた腕を折って天地の胸に倒れ込んだ。本当なら天地の顔にキスの雨を降らせたいところだが、残念ながら2人の身長差では難しい。仕方なく、首に手を回して首根っこにかじりつくようにしてしがみつく。律動の主導権は、完全に天地に譲渡してしまった。いや、鷲羽の腰を掴んだ天地が、自分の望むように鷲羽に腰を振らせているというのが正確か。
「ひぃっ、ひいっ!」
 肉棒が最奥を叩く度に、頭の中までドスン、ドスン、と凄い衝撃が伝わってくる。その度に鷲羽は悲鳴のような喘ぎ声を発した。そのくせ、ほとんど無意識に、突き込まれる度にもっと強く最奥を叩くように腰の動きを合わせていた。叩き壊されてしまいそうな衝撃さえ快楽となって、身体を灼きつくす。
「ああああぁっ! んんっ! あんっ! うあああっ!」
「わ、鷲羽ちゃん! うんんっ!」
 二度目の上に前戯で寸前まで高めあっただけあって、2人とも絶頂は早くに近づいてきた。その瞬間に向かって、互いの身体を激しく貪るように腰をぶつけ合う。
「わ、鷲羽ちゃん、俺、俺もう……っ!」
「あ、アタシもっ!! 天地殿……ナカにっ! 天地殿! 天地殿ぉぉ〜っ!!」
 鷲羽の声が耳を打った瞬間、天地はすぐそこまで迫ってきていたものを解き放った。
「ん、んんっ!」
「あっ、あああああああああぁぁぁ〜〜〜〜〜っっ!!!」
 腰が蕩けてしまいそうな快感に天地は言葉を失う。そして鷲羽もまた、熱い迸りを胎内に感じながら激しい絶頂に達していた。


       ◆


「何だったら、しばらく休んでいってもいいわよ? 最近あまり寝てないんでしょう?」
「えっ……でも邪魔しちゃ悪いし……」
 寄り添うように横になってしばらく余韻に身を任せた後、どちらともなく衣服を身につける。いつもの作務衣に袖を通そうとした天地に、どういう原理か、あっという間にこちらもまたいつもの銀河科学アカデミーの制服を纏ってしまった鷲羽が声をかける。
「気にしなくていいわよ。晩ご飯のちょっと前には起こして上げるから。」
「そ、そう? じゃあ、ちょっとそうさせてもらっちゃおうかな」
 天地はその言葉に甘えることにして、作務衣を着るのを止めてベットに寝っ転がった。鷲羽が言った通り、実を言うとこのところ天地は睡眠不足だった。というのも、夜は夜で魎呼が夜這いをしようと天地の部屋に忍び寄り、それを阿重霞が阻止しようとする、といった事が毎晩のように繰り返されているのだ。直接2人が部屋の中に入ってくることは無いとはいえ、部屋の前でギャーギャーとやり合うので眠れるわけがない。
「ごめんね、鷲羽ちゃん。少し眠らせてもらうね」
「いーの、いーの。ホントにあの娘たちにも困ったものねー」
 ベットに背を向ける格好で椅子に座った鷲羽が、手だけ振って応える。その前には早くも空中からキーボードとディスプレイが出現し、およそ地球人にはさっぱり理解できない数式が羅列していた。彼女はだいたいの場合、その宇宙一の頭脳をフル回転させて様々な研究・発明に時間を費やしているのだ。その背中を少しの間見ていた天地だが、睡眠不足はよほど応えていたのか、横になるとたちまち眠りに落ちてしまった。


       ◆


 カシャ、カシャ、カシャ、カシャ、カシャ…………
 どれほど経っただろうか。不意に、鷲羽がキーボードを叩く手を止め、背もたれに身をもたれさせる。
「……今日は……一つも進まない…………」
 そのまま背筋を反らして天井を見上げ、誰に言うでもなくポツリと呟いた。
 原因はわかっている。
 気になるのだ。
 かすかに聞こえる寝息、ときおり寝返りを打つ時に立つ小さな音……
 その度に、自分の全神経がそちらに集中してしまう。
 天地の一挙一動が、気になってしまってしょうがない。
 鷲羽は、何度もその事実を笑い飛ばそうとした。
(馬鹿ね、それじゃまるで初めて恋を知った少女のようじゃない……)
 かつてアカデミー時代に短い間ながら学生結婚し、子供までもうけていた自分がそこまで初心じゃない。
 ましてや、自分はそんじゃそこらの科学者じゃない、宇宙一の天才科学者なのだ。
 その天才が、他人の存在に心を乱されて研究がはかどらないなんてことは……
 だが、どんなに笑い飛ばそうとしても聡明な頭脳はそれが否定できない真実だと理解していた。

「やーめたっと。今日はもうお終い!」
 こういう時の鷲羽の切り替えは早い。効率が上がらないまま続けても無駄なだけだ。こうした徹底した合理主義も彼女が宇宙一の天才科学者たる一因だろう。キーボードとディスプレイをしまうと、席から立ってうーん、と伸びをする。そして、ベットへと近づいていった。
「…………………………」
 鷲羽は天地の穏やかな寝顔をジッと見つめた。
 最初、自分がこの少年に好意を感じるのは、娘、自らの卵子を使用して製造した魎呼の影響だと思っていた。魎呼が天地を愛しく想う気持ち……それが自分と魎呼の思念をつなぐアストラル・リンク、いわゆる精神同調を伝わって流れ込み、自分の心も暖かくしているのだと。
 だが、今はそれは違うのだとはっきりわかっていた。
 確かに、魎呼の想いはきっかけではあったかもしれない。だが、今天地のそばにいて湧き上がってくるこの感情は魎呼のものでも誰のものでもない、自分自身のものであるとはっきり断言できた。
 自分が、鷲羽自身がこの少年を一人の男性として愛しているのだ。

「…………………………」
 そこまで思考に耽っていた鷲羽は、ふとある誘惑に駆られた。またまたどういう原理か、一瞬にして制服姿からパジャマへと着替える。そして、天地を起こさないように気をつけてシーツをめくり上げる。
「んふふふふふ〜〜」
 そう忍び笑いを漏らす鷲羽は、もう先程までのシリアス顔ではなく、いつものオチャメで悪戯っぽい少女の顔に戻っていた。そのまま、横を向いて寝ている天地の胸元に滑り込むようにベットにもぐりこみ、シーツをかける。天地が目を覚ましたら、どんなリアクションをしてくれるかと期待しながら。そう、鷲羽は宇宙一の天才でありながら、その外見同様子供っぽい可愛い悪戯が大好きなのだ。特に、大好きな人を困らせてしまうような悪戯が。
「ん……暖かい……」
 ベットの中は、程良い暖かさの楽園だった。ちょうど横を向いた天地の胸に抱かれる格好になって、鷲羽の身体が、心が、じんわりと暖かくなっていく。伝わってくる天地の体温をもっと感じたくて、子猫のように身体を丸めながらすり寄せる。そのまま目を閉じると、何とも言えない幸せな気持ちになれた。そばにいる、と実感できる天地の存在に、不思議なほど心が安らげられる。この幸せは、身体を重ねることで得られる悦びに満ちた幸せとはまた別のものだった。

「おやすみ、天地殿…………」
 これだけはどんなに科学を駆使しても再現できない、肌と肌を触れ合わすことによって伝わってくる、愛しい人の温もり。
 その心地よい温もりに包まれて、鷲羽はまどろみの中に落ちていった。






(後書き)
 OVA『天地無用! 魎皇鬼』から天地と鷲羽です(冒頭の美星のセリフはTV版からの引用ですが)。とにかく天地と鷲羽のラブラブ物を書いてみたかったこの作品、ただでさえ駄文な上に、私の力不足でキャラ説明が十分でないため、原作を知らない方には非常にわかりづらいだろう所が随所にあって恐縮ですが(蛇足ながら天地はそのまま『てんち』、鷲羽は『わしゅう』と読みます)、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。また、感想・批評等、どんなに些細なことでもありましたらお寄せ下さると大変有り難いです。
 最後に、HPの方向性とは異なる本作品を、快く掲載して下さったC・モンキーさんに深くお礼申し上げます。

ROGUE