そしてストーリーが動き出しました、さてこのヒロインの登場がこのあとのストーリーにいかような展開をってもうみんな期待してるですね。 |
【狂虐の研究所 第三話】 「室長っ!! どういうつもりですか!? 横沢生体研究所に対する捜査を打ち切るですって!?」 狭く飾り気もないが、多くの資料が機能的に整理された部屋に抗議の声が響き渡った。 部屋の名は「警視庁捜査部零課 別室 破壊活動遂行係」。 年々、過激化・複雑化の一途をたどる犯罪に対して非公式・非合法に対処すべく新設された諜報機関。国民に公にされていない警察のジョーカーというべき組織。 零課とはそういう存在なのだが、その零課の中からさらに有能・攻撃的性質をもつ精鋭を選んで編成された武装チームが「破壊活動遂行係」、通称「別室」である。犯罪組織に潜入し徹底的に調べ上げ、時には重火器を使用して事故に見せかけ壊滅させる…。CIAとSATを足して2で割ったような戦闘集団と言っていいだろう。 声の主は北条麗奈(ホウジョウレイナ)捜査官。 若干26歳にして別室に配属された英才だが、彼女の服装を見てソレを想像できる人間はいないだろう。ラフな短めのジャケットに、黒のフィットネスシャツ、スリムのジーパン。英才どころか、…どうひいき目にみてもスポーツショップで働くフリーターといった感じだ。捜査上の必要性というより個人的好みの服装らしい。 身長は169センチとやや高めだが、敏捷そうな体と豊かなボディーラインは女性の魅力に満ちていた。それに、薄いメイクで充分な凛とした顔立ち…、要するにスポーツタイプの美人なのである。 その麗奈が資料を手に、怒り心頭に達していた。上司の捜査方針にどうしても納得がいかないのである。 「横沢生体研究所は明らかに市村弘子失踪事件に関わっています。いくつかの目撃証言から間違いありません」 「それどころか証言を分析する限り、同研究所に対しては、その他にも現在から過去に至るまで、誘拐・人身売買・人体実験・臓器密売・殺人事件を起こしてきたという容疑を持たざるを得ません」 「証言の中には生物兵器・化学兵器を研究、完成させているという可能性を示唆するものすら…」 麗奈は一気にまくしたて、容疑を並べた上で再度、上司に問い正した。 「同研究所に対する潜入許可をいただけないどころか、捜査自体を打ちきる理由について納得のいく説明をしてください」 麗奈の剣幕にまったく動じることなく、別室責任者・神谷重明(カミヤジュウメイ)は一言で答えた。 「危険すぎる」 再び、抗議しようとする麗奈の気勢を制して詳しく説明を始めた。 神谷の説明は、事実を分析した断定的なものだ。 「潜入許可は与えられない。君から受け取った資料を見る限り、横沢生体研究所のセキュリティーは鉄壁だ。…要塞と言っていい。電子ロック・警備員・防犯カメラ・赤外線センサー・番犬のドーベルマン。それらの質と数は圧倒的であり、配置は芸術的ですらある」 「捜査の続行は認められない。物証を得ることは出来なかったし、証言をしてくれた人物はここ数ヶ月の間に全て何らかの事故で死亡している。これ以上、捜査を続けても時間と労力を消費するだけだ」 「最後に。同研究所の医療分野における貢献は、日本の医学界になくてはならないものだ。彼らを討つ…、すなわち彼らの最先端技術を失うことは国家的規模の損失につながる」 情報収集分析能力において、麗奈は神谷の足元にも及ばない。麗奈が知る限り、神谷の判断が間違っていたことは一度も無かった。危険な任務に携わる麗奈が今 生きているのは、全て神谷の命令に従っていたからである。 尊敬している。憧れに近い感情すらある。 …だが今回ばかりは引き下がれなかった。何の罪もない人間を研究所ぐるみで弄ぶ巨悪を、見過ごすなど彼女にはどうしても出来なかった。 「……私達、別室が敵を選んでどうするんですか?」 搾り出すような麗奈の問いに神谷は無言だった。 「大事の前に小事を切れと言うのですか?」 …研究所が実験材料として散らしてきた人達の人生と命。その苦痛と無念を思うとき、麗奈の胸はつまる。だが、室長神谷はあくまで無言だった。 ついに麗奈は資料を机に叩きつけて叫んだ。 「…あなたを軽蔑しますッ!」 そのままきびすを返して、部屋を飛び出していく麗奈の後ろ姿が見えなくなってから。ようやく神谷は本音を漏らした。 「……北条捜査官。君は知らないのだ、横沢生体研究所の恐ろしさを……」 神谷の言葉が聞こえない麗奈は、ただひたすら急いでいた。胸に重大な決意を秘めて。 (横沢生体研究所には攻撃あるのみ。命令違反は百も承知) 味方のサポートが望めない状況での単独潜入の危険極まる。仮にうまくいっても、処分は免れないだろう。だが。 許すわけにはいかない。何の罪もない人々の生命と人生を弄ぶ外道達を。むろん、麗奈は作戦を用意していた。神谷にも報告していない最重要情報、それをうまく使うことが切り札だ。勝算は充分にある。だが、そういった計算が彼女を動かしているわけではない。 「…急がないと。こうしている間にも、研究所では地獄を見ている人達がいるに違いないのだから」 ……それは、紛れも無い事実だった。 f麗奈が行動を開始した同刻、横沢生体研究所の一室で。美しい元女医の叫びが響き渡っていたのだから……。 《続く》 |