『獣姉妹〜The Immoral Sisters〜』 (From 『Soul CaliburU』)



「神よ……」
 敬虔深いソフィーティア・アレクサンドルは今日も神に祈りを捧げていた。家族の幸福、世の平和、神に祈りたいことは山ほどある。だが、ここ数ヶ月、ソフィーティアが何よりも真摯に祈るのは、もっぱら妹のカサンドラの身の上だった。
(どうか妹が無事でありますように……)
 かつてオリンポスの神託を受け、聖戦士として邪剣ソウルエッジ破壊に尽力したソフィーティアも、今は故郷で鍛冶屋・ロティオンの妻として二児をもうけ、平凡ながら幸せな生活を送っている。そんな姉に二度と辛い旅をさせたくないという思いから、カサンドラは邪剣復活の兆しを見せた数ヶ月前、姉の代わりにと半ば飛び出すように邪剣破壊の旅に出てしまったのだ。
 ソフィーティアはそんな姉思いの妹を嬉しく思う反面、それ以上に直情的で無鉄砲な感すらある妹の旅路が心配でたまらなかった。
「さて……お洗濯しなきゃ」
 祈りを捧げ終わったソフィーティアが立ち上がる。が、と同時に頭がクラッとして足がふらついた。
「え……?」
 一瞬立ちくらみかと思い、足に力を入れて踏ん張る。しかし、みるみる身体の力が抜けていき、それとともに意識が遠のいていく。ソフィーティアはそのまま、ゆっくりと倒れ込んでしまっていた。もしソフィーティアがもう少し正気を保っていられたら、自分の周りだけに闇がもやのようにまとわりついていたことに気づいただろう。
「あ〜あ、かつての聖戦士も無様なものねえ。やっぱり平和ボケですっかりなまっちゃったみたいだわ」
 睡魔に襲われるように気を失っていくソフィーティアの耳に、呆れ返ったような声が聞こえてきた。聞き覚えのあるその声は……


「……え……ん、ね……さん、ね……さんってば」
「んんっ…………はっ?」
 肩を激しく揺さぶられて、ソフィーティアは目を覚ました。ぼんやりと霞んだ視界が、徐々に明瞭さを取り戻していく。
「まったく姉さんってば。起きなさいって」
「あ……ああ、カ、カサンドラ!?」
 眼前の人物に、ソフィーティアは驚きに目を見開いた。見覚えのある勝ち気な瞳に、小悪魔的な、どこか挑発的にさえ見える微笑み。紛れもなく、昼夜無事を祈って止まなかった妹・カサンドラだった。全身を一望してみるが、幸いなことにこれという怪我もなさそうだった。
「よかった、無事だったのね……まったく、勝手に出ていっちゃうから心配したのよ……えっ?」
 満面に笑みを浮かべて妹を抱きしめようとしたソフィーティアだが、立ち上がろうとしてガクン、と拘束に身体を引き戻され、床に腰を打ちつけてしまう。そんな姉の仕草に、カサンドラはたまらずふき出して笑い転げた。
「プッ……ア、アハハハハハ……やだ、姉さんってば……アハハハ」
 そこで初めてソフィーティアは、壁にもたれるように座って両手を上に吊られた自分の姿勢に気づいた。どこかの倉庫だろうか、窓もなく、埃っぽい空気の漂う一室だった。
「ちょ、ちょっとカサンドラ! これは一体どういうこと!」
「ア、アハハハハ……ご、ごめん、姉さん、あんまり面白かったんで……く、苦しいっ、で、でも姉さん、やっぱ気が緩みすぎよ……いくら主婦業が暇だからって仮にも『元』聖戦士なんだから……」
 遠慮なく笑い続けるカサンドラに、さすがに心優しいソフィーティアも少しムッとする。
「いいから、早く手をほどきなさい。まったく……いくら悪戯とはいえ冗談が過ぎるわよ」
「ま、まあまあ、笑ったことは謝るから。それより姉さん、私の話を聞いてよ」
 まるで悪びれた様子もないカサンドラは、手でソフィーティアを制して要求を言外に却下すると唐突に話し始めた。

「旅に出た最初はね、結構調子よかったんだ。いろんな相手と戦ったけど連戦連勝で、こりゃ私もいけるかな?って思っちゃったし」
「でもね、情報もいっぱい集まって、調子に乗ってソウルエッジの持ち主って言われてる奴のところに乗り込んだら、何だか訳の分からない奴らが後から後から出てくるじゃない。さすがの私も人間相手ならともかく、あんな化け物ばっかりじゃあねー」
 カサンドラの言う『化け物』はソフィーティアも痛いほどよく知っている。ソウルエッジは自らを守る盾として、魔物の軍団を整備していた。呪法によって造りだされたゴーレム、人間と動物の合成実験の果てに生まれたリザードマン……その他諸々の異形の怪物達は、並みの人間には到底太刀打ちできない凶悪な力を持っている。ソフィーティアがカサンドラの身をひたすら案じていたのも、ひとえにソウルエッジ破壊のためにはこの怪物達との対決を避けては通れないからであった。
「それでね、あっさり捕まっちゃって犯られちゃった♪ そりゃあもう穴という穴を、って勢いで、う〜ん、二ヶ月くらいになるのかな? 監禁されて寝る間もないくらい化け物達によってたかって犯られちゃって……いやあ、参った参った」
「ちょ、ちょっと……あなた…………」
 ソフィーティアは信じられないものを見る目でカサンドラを見つめた。話の内容自体信じたくないものだったが、それよりも解せないのはカサンドラの態度だった。自らの悲惨な体験談を、さも楽しげに話してみせている。ケラケラ笑いながら言葉を紡ぐその様子には、無理に強がっているような感じは全くなかった。
(もしかして……このコ……)
 ある、最も恐れる可能性を感じて、ソフィーティアの心が警鐘を鳴らした。そんなソフィーティアに構わず、カサンドラは言葉をつなげる。
「でもね、最初はそりゃあ辛かったけど、途中からすっごく気持ちよくなっちゃったの。それと同時にだんだん思うようになったのよね。なんで人間はこういう快感、ううん、その他にもいろんな欲望を我慢しなくちゃいけないんだろうって。なんのかんの理屈をつけないで欲望のままに生きる、そっちの方がずっとステキじゃない?」
(やっぱり……! このコ……!)
 どこか熱に浮かされたように喋り続けるカサンドラのサファイアブルーのはずの瞳が、次第に爛々と金色の光を帯びて輝き始める。金色の瞳は魔性の瞳。ソフィーティアは確信した。
(ソウルエッジの邪気に魅入られている!)
 様々な手練手管で理性による抵抗力を弱め、その精神につけいって操ろうとするのはソウルエッジの十八番だ。妹は、まんまとその術にはまってしまったのだ。
「ソウルエッジを持つアイツは、今のこの世界を滅ぼしてそんな世界を作ろうとしているのよ。それってステキでしょ? だから私、今度はあっち側に手を貸すことに決めたの」
「そうそう、私ね、今そのナイトメアってヤツの女なの。すっごく楽しいのよ。そいつソウルエッジと肉体が融合しかかってるせいか底無しで夜は私をいくらでも泣かしてくれるし、配下の化け物達だって私の言うこと聞いてくれて、指図一つで村へ行って住民を皆殺しにしてきてくれるの」
「あ、あなた……なんてこと……」
 ソフィーティアは驚愕の思いでカサンドラの言葉を聞く。確かにカサンドラはじゃじゃ馬だ、男勝りだと言われているが、根は素直ないい娘で、姉から見ればそんな活発すぎるところも可愛く思える妹だった。それが、いくら邪気に憑かれたとはいえ、姦淫に耽り虐殺を楽しむようになっているとは……
「ね、どう、姉さんも来ない? 姉さんはナイトメアとも顔見知りなんでしょ? きっと大歓迎してくれるわよ」
「カ、カサンドラ……あなたはソウルエッジの邪気に操られているのよ! お願い、目を覚まして! 神の加護を忘れないで!」
「はあ? 何言ってんの? それを言うなら、姉さんこそ神様に操られてるんじゃなくて? だいたい、神様なんて私達に無償の信仰を要求しといて、その代わりに何をしてくれるっていうのよ。そのくせやっかいごとが起こるとすぐ人間に押しつけて。少なくとも私は小間使いじゃないんだから、用事を押しつけられて神託とかありがたがるような生活はまっぴらよ」
「な、なんてことを……カサンドラ、あなたはそんな娘じゃないはず。正気に戻って……」
 涙ながらに訴えかけるソフィーティアに、カサンドラはため息をついてやれやれと首を振った。どこか、憐れんでいるような感すらあった。
「はあ……まあ、姉さんならそう言うと思ったわ。ホント堅物なんだから。まあいいや、そんな姉さんが素直になれるように、あらかじめゲストを呼んでおいたから」
「ゲスト?」
 ソフィーティアが怪訝な顔をする。少なくとも、妹がソウルエッジの手に落ちた以上、そのゲストが歓迎したくないものであるのは明らかだった。
「そっ。きっと姉さんも喜んでくれると思うわよ。さ、入って」
 カサンドラが入り口の方を顎でしゃくる。と、ゆっくりと人影が部屋の中に入ってきた。

「あっ……ああああああっ!?」
「アッハハハハハハッ、どう、懐かしいでしょ?」
 ソフィーティアの顔に、激しい動揺が浮かんだ。先程まで毅然として対峙していたソフィーティアの表情の変わりように、カサンドラはしてやったりの笑みを浮かべる。
 入ってきたのは、一人の男。ただ、彼が尋常の男と違うのは強靱な四肢を覆う黄色がかった鱗、鋭い牙の並ぶ顎まで裂けた大きな口、イグアナを思わせる頭についたトサカ、そして爬虫類独特の凶悪めいた瞳。そう、それは人間と動物が合成した呪わしき生物、リザードマン。
 そして、このリザードマンは数多くいるリザードマンの中でも、ソフィーティアにとっては特別な存在であった。
「ま、まさか…………そんな、まさか!?」
「さすがにすぐ分かったみたいね。私はこいつらの見分けなんてさっぱりなのに。どう、『初めての男』とのご対面は? ウフフ、姉さん、聞いたわよ。まさかお淑やかな姉さんがあんなことしてたなんて……」
「い、いやあッ!!」
「何も照れることないじゃない。向こうじゃあ周りがあてられちゃうくらい仲が良くて毎日盛っていたんですって? あーあ、でもまさか姉さんが辺り構わず獣と腰振り合っていたなんてねえ〜」
「う、ううう……」
 カサンドラの言葉は真実である。聖戦士としてソウルエッジに挑んだ数年前、ソフィーティアもまたカサンドラ同様捕らわれ、徹底的な凌辱を受けたことがあった。その時、ソフィーティアの純潔を散らす相手となったのがこのリザードマンだった。その後苛酷な調教ですっかり己を見失い快楽の虜となったソフィーティアは特にこのリザードマンとは抜群の相性を見せ、いつしか自ら狂おしく求めるほどにこの人外の魔物との背徳的な交わりに溺れきっていたのである。幸いにしてソフィーティアは後に同じくソウルエッジ破壊を目指す東洋のくの一に偶然的に助け出され、正気に戻ったが、そこでのことは現在は良妻賢母として平穏な家庭を築くソフィーティアにとって二度と思い出したくない、思い出してはならぬ忌まわしい過去だった。
「姉さん旅から帰ってきてもそんな素振り全然見せなかったもんね。ある意味尊敬しちゃうわ。もちろん、あの鈍感な義兄さんじゃ気づくわけないでしょうけどね」
「ううっ……い、言わないで……」
 カサンドラの一言一言が、過去の傷を暴き、抉り立てる。それとともに、捨て去ったはずのめくるめく快楽の記憶までもが蘇ってきて、いけないと思いつつも身体が熱くなってきてしまうことが、なおさらソフィーティアを狼狽させていた。
「でもね、この人は姉さんのことを忘れられなかったみたいよ。あれからどんな女をあてがっても満足しないんだって。ほら、アイヴィーって年増、姉さんも知ってるでしょ?今はあの年増を毎日死ぬほど責めてヒィヒィ豚みたく鳴かしてるんだけど、それでもダメみたい。全く、そんなに長い間想われてるなんて女冥利に尽きるわね」
「…………」
 ソフィーティアは血が出るほど唇を噛みしばったまま、真っ赤に染まった顔を俯かせて何も言わない。そんな姉の姿を、カサンドラはさも心地よげに見つめた。
「ほら、愛しい女との再会でしょ。たっぷり可愛がってあげなさい」
「グゲエェェ……」
 カサンドラがリザードマンの肩をポンと叩くと、リザードマンはと一声不気味な雄叫びを上げて、ゆっくりとソフィーティアへ近づいていく。俯いていたソフィーティアがハッとして顔を上げた。
「……! あ、あああ……い、いや……」
 ソフィーティアはおびえて後ずさろうとしたが、もとより壁を背にしているので逃げようがない。ただ、フルフルと首を振るばかりだ。
「ひいっ、いやあっ!」
 ソフィーティアが短い悲鳴を上げた。床に腰を下ろしているので、自然顔の高さに眼前に立ったリザードマンの股間が来る。その牡の器官は懐かしい牝の匂いをかいだせいか、はや十分に屹立していた。
「どう、姉さん。久しぶりの愛しい人のモノは。ロティオン義兄さんのは見たことないけど、きっとそれより全然立派だよね」
「ああ…………」
 カサンドラのからかいにもソフィーティアは反応できないで、ただ鼻先に突きつけられた肉棒を怯えの表情で凝視する。すぐにも視線を逸らしたいのに、何故か吸い寄せられるように目を離すことが出来なかった。獣が発散するロティオンの、人間の男など比較にならない濃厚な牡の匂いに、頭がクラクラした。快楽に溺れた日々の記憶が、いやでも一層色濃く蘇ってくる。
「グルルル……」
「ああ……いやあ……」
 見せつけるだけでは満足しないリザードマンが、さらに腰を押し進めてきた。ソフィーティアは身悶えして矛先を交わそうとした。だが、首しか自由にならない身ではどんなに身をねじってもすぐに追いつめられ、唇に先端を押しつけられた。そこまでされると、もう観念したように自然に唇が開いた。
「うぐっ、うぐぐぐぐ…………」
 ゆっくりと、唇が裂けそうに巨大なものが口内に姿を消していく。灼棒にこすられる舌が、頬の内側が火のように熱くなった。みるみる身体から抗う力が奪われていく。
「んんっ! うむむむむッ……」
 リザードマンが一旦喉の奥まで突き入れてソフィーティアに目を剥かせると、少し腰を引いて余裕を持たせた。その意図を明確に悟ったソフィーティアは一瞬ちらりと許しを乞うように見上げたが、すぐに諦めたように目を伏せると、オズオズと舌を絡めだした。すると、リザードマンもゆっくりと肉棒を抽送しはじめる。
「うむ……はあ、ちゅく……んむ、んあ……」
(ああ……ど、どうして?)
 とうに忌まわしき過去は捨て去ったはずなのに、獣の肉に再び触れることで身体の芯がメラメラと燃え上がるのを感じてソフィーティアは狼狽した。舌が、唇が自然に動いて、牡に最大限の快楽を与えようと絡みつく。自らの肉が狂うのを恐れて夫との営みでは封印していた口技を、再び存分に駆使して奉仕することに痺れるような悦びすら感じてしまっていた。
「あむっ、ちゅば……んん、ちゅ、んああ……」
 いつしか、ソフィーティアは次第に霞んでいく理性の中でその行為に没頭していた。唇で締めつけ、舌をこすりつけ、喉で吸引する。
「うわあ……姉さん、凄い……」
 その横顔を半分驚き、半分興味津々でカサンドラが見つめる。どんな時でも上品で楚々としていた姉が、眉根をキュウッと悩ましく寄せたまま、上気した顔で男の一物に熱烈にしゃぶりついている。その一物の主が醜悪な怪物なだけに、その様は余計にエロティックだった。
「はじめて姉さんのこと聞いたときは半信半疑だったけど、これじゃあ信じるしかないよねえ……」
 半ば呆れ声のカサンドラをよそに、ソフィーティアの行為はますます激しさを増していった。淫らな水音が室内に反響する。
(ああっ、いやっ、アレが……アレが来る……!)
 口内の肉棒の脈動から牡の限界を悟ったソフィーティアが、ブルッと身震いする。そのくせ、あの熱い汁を飲まされるのかと思うと下腹部がキュンと締めつけられるような感覚に襲われ、唇もきつく肉棒を締めつけてしまう。そんなソフィーティアの喉の奥いっぱいまで肉棒を突き入れると、リザードマンがドッと引き金を絞った。
「あぐぐっ……うう、うぶっ、むぐぐぐぐぐ……」
 肉棒が喉の奥深くで暴れ馬のように脈打ち、ビュッビュッと熱い奔流を噴出する。その度にソフィーティアは白目を剥かんばかりに目を上向かせ、つま先をキュウッと反り返らせた。身体中の力をダラリと抜き、ただ注がれるがままに驚くほど大量の精液を嚥下していく。ドロッとした白濁が食道を通過して胃に流れ込む度にジクジクと鳥肌が立つような戦慄が背筋に走り、また身体を痙攣させた。
「うふぅ……げふっ、ハアッ、ハアッ………」
 ようやく肉棒が口内から抜き取られると、ソフィーティアはグッタリと首を折った。たったこれだけの行為で、全身が燃えるように熱い。長年、あの爛れた生活から引き離されてから身体のどこかでくすぶっていた何かに一気に火をつけられたような、妖しい情感を湧きたたせられる口唇奉仕だった。全身の力をしぼりきってしまったかのように、固く目を閉じ、ハアハアと荒い息をつく。額にはじっとりと汗が滲み、ほつれた金髪が数本へばりついているのがなんとも色っぽい。

「あら、姉さん。もう満足したの? でも、こっちはまだまだみたいよ」
「ええ……? あ、ああっ、いやあっ!」
 カサンドラの声に気だるげに目を開けるのと、リザードマンがのしかかってくるのがほぼ同時だった。
「遠慮しなくていいのよ、姉さん。私も分かってるんだから。一度こいつらの味を知っちゃったらもう人間の男じゃ満足できないってこと。姉さん、本当は義兄さんじゃ物足りないんでしょ?」
「い、いやっ! やめて、やめてぇっ! いやああぁぁっ!」
 刃物にも勝るとも劣らない鋭利なリザードマンの爪と牙がソフィーティアの衣服を切り裂くように剥ぎ取っていく。だが、一見乱暴に見えるその行為は、その実、ソフィーティアの皮一枚傷つけることなく、たちどころにソフィーティアを一糸纏わぬ裸に剥いてしまった。
「あ、あああぁぁ…………」
 両手を上に吊られているため胸を隠すことの出来ないソフィーティアは、申し訳程度に身体を丸めて少しでも身を隠そうとする。普段は透けるように白い肌は先程の奉仕に全身ピンク色に上気し、匂うような色気を漂わせていた。その成熟した大人の女性の色香に、同性のカサンドラさえ思わず目を奪われた。それを隠すようにリザードマンに声をかける。
「どう、何年かぶりのあんたの女は。ますますいい女になったでしょ? さあ、遠慮なく犯っちゃいなさいな」
「あッ!? そ、それだけは、いやあああぁぁぁッ!!」
 その言葉を合図に、リザードマンはソフィーティアの両脚の間に身体をこじ入れると、まるで萎えていない肉の凶器の先端を秘裂に押しあてる。どんなに身をくねらそうとも、不自由な身ではソフィーティアに逃れる術はなかった。そのまま、荒々しく一気に貫きにかかる。
「ひっ、ひいいいぃぃッ!!」
 凶悪な肉に押し拡げられる感覚に、ソフィーティアが悲鳴を上げた。だが、ソフィーティアも気づかぬところで、その媚肉はしっとりと濡れていた。そもそもリザードマンの性欲は獣と一緒で、女性を愛撫するという概念は持っていない。それ故に、かつてリザードマンと幾度となく身体を重ねていた頃のソフィーティアはいつの間にかこの牡の性臭に触れるだけで発情する身体になってしまっていたのだが、その慣習が今再び呼び起こされたのだろうか。その潤った粘膜を、灼棒が容赦なく掘り進めていく。
「はあッ!? ああっ、ああああぁぁぁッ……!」
 先端に子宮口を押し上げられて、ソフィーティアが「ひいッ」と声を上げてのけぞった。下腹部から脳天まで火柱が走り抜ける。リザードマンはその強靱な腕をソフィーティアの腰にまわすと、まさに獣の荒々しさで腰を突き込んでいった。
「いやっ……うむむ……ひっ、ああっ、ああああぁぁっ!」
 必死に噛みしめようとした唇がもろくも開かれ、ひっきりなしに生々しい声が漏れる。夫婦の営みのような徐々にお互いの情感を高めていくのとはまるで違う、性感を無理矢理こじ開け、こねくり回すような交わりに、ソフィーティアは成す術もなく悶え泣いた。媚肉を貫く肉柱に思考さえかき回されながら、次第に声を透き通らせていく。
「んんんっ、だ、だめっ! あああ……ひっ、い、いいっ」
 いつしかソフィーティアは激しく揺さぶられるままに、自らも腰を使い始めていた。真っ赤に染まった顔をなよなよと振りながら、口からはっきりとよがり声とわかる喜悦の声を上げる。
「ウフフ、姉さん、ずいぶん気持ちよさそうね。義兄さんとの時も、そんなに激しいの?」
「いやあっ、み、見ないで……ああ、た、たまらないっ……あ、あうう……」
 カサンドラが結合部をのぞき込むと、もうソフィーティアの果肉はしどどに濡れそぼって獣肉をくわえ込んでいた。その光景に半ば感心しながら言葉で責めても、ソフィーティアはもう自分の意志では腰の動きを止められず、むしろますます振りを激しくしていった。ロティオンのことを言われるのさえ、倒錯した妖しい情感の炎に油を注ぐことになった。火にくるまれたように敏感になった身体には人とは違う長く細い舌で頬や首筋を舐められるとゾクゾクした戦慄が走り、その刺激だけでも達してしまいそうになる。
「あ、あああっ、だ、だめ……い、いいっ……いいっ!」
「あーあ、すっかり盛っちゃって。じゃあ、これももう良いわね」
 予想以上の姉の乱れように苦笑しながら、カサンドラは吊っていた縄を切った。するとソフィーティアは無我夢中で両手首を結び合わされたままの腕の輪を、すっぽりとリザードマンの首にかぶせた。
「も、もうだめ……ああ、も、もっと……もっと、してっ」
 堰を切ったように汗みどろの表情でそう叫ぶと、ひしとリザードマンにしがみつき、乳房をザラザラした鱗に擦り付けるように身を揺すった。頬を舐める舌を自分から口中に吸い込み、思う存分に舌を絡める。それどころか、感極まったかのようにその薔薇色の唇でリザードマンの蜥蜴顔にキスの雨を降らすと、人間の頭部など簡単に噛み裂いてしまいそうな牙を恐れもせずペロペロと舐め回した。もう、貞淑な人妻のはずのソフィーティアは完全に数年前の、人外の魔物との背徳の情欲に溺れていた頃の状態に堕ちていた。
「ああああぁぁぁ! はああっ、も、もう……イ、イッちゃいそう……うむっ、あああぁぁぁッ!」
 自らの限界が近づきつつある中で、ソフィーティアはまた体内を抉る肉棒も限界が近いことを感じていた。
(ああ……来る! アレが私の中に……!)
 獣の精を浴びるという浅ましい行為がソフィーティアの被虐の情感を刺激し、知らず膣肉が牡の精を搾り取ろうとキュウッと収縮した。その締め付けに、リザードマンは怪鳥のような奇声を上げ、ドッと精を迸らせた。カアッと灼けるような熱さが下腹部に染みわたる。
「あああぁぁぁっ! あ、熱い、ひっ、ひいっ……い、いくッ……いくぅッ!!」
 その熱い飛沫を受け、ソフィーティアも一気に絶頂へ駆け登った。白目を剥いてキリキリと全身を恐ろしいまでに収縮させたかと思うと、がっくりとリザードマンに身をあずける。そのまま、絶頂の激しさを物語るように、余韻に身体をピクピクと震わせる。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「もう、姉さんったら激しいんだから。見てるこっちの方が妬けてきちゃうわよ」
 激しい情交に食い入るように見とれていたカサンドラがからかっても、ソフィーティアは固く目を閉じ、ハアハアと荒く息をつくだけでグッタリしていた。全身びっしょりの汗で髪も顔も洗われたかのように濡れ、その美しさといったら今まさに海から誕生したばかりの美の女神のようだった。ただ一つ違うとすれば、女神というには余りにも艶めかしいその顔は官能にどっぷりつかり、心の底から想いを遂げたといわんばかりの満足感に満ちあふれていた。


「ただいま、姉さん」
「んんっ……あああぁぁ! いい、いいッ……」
 狭い室内には牡と牝の絡み合うムッとするような淫猥な空気が充満し、部屋に入ってきたカサンドラの鼻をつく。
「あらあら、まだしてたの? 本当に姉さん達って仲がいいのね」
「あ、やあっ……んんああ……も、もっと、もっとしてッ……」
 カサンドラが呆れたように部屋の奥を見る。そこでは、今度は四つん這いで後ろからリザードマンに犯されているソフィーティアがいた。完全にとろけきった表情のソフィーティアはカサンドラのことなど意に介さずに、貫かれる度にあられもない嬌声を上げ続けている。あれから丸一日、二人は休むことなく交わり続けていた。
「やっぱり姉さん、ロティオン義兄さんと結婚したのは失敗だったんじゃない? そいつと一緒の方が、ずっと幸せそうよ。だからね、姉さんもやっぱり私達と一緒に行きましょうよ。そうすればそいつともずっと一緒にいれるし、もう自分を偽って生きる必要もどこにもないわ。無限の快楽がそこにはあるの……」
 行為に没頭し、カサンドラの言葉など耳に入っていないソフィーティアに、優しく語りかける。
「大丈夫、後腐れないように手は打っておいたから。ウフフ……義兄さんや子供達、リザードマン達とっても美味しそうに食べていたわよ。それこそ、髪の一本も残らないくらいにね……ウフフフフ」
 カサンドラが小悪魔めいた微笑を浮かべクスクス笑う。『義兄』や『子供』といった単語に反応したのか、一瞬だけソフィーティアがカサンドラの方を向いた。だが、すぐにその瞳は澱のように霞み、また再び快楽に彩られる。
「キレイよ……今の姉さんは本当にキレイ……」
 カサンドラは床に腰を下ろすと、うっとりと、しかし狂気を帯びた目でソフィーティアを眺める。
「私ね、ここに戻ってきた最初は姉さんのこと憎んでると思ってた。だってそうでしょう? 昔っから姉さんはいつも私より上にいて、周りの人達も何かと『お姉さんみたいになりなさい』ばっかり。いい加減うんざりしていたのよ。だからね、向こうで姉さんの話を聞いた時思ったの。絶対に姉さんの優等生面を、犯ることしか頭にない淫乱な牝に変えてやろうって」
「でも、それはウソだって気づいたの。やっぱり私、姉さんが大好き。今の、綺麗事なんて必要なくなっちゃった姉さんはもっと好き。姉さんだって私のこと好きでしょう? だって、ちっちゃい頃からいつも私に優しくしてくれたじゃない」
「だから、一緒に行きましょうよ。そうすれば、私達ずっとずっと一緒にいられるわ。何物に縛られることも隔てられることもなく、ずっと、ずーっと一緒……」
「ねえ、姉さん…………」