作/石榴 舞
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 黄味をかすかに帯びた薬液にピストンを満たした注射器の針先が、怯え震える白い乳肉と対峙する。ぴっ、ぴゅっと針穴から薬液を吹き出して乳首の先端に小さな冷たい雫を飛ばすと、針はぷっくり膨らんだ乳暈に深々と潜り込ませた。
 左の次。右の乳房に突き立てられた二本目の注射。
「んう〜〜〜〜っ!」
 逃げる自由どころか、乳房を貫かんばかりの痛みに鋭い悲鳴を上げる自由もなかった。
 もう長いこと手足につけられた頑丈な鉄製の枷。
 口に嵌められ、ゴムバンドで固定された丸いギャグ。
 両腕に何本も刺しこまれた、色分けされた何本もの点滴チューブ。
 体調データの測定機能が備わった、首を曲げられないほどに大きな首輪。
 そればかりでなく、身体のあちこちに取り付けられたいくつもの忌まわしい機械が、自由を奪うばかりでなく、それ自体が卑劣な檻となっていた。
 腋の下や脇腹、背筋などの敏感な部分に張り付けられた低周波電気マッサージシート。
 尿道口からつっぷり入れられ、膀胱の括約筋を貫いて強制排尿をさせているイルリガートルチューブ。
 子宮にまで届かんばかりに秘孔奧深くまで腟壁を押し広げて潜り込んでいる電動式バンド固定型自在ディルドゥ。
 避けてしまいそうなほどに肛門を押し広げ、直腸奥深くまで入っている固いプラスチック製のエネマ液注入式強制排泄チューブ。
 ……そして、痛い注射の後に、研究員と称する、不気味なうすら笑いを浮かべたいまいましい男が私の両乳首に取り付けている、真空式の搾乳機。太い管の先に取り付けられた透明なガラス製のカップを近づけると、乳首はすぷっと簡単に吸い込まれる。カップ内の真空の力で、膨らんでいる乳暈がさらに引っ張られて少し余計に膨らむ。
 搾乳の時間だ。
 カップ内の真空に引っ張られる乳首がぴりぴりと痛痒い感覚を覚えると、二、三本のタグが取り付けられた両耳が赤く火照るのを感じる。これから行われる、まるで牝牛――いや、牝牛以下の仕打ちを思い出して。乳房ばかりでなく、四つん這いにさせられた身体全体がわなわなと震える。
「今日もまた、極上のを頼むぜ。ふひっ」
 そう言って男は、ビニールグローブを着けた手で注射を終えた乳房を揉みしだく。冷たくつるつるしているくせに引っかかりのあるゴムの感触が乳肌にこすれ、ただでさえ注射を終えてじんじんと疼き始めた乳肉をさらに痺れさせる。
「……まだ搾乳始めてないのに、もう乳首がぬめってきてるぜ。お前の身体もいよいよ牝牛に近付いてきたな、え?」
 首輪が邪魔で、乳房を見ることが出来ない。だが乳首は痺れる以上に灼けそうなほど熱くなっている。もう薬の効果が出てきているのかしら? 「おぉおぉ、揉めば揉むほど沸き出してくるぞ」と嬉しそうに声をあげて喜んでいる男がひどくうらめしく感じる。――やめて、もう揉まないで! その手を離して!
 ぎゅっと目をつむる私の耳朶に、男が舌先を這わせてくる。気持ち悪さとくすぐったさで、思わず身をよじって、涎こぼれるギャグからかすれた悲鳴を漏らす。しかし男は、アップに束ねた髮を通んで引き寄せ、さらにしつこく耳の溝や穴を舐め回す。
 それでも私は肩をすくめたりして抵抗を試みるが、やがてそれもできないほどに身体の力が抜けてしまう。敏感な耳をねぶり続けられて、気持ち悪さから別の感覚にすりかわっていくのだ。背筋にも嫌悪からではない感覚からくる鳥肌がさわ立ち、身体のうちにももどかしい感触がつのってくる。そんな中で、男はまた胸を揉みしだいてくる。さっきは嫌悪感がその動きを感じることすら拒絶していたのに、今では男の指が乳を促すかのように、乳肉に先を軽く食い込ませながらくにくにとマッサージするように動いているさまをはっきりと感じてしまう。
 そればかりではない。乳肉自体からも芯から熱いものがじわじわ蝕んでいくような疼きを覚える。それは最初のみに噛まれたような痒みに始まって、次第にじっと我慢できないほどのこそばゆい痺れとなって私を苛むのだ。
 耳を舐められてよじっていた身体を、両乳の疼きでさらによじらせる。男に揉みしだかれながら、乳肉はたぽたぽと揺れ、乳首を捕らえる搾乳機のカップに繋がるチューブをゆさゆさと揺らす。
「よぉし、そろそろ頃合みたいだな。じゃあそろそろミルクを搾りとるとするか」
 乳房を弄っていた男の手が離れ、私はギャグの裏で深い溜息をつく。あの忌まわしいゴム手袋の感触から開放されただけでも、救われた気分だ。しかしもちろん、それで全て終わったわけではない。そんなことはわかっている。毎度のことだから。
 不随意に、腋の下や脇腹の部分がビクン、と弾んだ。敏感な部分を何者かによって無造作に揉まれたような感触。マッサージシートが作動し始めたのだ。
「んぐぅう〜〜っ! むぅう〜〜〜!」
 くすぐったさに、自由を奪われた手足をもどかしくばたつかせて悶える。堪えきれず、涙がこぼれる。転げ回りたいのに、手枷足枷のせいでそれができない。搾乳するのに都合のいいように両乳をくつろげた四つん這いの格好で、マッサージシートの低周波が繰り出すくすぐったさにひたすら堪えなければならないのだ。
 くすぐったさは、山を過ぎると残酷な性感にその姿を変えていく。さっきいたぶられていた両乳がそうであったように、身体もまたもどかしい感覚に苛まれる。せめてもの抵抗で身をよじる中で、時折背筋がびくんと弾み、悪寒にぶるぶるっと震える。そして、望んでもいないのに、秘腔の蜜肉が熱くたぎって、次第にぬめりを帯びてくるのを感じる。
「いい具合にノッてきたな、そろそろ最終段階にうつるとするかぁ」
 男の下卑た声。そして一番いやなあの機械が動き始めた。
 ぬめる蜜肉を揺り動かすように、秘腔をぐねぐねとねじくり回すように、ディルドゥが動き始めたのだ。
 身体の中で一番敏感な膣肉を、我が物顏で弄りたくるこの機械に、どんな我慢も通用しない。私に許されるのは……ディルドゥの陵辱にただ涙を流し、自分でも情けなくなるほど艶めかしい喘ぎ声をあげるだけ。
「んむお〜〜〜っ! んふぅ、んううぅ〜っ!」
 ギャグに阻まれたその声が、どれだけ卑猥に、どれだけ哀しく、どれだけいやらしく響くかが、今の私に唯一許された表現であった。膣穴をこねくり回すディルドゥが私を駆り立てるのは、めくるめく性感への服従のみ。それに少しでも抵抗しようと、私はひたすら声をあげる。しかし声を出せば出すほど身体の融通はますます効きづらくなり、ディルドゥの動きに翻弄されていく
 揺すり、ねじれるだけでなく、膣洞を曲げんばかりに不意に大きく折れ曲がってみたり、敏感な部分を〓り当てては執拗に振動を繰り出したりする。
 果ては、男が女を犯す時にするような、あの荒々しく汚らわしいピストン運動までも再現して見せるのだ。
「んおぅっ、んおうっ、んおおぉっん!」
 ディルドゥの先端が強く子宮を突き上げるたび、高く突き上げた格好の尻が大きく弾み、肛門に差し込まれた排泄チューブをのた打ち回らせる。どうしようにも抗えない衝撃であった。身体のイニシアチブをディルドゥに握られてしまったような屈辱感とないまぜになって、私の意志をを恥辱の淵に追いやるのだ。
 そんな時、男が私の耳元で囁く。
「そりゃあ気持ちいいだろう。お前の唯一の娯楽みたいなもんなのだからなぁ。結構手間暇かかったよ、実在の人間のアレを型どって、そこに実物以上の機能をもたせようってんだからな、ひひ。……そういや、前も言ったっけか?
誰のを再現したか――」
 ――言わないで!
 ふさぎたくてもふさげない両耳。それは今に続くこの悪夢に繋がる、決定的なできごと。そして、何も悪いことをしていない私に重く課せられた大罪。それを思い出すくらいなら、人間としての尊厳をすっかり捨ててしまってもいい。……絶対に思い出したくない。
 だが無情にも男は今にも笑い出しそうな声で言う。
「お前のオマンコ見ておっ立てた、かわいい弟のデカマラだよ、陽香おねえちゃん」
 聞いた途端にどっと目から涙がこぼれる。哀しみと性感が交錯して、泣き声とも喘ぎ声ともとれない声をあげる私に、男は容赦ない洪笑を浴びせかけた――。

 手荒い手段で誘拐され、何日も何日も時間の経過が分からないほどひどい仕打ちをくらったが、私はどうにか持ちこたえていた。死にたい気持ちと逃げたい気持ちに押し潰されそうになってはいたが、まだ気は触れていない。
 しかし、身体はすっかり変貌してしまったように思える。
 密室の中、見知らぬ男たちに囲まれて、私は……私は服を乱暴に引き剥がされ、蹴られたり殴られたりしながら、力任せに犯されたのだ。それも、今まで初恋の人にしか許していなかった秘裂の穴ばかりでなく、物を食べキスする以上のことをしたことのない口や、果てには人に見せることすら恥ずかしい不浄の肛門まで、代わるがわる何人もの男に犯された。
 最初は耐えがたいほどの苦痛が何度も身体を貫き、身に力が入らないほどの疼きが身体の中にじんじんと籠っていた。だが、眠ることすら忘れてしまいそうなほどに犯され抜いて、不覚にも私はみじめなアクメを何度も何度も経験させられた。
 腰はもう立つことを忘れてしまったかのようだった。何度も絶頂を叩き込まれたせいで、全く力が入らない。動く時はいつも四つん這い。そのさまがまるで牝犬のようだと、男たちにせせら笑われたりした。
 何度も何度も張りつめた乳首は、今ではもはや勃起しているのが当り前のように、その柔らかい肉芽をつんと斜め上に勃たせていた。上半身が動くたびにたゆたゆと水風船のように揺れる乳肉と、その動きにぷるぷる揺さぶられながらもまるで芯が入っているかのようにぴんと直立した乳首との対照が、自分でもいじらしく、哀れにすら思えるほど滑稽に見える。
 しかしそんな外見の部分はささいなものだ。一番大きく変わってしまったのは、私の身体の内部のことだ。
 最初の内は休みなく犯され続けていたが、やがてそれがインターバルを置いて行われるようになった。一定時間ひたすら犯され通すと、長い目の休憩時間がやってくる。男たちは部屋から出て行き、私一人になる。
 身体を休め、気を落ち着かせる貴重な時間。最初のころこそ、泥のように眠ったり、あるいは心の中に溜めていた鬱屈した思いを涙で晴らしたりもした。
 だが、いつしか私は身体の内から湧き起こって来る悶々とした衝動を持て余すようになった。
 いつしか、長い休憩時間の全てを、犯され擦れてじんじん甘く痺れて腫れ上がったクリトリスを指の腹で撫で回したり、まだ淫汁の乾かぬ肉襞の根元をなぞるようにさすったり、男のモノが未だに抽送しているような感覚に捕われている膣穴に指を入れて撫で回したりするようになた。
 なんてことだろう。みじめな仕打ちにあっているのに、その火照りを癒そうとして、誰もいない一室でオナニーをするようになってしまったのだ。哀しさにどれだけ涙を流してしゃくりあげても、オナニーの手は収まらない。みじめな上に、寂しく哀しいオルガズムを味わうまで。
 やがて私を誘拐した男たちは、犯すのをやめた。そして、まるで私を封印するかのように、粗い麻縄を裸身に縛りつけて、天井高く大の字に吊し上げられた。それから、男たちが部屋から出ていって、また部屋に一人だけ。
 気が狂いそうなほど長い時間が、私に襲いかかってきた。
 身体はひどく火照ってくる。男たちの乱暴で一方的なセックスの記憶が、一人になってなお私の身体を苛む。だが、手足の自由が利かなくなった今、哀しみを押し殺して自分で慰めることすらできない。火照りは一層増すばかり、ついには身体の方からレイプの記憶を呼び覚まし、私の意志を揺さぶるようになった。睡魔に襲われれば、男たちに輪姦される夢を見させられ、目が覚めている間は、呼び覚まされた感覚の記憶が妖しい身体の痙攣となって私の意識を朦朧とさせる。
 そんな私に、男が甘い言葉を囁く。――気持ちよくなりたんだろ? 何もかも忘れてイキまくりたいだろう? じゃあ俺たちに身を委ねるんだ。
 拒めば、また長い時間四肢を拘束されてずっと放置された。そしてまたいざないの言葉を耳にふきつけられる。
 必死に、必死に拒み続けていた。しかし……自らレイプシーンを再現しているかのように腰を前後にクイクイ揺すっている私の身体は、もう我慢に持ちこたえられなかった。
 ついに、私は返事をしてしまった。
「……はい……言うことを訊きますから……、気持ちよくさせてください……」
 返事というよりはもはや嘆願に近い私の声は、哄笑でもって迎え入れられた。それはまるで、人間としての尊厳を捨てて、淫乱な牝獣の道に通じる門をくぐったようでもあった。
 男たちは、私を縛りつける縄を解いた。だが、すぐに手枷と革の首輪をはめられ、手綱で引かれて廊下の床を四つん這いで這わされる。
「お前のために飛びっきりの舞台を用意してやったんだ……」
 連れて行かれる場所で、一体何が待ち受けているのか。股を動かすたび、秘裂から飛び出た肉襞が擦れ、その甘い刺激に淫汁が奧からしとどに湧き出して内股を伝わせている私には、そんなことを考えもしなかった。ただその時は、子宮の中を這いずり回っている熱くもどかしい性感への渇望をどうにかしたい一心だった。
 犬のように手綱を引っ張られながら、私は部屋に入れられる。
 フローリングの広い部屋。家具や装飾品は一切なく、部屋の中央に一人の男が目隠しと猿轡をされて椅子に縛りつけられていた。
(まさか……!)
 もどかしい感覚に身体を疼かせながらも、私は彼の姿を見ておののいた。
 顔半分のほとんどを目隠しで覆われていても、口元を猿轡で歪められていても、私にはその面影に心深く思い当たるものがあった。犯されてからいままで気にならなかった自分の裸体にも強い羞じらいを覚え、思わずその場に縮こまって胸や股間を隠した。
 男たちが彼の目隠しと猿轡を外したとき、私の強い予感はゆるぎない確信となった。
「……ね、姉さん?!」
「ひ……っ、……いやああああああ!」
 羞じらいと、罪の意識が一気に爆発した。
 立ち上がって逃げようとする私を、男が手綱を強く引いてねじ伏せる。
「いや……いや、いや……」
 目の前に現れた弟に尻を向けて、怯えながらうわごとのようにつぶやく私。
 手綱を通んだ男は、手の平でぺちぺち私の尻たぶを叩きながら、弟にこう言うのだ。
「ほれ見ろよ。お前の姉ちゃん、オメコからてろてろスケベ汁垂らしてるだろ? 今にもしたくてしょうがなくなってるんだ。お前のチンポでちょっと慰めてくれや」
「そ、そんなことできるわけないだろ!」
 弟が反発の声をあげる。どうにか抜け出そうともがいているのか、ギチギチと縄がきしむ。
 男はその言葉が気に入らなかったのか、私の尻に爪を立てて乱暴に通む。
「ほう、……これでもか?」
 濡れそぼった私の秘裂に、ぬるりと指が入って来る。巧みに私の膣壁を小刻みに揺さぶり、ぐっしゅぐっしゅ大きな音で淫汁を極き回しながら激しくピストンする。
 長いことお預けをくらっていた私の膣穴は、たちまち男の指を通んで離さなかった。指の動きに肉壁は一層淫汁を湧き立たせて収縮し、肉襞はきゅうきゅう指を包み込む。
「いや――、……ひっ、んあっ、んおおっ!」
 尻を突き立ててぶるっと震わせ、私は甘い喘ぎの声をあげる。弟の手前、どうにか堪えようとしても、久々の快楽に打ち震えて喜ぶ身体の強い衝動には勝てなかった。
「んおっ、んあ、ぁおおおおっ!」
 抽送される指は、単調なピストン運動だけにとどまらず、膣肉のあらゆるところを突き回し撫で回し、突然腟内で関節を曲げてGスポットを弄ったりもする。
「んひっ、いひぃいっ! だめぇ、そこだめぇへぇっ!」
 壊れたような声をあげ、私はたまらず腰をつんと高く突き上げてうねうねをもどかしく尻をくゆらせる。……弟の前で。
「や、やめ……、触るなっ、触るなぁ!」
「おぉおぉ、こんなにおっ立ててよぉ、いひひひひ」
 弟の悲鳴に振り向くと、別の男が弟のズボンのジッパーを開けて、その中身を引きずりだしていた。
 雄々しくも、上に真っ直ぐ屹立した弟の肉の棒。苦しげに、しかし全てのものを焼け焦がさんばかりに、血管をくっきり浮き立たせて赤々とたぎっているその様子は、グロテスクなのに、なぜか見ているだけで引き込まれそうになった。
 私は、私は……弟のそれが……。
 どうして、どうしてなの? 指で弄られる膣肉にさらなる熱が湧き起こり、指を強く強く締めつけてしまう。息も切れ切れになって熱を帯びる。
 そんな私の変化を、男たちは目ざとく察知する。
「こっちも、お前のナニ見て興奮してっぞ。早く入れて欲しいって、オメコきゅうきゅう締めつけてるぜ」
「そ、そんな……んはぁっん、んおおっ、おぅっん!」
 否定の声も、深いところを指で突き回されてまともな言葉にならない。
「あんまり焦らしても姉ちゃんが可哀想だしな。とっとと繋がってもらおうかな」
 ぞろぞろと男たちが私の身体を持ち上げ、弟の方に向かせる。
「そぉ〜れ、御開帳」
 弟ばかりか、だれにも見られたくない格好だった。左右の男にそれぞれ脚を抱えられ、大きくM字に股を開かされている。抜け出したくても、男二人の肩に回した手を離せば転げ落ちてしまう。ただ、ぱっくり開いた秘唇の穴から淫汁がこぼれて垂れている様子を伏し目がちに見つめて、
「いや、いやぁ……」
 と弱々しく抗いの言葉を漏らすしかなかった。
 男たちは私を開脚させたまま、弟の側まで連れて行く。
「やめろ……やめろぉ! 頼むから、やめてくれぇ!」
 目に涙をにじませながら、絶叫に近い声で訴える弟。縄をきしませて、どうにかその場から逃げようともがいている。
「……ごめんね、ごめんね……」
 しかし私には抵抗ができない。頭ではどう思っていても、身体の中では寂しい膣洞を埋めてくれるものを求めて秘肉をひくひくうずかせていた。もう、それをこらえる術はないように思えた。
 屹立した弟の肉の棒の先にぷっくり噴き出した透明な雫が、彼の心の涙のように思えた。
 しかしそれは、欲情にまみれた私の膣穴の中に吸い込まれていった。
「んはぁああっ――!」
 血の繋がった兄弟と繋がる禁を冒してしまった哀しみ。だがそれは、それまで体内で鬱屈とさせていた欲求に風穴を空けられたことで生まれた肉の悦びに覆い隠されていく。
 無意識に弟の身体を抱きしめながら、彼の肉根をまるごと膣の中に納めた私の腰は、ぐりぐりとすりつけるように前後左右とひとりでに妖しく揺さぶりをかける。
 しかし、なんて熱くて太くて、たくましいんだろう。腟内でびくんびくんと脈打つ弟の肉の棒は、見た目以上に私の感覚を高揚させる。
「ああっ、いいよ、いいよぉ、すごくいい……っ」
 駄目なのに、駄目なのに……もはや私は本能のままに腰を上下に動かしながら、快楽に溺れてしまっていた。もう、何も考えたくなかった。このまま、意識が蕩けてしまってもいいとも思うようになっていた。
 男たちがなにか言って笑ってる。弟が私に向かって泣き叫んでいる。……よがってる? 狂ってる? そうよ、今の私はもはや人間ではない。ただ狂ったようによがるスケベな一匹の牝獣なのだ。やらしい鳴き声をあげて腰を振って、膣肉を痙攣させて喜んでいる下等生物だ。
 哀しみすら快感に変えて、私は弟の肉の棒を、浮きでた血管の凹凸まで膣肉で感じながら無心に腰を振り続ける。
 しかし、弟の肉の棒の様子がおかしいことに気づいた。さっきまで感じていた血脈の鼓動以外の、別の脈動を感じたのだ。
 その後、弟がこらえたような声でこう言った。
「出る……姉さん、出るよ……」
 どういう状況なのかが分からないわけではない。しかし、膣洞を熱くたぎらせている肉の棒を抜くことは、今の私には無理な相談だった。しかしそれに矛盾して、
「だめ、出したら駄目、だめよ……っ」
 喘ぎあえぎ、私はそう口走っていた。なのに、私の身体は嬉しそうに乳房をぷるぷる揺さぶりながら、肉の棒を一層膣肉で締めつけて腰を動かし続けていた。
 微かだった「別の」脈動は大きくなり、ついには肉の棒全体が大きく腟内で跳ね上がった。
 力を失っていくような弟の悲鳴にも似たうめき。深い私の溜息。
 熱く粘っこいほどばしりが、子宮の奧にまで届くのを感じる。――それは、生まれて初めて私の身体が受け入れてしまった精液だった。私の秘肉をさんざ蹂躙した男たちは、絶頂に達するとすぐに肉の棒を抜いて、噴き出す精液を私の身体にふりかけていた。だが、彼らの精を胎内に受けていた方が、まだ軽かったかもしれない。それを私は……こともあろうに自ら欲情のままに腰を振りたくって、血の繋がった弟の精を受けてしまった。
 しかし逃げられない。射精から逃れようにも、私の腰は疲労でひどく重くなってしまっていた。
「はぁ……ぁ……ぁぁ」
 ただ、何もかもからの完全な敗北感から漏れる気だるい喘ぎだけが口から漏れた。
「姉さん、僕……僕……」
 か細い泣きごとを漏らしながらも、弟の肉の棒はまだ射精を続けていた。彼にかける言葉が全く思い付かない。私はただ彼の顔を胸元に埋め、あやすように抱きしめるしかなかった。
 そこに男たちの手が入ってきた。
「ちょっ……! 何するの!」
 突然のことに声をあげる私を無視して、男の一人が弟のこめかみにピストルの銃口を押し当てた。
「……お疲れさん」
 パァッン!
 私の目の前で、弟が銃弾で頭を貫かれた。
 驚愕と絶望に見開かれた弟の目が、開いた瞳孔で私を凝視していた。
 弟の身体が椅子ごと倒れ、私も一緒に床に倒れた。
 その時初めて、私の口から悲鳴が漏れた。
「いやあああああああああああ――!!」
 髮をかきむしりながら、私は身体を縮こまらせて、ひたすら悲鳴をあげて泣き続けた。弟の精液を秘唇から滴らせながら――。
 搾乳機のカップが、うおんうおんと鈍い機械音を立てながら私の乳首に吸いつく。真空の中で噴き出す母乳が、チューブを伝って流れていくのが見える。
 今ではこの母乳が、弟の片見のようなものだった。
 弟が殺されたあの時以来、再度誰もいない部屋で身体を縄で拘束されて放置された。長い、長い時間。
 その中で、私の身体はゆっくりと、命を宿した子壺で腹を膨らませていた。既に人としての尊厳をずたずたに引き裂かれた私にとって、それは唯一の希望でもあった。あるいは、不本意な成功の末に理不尽な死を遂げた弟の生まれ変わりにも思えた。
 だが、その命が無事に生まれることはなかった。
 未熟な身体で私の中から流れ落ちた死胎を見て、私は自分が救いのない獣の道に落ちたことをむざむざと感じさせられた。
 そして、飲む子供がいないのに、私の胸ははちきれてしまいそうなほどに、熱い母乳を分泌するようになる。
 そのことで、牝牛としての余生が確約された。男たちは妖しい薬を私の乳房に打ち込んで、母乳の分泌を促し、さらには身体にいろいろと怪しい機械やチューブをとりつけて、さながら実験動物のように仕立てあげてしまった。
「んおぉ、ふおぉおおおおおおぉん!」
 ディルドゥが、私の敏感なGスポットをぐりぐりと擦ってくる。たまらずに、私は背筋をのけぞらせながらギャグを嵌められた口で哭く。
「ふははは、陽香も牝牛っぷりが板についてきたよなぁ」
 傍らで私の様子を監視している男が、にやにや笑いながらそう言った。
 ……そうかもしれない。もう既に人間ではなくなった私の身体は、本当に獣に近付いているのかもしれない。じきに、意識も獣になっていくのだろうか? 性欲に悩ましく尻や乳を振るだけの、年中さかりのついたような牝獣に……。
 私は、哀しみに顔をほころばせて笑う。時折搾乳でひきつる乳首に、鼻から喘ぎの息をもらしながら。