「う……くぅ。んっ……?」
突如、瞑想を始めたモモコの呼応に乱れが生じた。
動作の一つ一つが籠もっておらず、覚束ない調子でよろめいてしまう。緊張に引き締まっていた表情は薄い朱色に染まり、玉のような脂汗が額から噴出していた。
(な、なに……? か、身体が……あぁっ……! あ、熱い!)
全身が燃えるように火照ってきて、熱くて仕方ない。お腹の奥からは得体の知れない疼きが広がり、それをどうやっても抑えられない。身体中から滝のように汗が流れ、赤い太極拳胴衣に吸い付いてくる。
「はぁっ……」
桜色の唇から艶かしい吐息がこぼれた。アーモンド型の目は潤み出し、無意識の内に太腿を内股気味に擦り合わされるようにしてしまっている。乳首は勝手に勃起し始め、ピンク色のショーツの下では肉唇がムズムズと疼いてくる。
「……んっ!」
我慢しきれなくなったモモコは悩ましい声で悶えてしまう。
真っ赤な太極拳胴衣に包まれた肢体が辛そうに震える。長い黒髪に隠れた美貌はほんのりと紅潮し、漏れる息は艶かしい艶を含んでいた。
「……んんっ、ふぅうっ!」
華奢な細肩を震わせ、力の入らない両腕はだらりと垂れ下がった。
乳房は熱を増し、乳首が痛いぐらいに硬く勃起してしまっている。下着と擦れただけで感じてしまい、モモコは艶めかしい声で身悶えた。
「モモコ先生! どうしたの……あっ!?」
教え子の少年が驚き混じりにモモコの異変を指摘する。
「うわー! モモコ先生、お漏らししてるよ」
「ええ……?」
肉体の変化に戸惑うモモコは自分の身体を見下ろした。
真っ赤なズボンの股間部がぐっしょりと濡れてしまっている。厚手の生地を浸透して芝生の地面に滴っている液体は、白濁とした粘液の塊だ。
「これって、まさか……」
モモコが自覚した途端、下腹部が熱くなり、ジンジンと疼きを増す。
心臓が高鳴り、鼓動を速める。お腹の奥がきゅんっと疼き、狂おしい切なさが広がっていく。
「く、ふ、ううぅっ! はうっ!」
甘美で気だるい肉体反応。悩ましげな息が、はぁはぁと桜色の唇から漏れる。
(――違うわ!)
やっと自分の身に起こっていることを理解した。両手で軽く触れてみれば、モモコの引き締まったお腹がボッコリと盛り上がっている。
(あ、あたし……の、お腹の中に……なにか、いる……?)
硬く重い何かがお腹の中に出現していた。
下腹部に浮かぶのは、歪んだ丸の形。
それは卵の形だろうか。
モモコは太極拳の教え子たちの前だというのに、突如訪れた官能の疼きに翻弄されていた。
忌まわしき記憶が様々と蘇ってくる。
ザンギャックの慰安婦奴隷の身分にされていた時、幾度も異形の相手に犯され、望まぬ仔を孕まされたのだ。
それでも今は教え子たちの前だ。
「本当だ! おしっこだ」
「モモコ先生、子供みたいー」
次々に少年少女たちも瞑想を中断し、モモコに群がってくる。
「そ、そうなの……我慢できなくてね」
モモコは両手でお腹を抑え込んだまま、教え子たちに笑顔を振りまいた。
「モモコ先生、ちょっとトイレに行ってくるわ」
気丈な態度を保ちつつ、子供たちから少しでも離れようとするモモコ。
(お願いだから、もう少しだけ待ってね……)
望まぬ相手とはいえ、自分が孕んでしまった赤ちゃんに罪はない――と愛おしさも覚えてしまうモモコはお腹の中に優しく語り掛ける。
だが、モモコがトイレまで辿り着くことはできなかった。 |