キィィ……。
「……っ!?」
 金属の軋む音にビクッと身体を震わせ、モモコは我に返った。
 外からの光で、入ってきた人物がはっきりと見える。
「モモコ先生、目は醒めた?」
 鉄格子の前に、野球帽の少年が座っていた。
 モモコが太極拳を教える愛弟子の一人だ。
「あなたは……どうしてここに……?」
 突然のことに理解が追いつかない。
「モモコ先生はそんなことを考えなくてもいいんだよ〜」
 野球帽の少年は意地悪そうな態度で口にする。どこか間延びした声色に、モモコの心は安らぎが広がってゆく。
「そう……だったわね……。あなたがここにいることは、別におかしいことじゃないわ……」
「敵に捕まって牢屋に囚われているモモコ先生……綺麗だなぁ」
 野球帽の少年はニヤニヤと口元を笑ませながらデジタルカメラを構える。
 カシャッ、カシャッ!
 シャッター音と眩いフラッシュが炸裂して、モモコはハッと瞳を見開く。強烈に羞恥心が込み上げてきて、整った美貌は朱色に染まってしまう。
「やめてっ、撮らないでっ!」
 モモコは艶やかな黒髪を振り乱して叫ぶ。手枷の鎖がジャラジャラとなり、疲労した身体を揺すられるたびに、牝臭を伴った汗の匂が牢屋の中に立ち籠める。大人の魅力に惹き付けられるかのように、野球帽の少年が歩み寄ってくる。