「あたし、もういくわね……」
 モモコは熱い吐息をつきながら、性淫具の詰まった紙袋を掴んだ。
「また遊ぼうね」
「う、うん……」
 後ろ髪引かれる思いを振り切って、よろめきながら自動ドアを抜ける。
(切ない……)
 中途半端な焦らし責めにされ、モモコの心臓はドキドキと鼓動を響かせた。
 あのまま太極拳の愛弟子に疼きを慰めてもらった方が良かっただろうか――。
「ううんっ!」
 店の外に出ると、モモコは首を横に振って淫らな思いを断ち切るように、生温かい空気を胸一杯に吸い込んだ。

「ちょっと、あんた」
「……え?」
 いきなり左腕を背後へグイッと引かれた。
 深呼吸してた最中だけに息が詰まる。モモコが振り返るまでもなく、ニヤついたチンピラ風の男たち――三人に取り囲まれていた。
「ねえちゃん、俺たちと遊ばない?」
「ずっと見てたぜ!」
「一人エッチが寂しいんだろう」
 男たちが詰め寄ると、口々に囃し立ててくる。
「あ、あなたたちは……っ!」
 背筋に冷汗が走り抜け、火照った身体を冷ます。
「見たところをその首輪、戦隊ヒロインの慰安婦奴隷って奴だよな。だったら、俺たちの情欲の相手をするのは当然ってことだよな」
「ちょ、ちょっとぉ……」
 戸惑いが隠しきれないモモコは、右手に握った【大人のおもちゃ】が入った紙袋を取り上げられた。
「うほっ! こんなにたくさんありやがるぜ!」
「よっぽど欲求不満だったんだろうなぁ」
「離しなさいよ!」
 乱暴な手つきでカーディガンが剥ぎ取られてゆく。
「もうっ! 少し痛い目みてもらうわよ!」
 慰安婦奴隷であろうとも、モモコは太極拳の達人だ。
「ふっ!」
 カーディガンを左袖から剥ぎ取られる反動で上半身を捻る。その勢いのまま、左肘を男の鳩尾に打ち込む。
「ぐえっ」
 左側の男が崩れ落ちた。
「えいっ!」
 モモコは腰を半回転させ、自由になった左腕を繰り出した。
 隙ができたチンピラの腹部に左の掌底で持ち上げるように打ち込む。男は苦悶の唾液を撒き散らす。
「次は誰が相手かしらっ!」
 モモコはその場で半回転して残る男に相対した。
 艶やかな黒髪がふわりと広がる。
 気配だけで男たちが臆するのが分かった。