絶対不利な闘技場

「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……」
 宇宙幕府ジャークマターのモライマーズ艦内の牢屋で囚われの戦隊ヒロイン――モモコは自身の境遇に頬を真っ赤に染めながら、大広間に通されていた。
「今日は、あたしになにをさせる気なの……?」
 目的もわからない不安から口を開く。
 モモコは腰にまで届きそうなサラサラロングストレートの黒髪をワンレングスに分けて、広いおでこをさらしている。
 衣服を身に着けることは許されず、無骨なデザインの赤色の首輪、左右の乳首とクリトリスに嵌められた三点ピアス――モモコが牝奴隷である証だった。
「すぐに分かるギョイ」
 ジャークマターの戦闘員インダベーは淡々と述べ、モモコがピンクマスクに変身するための必須アイテムであるマスキングブレスを返却してくれる。
「マスキングブレスを返してくれるってことは戦いがあるのかしらね……」

 ヒィィィィィィィ!
「えっ!?」
 その音に気がついたモモコは、ハッと顔を上げた。
 何かが落ちてくるような音がした。それは茶色の球体が落ちてくる。しかも、その落下地点はモモコを中心とした周辺だった。
「なに、これは……?」
 それは敵の仕業に間違いないだろう。
 しかし奇襲攻撃とはいえ、これを回避するのは難しくない。もし敵の罠なら近くに潜んでいるかもしれない。
 紙一重で避けて隙を作らず、その攻撃に備える。
 そう瞬時に考え実行しようとした。
「……!」
 その時、ゾクリと背筋が凍る感触に襲われ、足を止めた。それは、今までもモモコを助けてきた女戦士の第六感だった。
「危ない!」
 慌てて身を翻して、その場から逃げようとする。敵が潜んでいる方向に隙を作ってしまうが仕方がない。
 謎の球体は地面に落下と同時に爆発した。
 ズドォォォォンッ!
「きゃぁぁぁぁぁあああっ!」
 次々と連鎖的にモモコの足元で爆発していく。直撃は避けられたが、爆風で吹き飛ばされた。悲鳴をかき消すほどの爆音を鳴り響かせる。その勢いはモモコの華奢な身体を数十メートルも吹き飛ばし、硬い地面に叩きつける。
「ぁちち……敵!?」
 モモコは激痛が走る胸を押さえて、その身を起こす。
 先程までいた場所は大きく抉られていた。
 パラパラ……。
 コンクリートの破片が雨のように降ってくる。
「ごほっ、ごほっ……いったい、なにが?」
 土煙に咳き込みながら呟く。
 肩や背中に土埃が積もってくる。
「ぐはっはっはっは! よく来たなモモコ!」
 頭上からモモコを嘲笑うようなダミ声が聞こえた。
 こんな声で笑うの人物に心当たりは一人しかいなかった。
「――っ!」
 モモコがその声の方向を振り向くと、やはり想像通りの大男がいた。
「……エ、エロ……インダベー! ごほっ、ごほっ……!」
 叫ぶ口からは乾いた声しか出ない。呼吸をするだけで胸に激痛が走る。気管支に砂が入り込んだようで激しく咽る。
「んっくぅ……っ!」
 苦痛をこらえて立ち上がろうとした、その直後――!
「ウオオォォォォォォォンンン!」
 突如として、背後から獣の咆哮が上がった。
 低く、圧倒的な圧力を伴った、腹の底を打つような雄叫びが、聞こえる。
「ち、地帝獣ガマロドグラー!?」
 モモコが振り向いた先には、退路を塞ぐように人影が躍り出てくる。
 両手に四本の鉤爪、疣に覆われた掌、指先から毒々しい粘液が滴る。口に鋭い牙がビッチリと並ぶ大顎、ギョロギョロと蠢く肥大した双眸、頑丈そうな胴体と両腕と両脚、両肩に四個の口のような部位がパクパクと開閉する。
 それは先日、モモコが牢屋の中で産み落としてしまった14匹目の地帝獣である。
 光戦隊マスクマンが激闘の果てに打倒した地底帝国チューブ。それに組みした異形の怪物たちは、なぜかモモコのお腹から卵となって産まれてくる。それが宇宙帝国ザンギャックの残党の仕業であるなど、今のモモコにはあずかり知らぬことだった。