「グハァッ!」
 ガマロドグラーはその大きな口をモモコに向ける。
「フォォォォ……」
「う……」
 もの凄い異臭を伴った、熱い息であった。すんでのところで顔を背けたが、猛烈な異臭が鼻をつき、吐き気を催した。
「……げほぉっ」
 モモコは耐え切れず、その場に座り込むようにして吐瀉していた。朝食として味わわされたインダベーどもの精液が胃液と一緒に吐き出されてくる。
「うぁぁぁぁ……」
 内容物が空になるまで吐き気は収まらない。
 胃袋が痙攣を引き起こし、全身がブルブルと震えた。
 麻痺の作用もある息のようだった。直撃を受けていたら、完全に身体の自由を奪われていただろう。長期戦は不利だと思われた。
「グヘヘヘヘヘェ」
 ガマロドグラーは鈍く光る紅い目でモモコを睨みつけ、口腔から悪臭の涎をダラダラと流している。赤い肉舌が舌なめずりする様は、まさに肉に飢えた野獣のようだ。
「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……ぅぅぅ……っ」
 熱い息がプレッシャーの如く、モモコの頭上から降り注いでくる。自慢の黒髪を穢されているような気がして、戦闘意欲が沸いた。
「――っ!」
 モモコは口元の涎を手の甲で拭い、大きく息を呑んで身を起こす。首筋がひりひりと鈍痛を齎し、胸に激痛が走り抜けた。もう少しであまりの苦痛のあまりに悲鳴を漏らしてしまうところだった。
(負けるもんですか!)
 戦いの前に、敵の弱みを見せるわけにはいかない。咄嗟に体勢を立て直し、キリッとした視線でガマロドグラーを見据える。
 普通の少女なら怯えて逃げるが、モモコは戦隊ヒロインだ。
「モモコにはこれから地帝獣ガマロドグラーと戦ってもらう!」
 エロインダベーの得意げな顔に、モモコの心に沸々と熱い感情が滾る。
(なんでザンギャックといい、ジャークマターも毎度毎度!)
 モモコは少し怒った顔をした。
 宇宙帝国ザンギャックの慰安婦奴隷になっていた時、何度も繰り返されてきた恥辱のブラッドゲームだ。
 捕えられた戦隊ヒロインたちを怪人と戦わせ、観客が楽しむだけの余興。
 負ければ当然の如く、凄惨な凌辱が待っている。
 ザンギャックの時は、異なる戦隊ヒロインの仲間たちと協力してやり遂げたものだ。
「せいぜい楽しませてくれよ」
「そうはいかないわ!」
 モモコは桜色の唇を噛みしめて立ち上がった。
 だが、このモライマーズ内に囚われている戦隊ヒロインは、ピンクマスクのみ。
 共に肩を並べ合って協力してくれる仲間はいない。
 それでもモモコは構わないと、断言できる。
 他の誰かが苦しい思いをするぐらいならば、自分が犠牲になればいいのだから――。