「はぁ、はぁ……はぁ、はぁ……」
 モモコは闇に支配された廊下を走っていた。
 ビルの中だが、照明は非常灯のみで薄暗く、あちこちの割れた窓から吹き荒ぶ風。
 風は冬の寒さを含み、身を切るように冷たい。それにも関わらず、モモコの額には汗がうっすらと滲んでいる。
 訓練用の着慣れた上下の青いジャージですら、重い。息は上がり、足ももつれていつ転んでもおかしくはないだろう。
 それでも、モモコは止まるわけにはいかなかった。
(こんなところで、負けるわけにはいかない!)
 ちらりと後ろを見れば人影が見える。
 地底帝国チューブの戦闘員――アングラー兵が追ってくる。それはまるで獲物をじっくりと追い詰めて楽しんでいるかのようだ。
 徐々に逃げ道は塞がれ次第に追いやられていく。そして奴らに捕まれば、決して生きては帰れないことをモモコは知っていた。
 T字路に差し掛かった時――。
「……え?」
 風を切る音と共にモモコの足首に激痛が走る。
 次の瞬間、両足の自由を失ったモモコは硬い廊下の上に投げ出されていた。激しい痛みに息が詰まる。
「うぁっ……なにっ、これ?」
 必死に両足を探れば、幾重にも奇妙な紐が絡み付いていた。ほどこうにも、複雑に絡みつき解けそうにもない。そうしている間にも足音は近づいてくる。
 右を見ても、左を見ても、追っ手はやって来る。