いまは学園の部室棟の五階の片隅に位置する『映像研究部』に、はるなが訪れたのは理由があった。

「はるちゃん先生、よくきたね」
 大きな丸メガネをかけた男子生徒は、はるなが教育実習生として受け持った一年生の生徒である。彼は学園を代表する変質者として有名人だった。
 しかも学園理事長の孫らしく、他の先生から敬遠された挙句に白羽の矢が刺さったのが、教育実習生のはるなだった。

 はるな自身、執拗なストーキングの被害者でもあった。遠巻きにカメラを廻されたり、授業中に堂々とカメラを向けてきたりしていた。
「それで……話って何なの?」
 彼に案内されるままに部室に入ると、少し小太りの男子生徒もいた。
 この『映像研究部』は、顧問の先生もおらず、部員もたった二人だけだった。

「まずはこれを見てほしいんだよ」
 やや興奮した面持ちで部室を進んだメガネ君は、壁際に置かれたホワイトボードに手を伸ばした。端に手をかけ勢いよく反転させる。
 すると裏面にびっしりと貼られていた盗撮のデジタルプリントが、はるなの前に露わになった。
 その写真は――すべてが森川はるなを写したものだ。
 授業中の真面目な顔、生徒に囲まれた笑顔、お弁当を粛々と口に運ぶ清楚な顔、休み時間にトイレに向かう後ろ姿――様々なシーンが所狭しと掲示されている。
「んな……っ!?」
 そのプリントの中で、最も目を引いたのは――ピンク色の強化スーツを身に纏った戦隊ヒロイン――ピンクターボの立ち絵だった。

「これ……はるちゃん先生だよね?」
 メガネ君が指差した写真に、はるなは緊張に身を固くする。
 これだけは学校に知られまいと警戒してただけに、鳥肌が立ってしまう思いだ。