「お願い! はるちゃん先生がピンクターボに変身するシーンが撮りたいんだよ」
 メガネ君は両手をパンっと合わせると、ニヤリと笑んだ。
「な、なんで……」
「だって、しょうがないじゃん。コイツ、はるちゃん先生が初恋の相手なんだからさ」
「……え!?」
 ドキッ!
 小太り君が呟いた言葉に、はるなは素っ頓狂な声を漏らした。冗談を言ってるのだとばかりに隣のメガネ君の顔を窺うと、照明灯に照らされたその顔もどことなく赤い。
「え、えっと……」
 思わずはるなも頬に朱に染め上げて戸惑う。

 詳しく聞いてみれば、高速戦隊ターボレンジャーとして、暴魔百族と戦う宿命を帯びていた頃、はるなに命を助けてもらったらしいのだ。

「今にも殺されそうな僕の目の前で変身したピンクターボ! 憧れのヒロインがいるんだよ。ずっと……もう一度見たくて……」
「しょうがないわねぇ……」
 メガネ君が真剣な表情で見詰めてくるので、はるなは観念したようで溜め息を吐いた。
「変身……、見せてあげるわよ。一度だけね」
 この時の安請け合いを後悔することになる――。

「ふぅ……」
 森川はるなは、子供の時に妖精シーロンの光を浴びたことがきっかけで、ピンクターボに変身することになった。
 だが暴魔百族との戦いが終わった後、シーロンは聖獣ラキアの元に去っていった。
 それ以来、徐々に自分の身に妖精パワーが抜けていくのを感じていた。
 今では変身することができても、戦いに身を投じることは難しいだろうと、思う。

(まだ、変身できるのかな……?)
 はるなが宇宙帝国ザンギャックの慰安婦奴隷の身分に甘んじていたのは、もう何か月前のことだっただろうか。

 ザンギャックの大幹部ヨコザの考えたブラッドゲーム――80名以上にも及ぶ人数で5回戦を誰かが勝ち抜くことができれば、慰安婦奴隷の身分から解放されるというヒロインたちには願ってもない企画があった。
 慰安婦奴隷の解放をかけた大勝負で、森川はるなは3回戦目で敗退という屈辱を期してしまった。
 それでも決勝まで勝ち抜いた10名の戦隊ヒロインの活躍によって、はるなは無事に普通の生活に戻ることが叶ったのだ。

「この後で職員会議があるから、チャチャっと済ますわね!」
 部室の中に通されたはるなは両足を軽く広げ、両腕を前に突き出すようなポーズを取った。
 過剰な演出家と思ったが、熱烈な自分のファンを前にしては悪い気はしない。
「いよっ! 待ってました!」
 メガネ君は嬉しそうに合いの手を打つと、ハンディタイプのビデオカメラを構えた。