今聞いた話だけだと、それほど困難な条件のミッションではないような印象を持ったが、成功できなかったペナルティは思いのほかきつい。男性ならいざ知らず、うら若い女性の数美にとって、「下着を変えることができない」というのはできれば、いや、絶対に避けたい事態だ。
 しかもこのミッションをこれから毎日課すとゴーミンは言うのだ。
 よくもまあ、こんなバカげたことを思いつくものだと、数美はあきれ返った。
 しかも「これは地球人の計算能力、ひいては基礎学力の低下を食い止めるための重要な作戦なのだ」とザンギャック側は大真面目な顔で主張するのだ。
「とにかく、貴様の怠慢のせいでこどもたちの学力が低下したのだ。責任を取って貴様が頑張るしかないだろう?」
 言いたいことは山ほどあったが、数美は反論の意志を捨て去った。ザンギャックの奴隷である自分には「拒否」という選択肢は一切ない。
 とは言え、これから毎日、少なくとも50人の人間に対して自らスカートをまくり上げて下着をまじまじと見てもらうことになるのだ。最低最悪の日々が続くこととなる。数美は軽いめまいを覚えた。
「言い忘れていたが、時間切れになって別の問題でやり直す際には、それまでに答えた者の解答回数はリセットされて0になる。なのでもう一度答えることが可能だ。そうでもしておかないと、この学校はそんなに規模が大きい訳でなく、失敗を繰り返すと生徒が全員解答済みになってしまうからな。それに生徒に限らず同僚の先生や先生以外の大人に答えさせても大丈夫だ。なんなら校外に出て、そこら辺の通行人に答えてもらってもいいぞ。ま、街中で下着を見せびらかす勇気があればの話だがな、ハハハッ!」
 全裸で学校外を何度歩かされたかも分からないのに、一度服を着てしまうとパンツを自分からわざわざ見せる行為のハードルが異様に上がっているように思える。
 笑い飛ばすゴーミンを数美が険しい顔でにらみつけると、ゴーミンはその視線を軽く受け流して言葉をつづけた。
「それと、間違えた回数が3回、これはずっとリセットされない数字だが、3回になった者がさらに間違えた場合は、学力が極端に低いということで、特別学習教室の「苦悶部屋」に即刻収容されることになる。そこでビシバシ鍛えてやるという訳だ。」
 それを聞いて、生徒への虐待につながらないかと表情を曇らせた数美に向かってゴーミンが言う。
「そのルールは貴様のためでもあるんだぞ。まあ、説明はこれくらいにして、とっとと『算数チャレンジ』の初日をおっ始めるぞ! 何か質問はないか?」
「な、無いわ!」
「それなら開始する。制限時間は2時間。せいぜい頑張るんだな。それ、スタートだ!」
 極端に難しい内容ではないと理解したが、なにかしら違和感というか不安を抱えながらも、意を決した数美は、一人目の解答者を見つけるために、校舎内の廊下を駆け出して行った。