「センサーに反応無いわよ?」
「いや、この目で見て回るのも、鍛錬を兼ねた事だ、茉子は料理の練習でも……あ……何でもない、行ってくる」
 慌てて屋敷を後にする丈瑠を、茉子は見送るしかない。
「いってらっしゃい……」

「どうしよう……」
 全然覚えていないのだ、この屋敷で丈瑠と、丈瑠と夫婦なんて。
「ああ、いつからこんなに記憶の曖昧な人間に……」
 すっと黒子さんが写真を見せてくれる。
 そこには、確かに白無垢の茉子と、緊張した面もちの丈瑠に笑顔の他メンバーに彦真さんも写っている。
「どうしよう……」
 悩んでいても仕方がないと思いつつ、気になるプロポーズとか、なれそめとかなれそめは外道集と戦った日々にあるのだろうけど。
 保育幼稚園で働いていたはずの茉子が、身を固める決心をしたのは何時のことだったのか……
 エプロンを掛けてキッチンへ赴き、黒子さんの手を借りながら丈瑠の朝食を作る。
「前の私じゃないから!」
 冷蔵庫からミルクを取り出して、温めようとしてふと目が止まる。
「白石ミルク……」
 それは、記憶の扉かもしれなかった。