野上愛理は普通の生活を送る普通の喫茶店の店主である。
その日も、ごく普通にお客の少ない店内でコーヒーのサイロを見つめながら、香りを楽しんでいた。
「お姉ちゃん!」
カランカランとドアのベルを鳴らして、近所の子供たちが三人飛び込んでくるのも、たまにある光景だ。
「どうしたの?」
「来て!」
子供は愛理の手をつかむと、お店の外へと駆け出す。
「あ、あと願いします……」
店内には、いつもの常連が二人だけ。
軽く会釈すると、二人も笑顔でわかったと返してくれる。
「ど、どこへ行くの?」