亡霊の住む家 3

『次女・雪乃 @』

 私は、焦っていた。
 もう少し。後もう少しなのだ。
 由佳に『聞こえない言葉』で自慰をさせ、何度も絶頂へと導き──
 私は、今までに無いほどのエナジーを得た。
 しかし、それでも、自縛霊としてこの場所に縛られている私は、この二階から出ることが出来ないでいた。
 由佳から得たエナジーは相当の量だったはずだ。──少なくとも、彼女の母である法子の時より、数倍は多いエナジーだったのだ。
 それでも……。

 私は今、今度こそ一階へ移動して少女達の赤裸々な姿を見んとして、二階と一階の間にある見えない壁を──恐らくは、私自身の常識という壁と格闘していた。
 以前より階段三段分、下に降りられるようにはなっていた。だが、そこまでだ。床もまだ抜けられない。
 
 背後の部屋では、まだ度重なる絶頂の余韻に半ば失神した由佳が、ベッドに身を投げ出しているはずだ。
 ──由佳は、あれで完全に快感の虜となったはずだ。もはや、今までの理性や羞恥心では身体の疼きを押さえられまい。

 由佳の身体は、人外の快感を覚えてしまったのだ。私はこみ上げる笑いを押さえられなかった。

 だが、今日はもう無理だ──これ以上の快感に、由佳の体力の方がついていけまい。
 私はこれからも、由佳にエナジーの源として役立ってもらおうと思っている。こんな一回二回の行為でツブす事もなかろうし、せっかく得た獲物をこんなにすぐに手放す気は更々無かった。
 もう由佳は私の意のままに身体を疼かせる。身体が、そう覚えてしまったのだ。

 目の前に、いきなり少女の顔が迫ってきて、私はぎょっとして跳び退った。次女の雪乃だ。何時の間にか、帰っていたのだろう。
 夕立にでも遭ってしまったのか、全身ずぶ濡れでぽたぽたと雫を床に垂らしている。
 さっきまでの、由佳の嬌態が演じられている最中に帰ってこなくて幸いだった。

 雪乃は私に気付くこともなく、階段を駆け上って部屋に入った。当然私もその後を追う。妖しい期待を胸にして。
 雪乃はいつも制服のまま風呂に入るまでを過ごすので、その着替えを目撃することが出来ないでいたのだ。
 だが──今日は違う。雪音の夏服のブラウスが濡れて透けている。土砂降りの雨に濡れてしまった今日ならば、もしかしたら……。
 そして、その期待は的中した。
『おお……』
「うぅーっ、もう。ツイてないなあ……」
 突然の災難にぼやきながら、雪乃はなんのためらいも無く制服を脱ぎ始めた。ぐっしょりと肌に張り付く感触が嫌なのだろう。
 すぐに少女特有のスレンダーな上半身が現れ、私の目を射た。この灰色のスポーツブラの奥に、まだ見ぬ少女の乳房が……。

 ふと私は、思いついた行動を取ってみる事にした。

『雪乃……もう下着まで濡れているではないか。付け心地が悪いだろう? ここで脱いでしまえ』

 そう、雪乃の耳元に声を掛けてみる。
 すると。
「……もう! 中までびしょびしょ……気持ちわるいぃ」
 雪乃は私の言葉通り、濡れてしまった下着までも脱ぎだしたのだ。部屋の蛍光灯の光に、雪乃の淡い胸が浮かび上がった。

『美しい……』

 まだ発展途上という段階なのだろうに、少女特有のふっくらとした曲線を持つその胸は、既に姉の由佳よりも大きく成長していた。
 そしてその先端には、薄いピンク色の乳首がひっそりと息づいている。
 雪乃が動くたびに胸はぷる、ぷるんと震え、その柔らかさの程を想像させた。

 無論、幽霊である私の声が実際に聞こえているのではない。だが言霊というか、魂への声というか。私の言葉は催眠術のような効果があるらしいのだ。
 先刻はこの言葉を使って由佳を欲情させ、激しいオナニーと絶頂を味わわせてやった。だが、もう由佳の体力はあれで限界になってしまった……。

 決めた。
 次の獲物は、この雪乃だ。

 私は目を爛々と輝かせ、目の前にある更なるチャンスに賭けてみることにした。

『さあ。スカートもパンティーも同じだろう? 全部脱いでから身体を拭いた方がいい』

 雪乃はタオルへと伸ばしかけていた手を止め、スカートへと手を伸ばし始めた。
「とりあえず、全部脱いじゃお」
 雨に濡れて重くなっているスカートが、とさりと落ちる。ブラジャーとおそろいの、灰色でシンプルな雪乃の下着が現れた。
 私はすかさず雪乃の前に回り込み、目の前でこの光景を楽しむことにした。女の子特有の、甘ったるい匂いが立ち込める。
 雪乃の指が最後の一枚へとかかる。そして無造作に、何のためらいもなく、それは引き下ろされた。
 目の前に、雪乃のワレメがあった。

『おおお……!!』

 まだ無毛の恥丘の下に、ふっくらと丸みを持ったクレバスが息づいている。
 まだ単純なスリットの状態だが、幾分女らしいふくらみを持ってきているようだ。シミや黒子一つもない、芸術品のような花唇だった。
 パンティーを脚から引き抜く。当然雪乃の片脚が高く上がり、それに応じてスリットも微妙な動きを見せた。
 下から見上げると、さっきは見えなかったスリットの全体が目の前に広がる。そして僅かに開いたピンクの大陰唇の隙間から、更に薄い桜色の秘肉が覗いていた。

『これが、雪乃の……』

 一瞬の光景だった。雪乃はバスタオルを身体に巻きつけ、カバンを開けて濡れた中身を引っ張り出し、急ぎ足で階下の風呂場へと向かって行く。
 しかし、私は先程の光景を忘れまいと、しっかりと目に焼き付けていた。

 ──いつか、あの肢体を自由にする時まで。



 やがて熱いシャワーを浴びて、雪乃が部屋に戻ってきた。
「あーっ、すっきりしたぁ」
 大き目のパジャマに身を包んだ雪乃は、清潔な石鹸の香りを振り撒きながら学習机の椅子に身を投げ出した。
「ふぅ……っ、いきなり降ってくるんだもんなぁ」

 ぼやきながら、机に上で乾かしているノートや教科書をひっくり返す。
 パジャマの広い襟からちらりちらりと薄ピンクの乳首が覗いているのに気付き、私は彼女の前に回り込み、机に重なる形でその光景を覗き込んだ。
 一瞬雪乃の動きが止まり、条件反射的にびくりと動きを止める。
「でも……」
 私の目の前に、一通の手紙が持ち上げられた。分厚い教科書に挟んでいたその手紙には、シミ一つついていなかった。
「これは無事だったか。よかったぁ」
 手紙の宛先は神灯雪乃──差出人は見知らぬ男の名だった。だが、その手紙の内容は用意に想像がつく。
 ラブレターだ。
「うふふ……」
 幸せそうな雪乃の表情がその予測を肯定し、そして私の中にどす黒い劣情の炎を燃え上がらせた。

 冗談ではない。せっかく手中に収めた獲物なのだ。他の青臭い坊主どもに横取りさせてなるものか。

 この家の女達は、皆私の所有物となるのだ。邪魔をする者には容赦はしない。──だが、私はこの家から離れられない。となれば……。

 手紙を抱きしめる雪乃を見下ろしながら、私は急いで作戦を練り始めた。



 最近、何かが変だ。

 母親の法子は、漠然とそんな不安を抱えていた。
 時折、どこからか視線を感じる事がある。特に寝室にいるときにその視線を強く感じるのだ。──特に、着替えをしている時に。
 法子は幽霊などと言う非科学的な存在など信じてはいなかったが、『何か』がいるような気がしてならない。
「お母さん、醤油とって」
「あ、はいはい」
 三女の鈴穂の声に我に返った法子は、娘達の様子も少しおかしいことに気が付いた。

 元気そうに醤油を受け取る鈴穂の仕草が、妙に無理をしているように見える。何か心配事でもあるのだろうか。

 次女の雪乃はそれとは正反対に、妙にうきうきとしている。しかしまあ、こちらは心配無いだろう。

 一番妙なのは長女の由佳だ。ぼーっとしていて会話にも加わらない。今までこんな事は無かっただけに、嫌な予感がした。

「由佳」
「……」
「由佳、どうしたの、ぼーっとして」
「……え?」
 ようやく気付いた由佳は、急にその場を取り繕う仕草を見せ、「なんでもない」とだけ小さく答えた。
「何でもないじゃないでしょ、ずっと上の空で。何かあったの?」
「本当に何でもないの。……ごちそうさま」
 言うが早いか由佳は食べかけの食器を重ねて、台所に持っていってしまう。
 ふう、とため息をつく母を、鈴穂が不安そうに見つめていた。



「ねえ、由佳お姉ちゃん……」
「あ……なぁに、鈴穂?」
 リビングで何をするでもなく、夕刻の出来事を考えていた由佳は、遠慮がちな妹の声に我に返った。
「あのね……何か、変じゃない? この家……」
 鈴穂は、辺りをはばかるように声を潜める。
「何か……って、何が?」
「なんか……誰かに見られてる様な感じとか……どこからか変な声が聞こえるような気もするの……」
 ぎく、と由佳の心臓が跳ね上がった。
 さっきの声を聞かれた──!?
 咄嗟に由佳は、取り繕うように鈴穂の言葉に答えていた。
「きっ……気のせいよ、きっと……ほら、鈴ちゃんもそろそろ思春期だからぁ、自意識とか敏感になってるのよ、きっと」
「そ……そうかな……」
 恥ずかしそうに俯く鈴穂に、由佳は悪戯な笑みを浮かべる。
「さては、好きな男の子でもできたんじゃない!?」
「そっ……そんな、好きな子なんて……」
「白状しなさい、このぉ!!」
「きゃ、お姉ちゃん、あは、くすぐったい、あははは……」

 今までと同じ時間。暖かい空気。
 鈴穂はこの平和な日々が、ずっとに続いてほしいと切に願った。

 何故なら鈴穂の予感は、すでにそれが壊れ始めている事を知らせていたから──。



 亡霊の住む家 4 に続く






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