亡霊の住む家 4
『次女・雪乃 A』
夕食が終わった後も、雪乃はずっとその手紙に夢中になっていた。今もベッドに横たわって何度も何度も文面を読み返している。
「ずっと、君の事が好きだった、か……」
読み返す雪乃の幸せそうな笑顔が、私を焦らせ、苛立たせた。
「恋人、かぁ。デートとかして、手繋ごう、って言われたらどうしよう。ううん、それよりそれより……」
雪乃の想像はどんどんと広がって行くようだ。一人でうかれたり、顔をほころばせたりと忙しい。
「あんなこととか、こんなこととか……う、そこまでは、ちょっと……」
何を想像したのか、急にもじもじとし始めた雪乃。
──そうか、これだ。
「ううん、それはまだダメ。まだ早いんだから」
膨らみきってしまった想像を打ち消そうとするように、雪乃はぶんぶんと首を振った。
私はにやにや笑いを浮かべながら、そんな雪乃の耳元に口を近づけていく。
『だが、少しは想像してみろ、雪乃』
「で、でも……」
『知らない訳ではないだろう? 男と女の秘め事を』
「でも、もし見せて、なんて言ってきたら……どうしよう……」
『そうだ、あり得ない話ではないのだからな』
「すっごい恥ずかしい……けど……」
『ほら、大好きなアキラ君の頼みだ』
「ちょっとだけなら……見せても……いいかな」
『……そうだ。想像してみろ、その時の事を』
霊体である私の声は、無論彼女の耳には届かない。だが精神体の声は人の精神には届くのか、『言われていないのに、ふと閃く』ように相手の思考に割り込ませる事が出来るらしい。
だが先刻の由佳のように、自由自在に相手の考えを操作する、という訳には行かないようだ。
現にこれまでにも雪乃や鈴穂にも同様の語りかけを何度も行ってはきたのだ。しかし、その結果はことごとく失敗に終わっている。
どうやら相手の精神に、呼びかけに呼応する欲求がないと上手く行かないらしいのだ。
性の快感をまだ知らないであろう雪乃と鈴穂には、もともと性や快感に対する欲求が薄い。だから快感を求めるように心に呼びかけても答えなかったのだろう。
だが……。今は、違う。
雪乃は今、初めてのラブレターに浮かれて、未知なる性への期待を抱いている。
これに乗じて、雪乃の身体に眠る快感を呼び起こしてやるのだ。
一度快感を知ってしまえば、もうこちらの物だ……。
◇
「ふぅ……」
雪乃は顔を僅かに上気させ、早まり始めた鼓動を鎮めようとしていた。
無論、このままで終わらせる気など毛頭無い。これは千載一遇のチャンスなのだ。
私は再び、雪乃の耳元に口を寄せた。
『だがな。男は、見ただけでは絶対に止まりはしないぞ?』
生前は中年だった私が猫なで声を使うのは自分でも気色悪いと思ったが、仕方がない。
「……でも、やっぱり見るだけじゃ済まないよね……。触って、くるのかな……」
『そう――想像しろ、雪乃。自分で触ってみろ、彼に触られていると思って、な』
それに答えるように雪乃の手が動き始めた。手紙を身体の脇に置き、少しずつ胸に動いていく。
「う……!」
指先が僅かに乳首に触れた瞬間、雪乃は僅かにうめいて身を震わせた。──雪乃が感じる、初めての快感だったはずだ。
パジャマの上からの刺激で、これだ。妖しい期待が膨らむ。
『ほら、気持ち良いだろう? もう一回触ってみろ、今度はもっと強めに、擦るようにだ』
「ふ……」
雪乃の指が、恐る恐る、ゆっくりと、動き始めた。指先で乳首が押し潰され、未知の刺激が雪乃を襲う。
「あ……これ、な……に……?」
雪乃は戸惑いの声をあげるが、それでもその手は止まらなかった
あまつさえ、私の声と初めての快感に背中を押されて彼女の手の動きは段々早くなっていく。
『……』
私は満足そうにその光景を眺めていた。雪乃の生まれて初めてのオナニーに、私は今立ち会っているのだ。
いや、私自身が初めての快感を彼女の身体に刻み込めるのだ。
これ以上の幸せはない。
雪乃の指先はどんどん加速し、なおかつ痛くならないよう、快感をより感じるようにと貪欲にその動きを探っていた。
熱いため息がその可愛い口から洩れ、乳首は快感に反応して硬くなり始める。
戸惑いと、押し殺せない悦びが表情に表れ、たまらなく淫靡な雰囲気を醸し出していた。
「んふ……っ、あ……っ」
『くっくっく。もうお前は逃げられない。気持ち良くなりたくて仕方がなくなるのだ。他の事はもう考えられない。……さあ、今度は直接、指で乳首を触れ』
「う……」
雪乃の表情が戸惑いと期待に揺れ動いた。今度は直接触りたい、と『考えてしまった』のだ。
少女の指は戸惑いながら、今度は少しずつパジャマの中に差し入れられていく。
「はぅ……っ!」
指先が直に乳首に触れた瞬間、雪乃はその快感に仰け反っていた。乳首が反応して、どんどんとその硬度を増していくのが分かる。
はしたない、これ以上はだめ、と呟いてはいるが、彼女にはもう自分を止めることができないようだ。囁きかけられるその『声』に、完全に囚われてしまっているのだ。
『パジャマのボタンを外せ。そのままではもどかしいだろう?』
すぐさまもう一方の手が動き、パジャマのボタンにかけられた。
『大丈夫だ、私以外は誰も見てはいない。邪魔なパジャマなど脱いでしまえ――そしてその美しい身体を、全て私に見せるのだ』
「うん……、み、見ても、いいよ……」
ゆっくりゆっくりと、パジャマのボタンが解かれていく。雪乃の表情は熱に浮かれたようにぼーっとしていて、空ろな視線を宙を彷徨わせていた。
やがて全てのボタンが解かれ、おずおずとパジャマが開かれていく。
『そう……そうだ』
白い陶磁器のような胸が、再び私の前に露になった。薄ピンクの乳首が半ば屹立して、ツンと天井を向いている。
『美しい……』
「やっぱり……恥ずかしい……」
私の声を感じて、彼に言われたように想像しているのだろう。
雪乃はまるで相手が目の前にいるかのように恥じらい、両腕で胸を覆った。
『恥じらう必要など無い。本当に綺麗だぞ、雪乃』
「ほ……ほんとう?」
『ああ、本当だ。だから、その腕を解くのだ』
「う……」
どうやら、雪乃は私の声を想像の中の少年の声と勘違いしているらしい。初めての興奮に浮かれて、現実と願望がごちゃ混ぜになっているのだろう。
──だが、これは好都合と言うものだ。このまま、思うがままに由佳の性感を目覚めさせてやる。
再びおずおずと腕が動き、胸のふくらみが現われた。見られていると想像している所為か、乳首が完全に屹立してしまっている。
『雪乃、両手を胸に当てろ』 「……え?」 『それを、私の腕だと思って動かのだ。私の言う通りに。分かったか?』 「う……ん……」 『まず、胸の膨らみを掌で覆え。そしてゆっくりと揉んでみろ』 「うん……」 雪乃は、言われた通りに手を動かしはじめる。 『そう……そう。ゆっくりと、優しく。気持ち良いか?』 「うん。気持ちいい……」 柔らかな膨らみが、自身の白い指に揉まれて様々に形を変える。雪乃の息が、段々と荒くなり始めていた。 |
『次は乳首だ。周りから集めるように、表面をなぞりながら乳首を摘んでみろ』
「う、ん……ひ!」
両手の指が二つの乳首に集まった瞬間、今までとは段違いの快感を感じて雪乃の喉が鳴った。だが指は離れず、そのままきりきりと屹立している乳首を摘み上げていく。
『ダメだ、乳首ばかり摘んでいたら痛くなるぞ。脇腹、首筋、気持ちいい処をなぞって、乳首まで撫で上げるのだ』
んっ、ん……っ! きもち、いいぃ……」
それは、淫靡な光景だった。まだ幼いとも言える少女が、自らの身体を撫で回し、乳首を摘み上げる。
もう両方の乳首は押し寄せる快感に耐えられず、きりきりと音を立てそうなくらい充血して、硬くなっていた。
どんどん激しくなる鼓動に、柔らかい乳房がぷる、ぷる、と震え、乳首に妖しいダンスを踊らせていく。
『そろそろだな……では、パジャマのズボンを脱げ」
「え……? そ、それは……」
『私に全てを見せろ、そう言っただろう?』
「でも……恥ずかしい……よ……」
もう一押しだ。言葉で少女を篭絡するなど、私にとっては楽しいゲームに過ぎなかった。
『私の言うことが聞けないのか?』
「う……」
『それにこれは想像の世界なのだ。誰も見てはいない』
「……」
『今は現実の事など忘れてしまえ。もっともっと気持ち良くなれ……それにな』
「……?」
『もう身体が火照って、仕方がないだろう?』
「……!」
『もっともっと気持ち良くなりたくて、仕方がないだろう?』
「う……」
『大丈夫だ、誰も見てはいないのだから。──そう、誰もな。お前のこんなはしたない姿を知ってるのは、私だけだ』
「……」
『……さぁ。ズボンを、脱げ』
「……」
しばらく、無言で逡巡する雪乃。仕方がない。トドメの一言を言ってやろう。
『……嫌なのか? そうか。まあ嫌なら嫌で仕方がないな……』
「……っ!!」
雪乃はぎゅっと目とつむり、両手をズボンにかけた。
◇
雪乃は腰を持ち上げ、するするとズボンを下ろしていく。程なく、白い木綿のパンティが眼に焼きついた。
『くくく、それでいい。素直に言うことを良く聞く娘は、私は好きだぞ』
「……ほ、ほんとう?」
『ああ、本当だ。私は素直な雪乃が大好きだ』
「うん……私、素直に、するから……」
しおらしい雪乃の声。いつもの元気印の雰囲気は見る影もない。
これが押し隠していた雪乃の本性なのだ。
雪乃のような元気なタイプは元来、従順でマゾヒスティックな性格の者が多い。そんな自分の性格が嫌で、わざと強気に振舞っているのだ。
この本性を他の男共に見せる訳には行かない。従順で淫乱な、私だけの奴隷にするのだ。
つま先をズボンから抜き、雪乃は完全に下着一枚の姿になった。さすがに羞恥心が先に立つのか、顔を真っ赤にして身を硬くしている。
『ああ……美しいぞ、雪乃……』
「は……はずかしい……よぉ……」
左右の腕はベッドに投げ出されたままだが、その掌はぎゅっとシーツを握り締めていた。
『さあ……脚を広げろ……』
「うぅぅ……」
『素直に、するんだろう?』
「ううぅぅ……み、見ないでぇ……」
そう言いながらも、雪乃は言われるままに脚を開いてしまう。
もはや雪乃の秘密の花園を護っているのは、白い木綿の布切れ一枚だけだった。
『何故見てはいかん? 綺麗だぞ、とても、な』
「ああぁぁ……見ちゃ、みちゃいやぁ……」
雪乃はあまりの恥ずかしさに顔を覆ってしまった。大きく脚を広げながら恥ずかしさに顔を隠す様子は、私の劣情をズキズキと増幅させていく。
『さあ、右手を下に下ろすんだ』
「う……!」
不安と羞恥を顔に浮かべながらも、言う通りに手を下ろしていく雪乃。
『そうして、太腿の間に手を入れろ』
「う、うん……」
開いた太腿の間に、右手を差し入れる。
『そのまま少しずつ、上に撫で上げるのだ』
「う、ん……」
言われるままに、雪乃は少しずつ手を股間に近付ける。 「……う……う、うぅン!」 指がその場所に到達した瞬間、雪乃は発した事もない上擦った声をあげた。 ぞくぞくぞく、と快感がせり上がる。知らずに背筋が仰け反った。 「な……に、これぇ……」 『そう……そのまま、そこを撫で回せ……ゆっくり、な』 ゆっくりと指が上下に動き始める。両脚に粟立つ鳥肌が快感の大きさを物語っていた。 「い……ぃ、きもち、いいよぉ……」 私はその様子を見下ろしながら、押さえきれずに笑みを浮かべていた。 快感を得ようとする欲望は、原初からある人間の本能だ。一度快感を知れば、それを繰り返し、そしてより深く求めるようになる。 初めての快感を、自分の思うがままに雪乃に味わわせられることに、私は大きな満足感を覚えていた。 |
『さぁ、もっと速く動かしてみろ……そうそう、そしてもっと強く……ほら、気持ち良いだろう?』
「はぁ、あ、ぁ……うん、うん! き、きもちいい、きもちいいよぉ……」
雪乃は恍惚とした視線を宙に彷徨わせ、桜色の唇を開き始める。
その表情には、幼さが残る顔立ちには不自然なまでの淫靡な悦びが浮かんでいた。
『そう、そう、そう……もっと指先を中に差し込んで……そう、そうだ……もっと深く、もっと深くだ……』
「あぁ、あぁ、あぁ……す……ごい、すごいよぉ、これ、すごいぃ……」
雪乃のクレヴァスから、くちゅくちゅといやらしい音が聞こえている。木綿地のパンティに、うっすらと染みが浮かび始めていた。
『ほれ……雪乃、はしたない娘だな……こんなに濡らして』
「は、あぁ……これ……何……? 私、おもらし……しちゃったの……?」
雪乃は自分のワレメを見下ろし、途切れ途切れに戸惑いの声をあげる。
私は優しい声で、雪乃の耳朶に言葉を吹き込んでいく。
『これはおもらしではない。女が気持ち良くなった時に出る、蜜だ』
「気持ち……良く……?」
『そう。お前は淫乱な娘だからな。もっともっと、気持ちよくなってゆくぞ』
「う、そ……違う……」
『違うものか。ほれ、私に見られただけで、こんなに……』
「やだぁぁぁっ……」
雪乃は羞恥に首を振って否定しようとするが、その間にもその手は休まる事無く動き続けていた。
くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ……
『ほれ、もうこんなに蜜を流して……下着が汚れているぞ、脱いでしまえ』
「え……で、でも……」
『私の言う事が聞けないのか?』
「そんなぁ……は、恥ずかしいよぉ……」
雪乃は目に涙をためて訴える。さすがにこの段階では無理か──私は、とりあえずやり方を変えてみる事にした。
『そうか、私の言う事が聞けないのか……では、ここまでだな』
「え……!?」
雪乃の表情が、めまぐるしく哀願から焦りに変わる。
『私が欲しいのは、何でも言う事を聞く可愛い雪乃だ……そうでないなら、もう、』
「あ、あ、待ってっ!!」
雪乃は焦りを隠せずに、私の言葉を遮った。
もうこれが単なる自分の想像ではないという事を、雪乃は気付く事もできなくなっていた。
催眠術のようなものなのだ。目の前にある事柄だけが重要になり、周りの事や少々の矛盾はどうでもよくなってしまう。
初めての自慰行為──そして初めて受け取ったラブレター……雪乃の心は舞い上がり、非常に操られやすい状態になっていた。
そこに私は付けこみ、由佳にしたのと同じように雪乃の精神に働きかけて──。
──雪乃を、意のままに操っていくのだ。
『何だ、雪乃?』
「あ……あの、終わりにしないで……お願いです……」
雪乃は消え入りそうな声で哀願した。
『そう言われてもな……恥ずかしいのだろう? 私の言う事は聞けないのだろう?』
「…………」
雪乃は逡巡し、俯いた。
(もう一息だな……)
『なら、お前は必要ない。別の娘でも探す事にしよう──』
「し……します。言う事を聞きます……だから、行かないで……」
──堕ちた。
雪乃は震えながら、ゆっくりとパンティのゴムに手を掛けていく。
『別に無理はしなくていい。お前が駄目なら、他にも──』
「や……やります……」
思惑とは全く逆の事を口にしながら、私は密かに笑っていた。
雪乃は次第に、追い込まれている。
これなら最後まで行けるかも知れない──。
私の期待は、次第に大きく膨らんでいった。
『ふん……それなら、早くした方がいいぞ。私は少し飽きっぽいのでな』
「……ぅ……」
雪乃は諦めたように目を伏せ、パンティのゴムに指を潜らせる。
「……はぁ……」
見られている、という緊張からか雪乃は激しく動悸し、それを落ち着かせようとするように艶かしいため息をついていた。
『さぁ……どうする?』
「うぅ……」
雪乃は涙をぽろぽろとこぼしながら、
一気にパンティを膝まで下ろしていった。
亡霊の住む家 5 に続く