亡霊の住む家 14

 『母・法子 C』


「ひぐぅ……!!」
 ずぷ、ずぷずぷずぷ──
 まだ先刻の絶頂で濡れたままの法子の「女」は、驚くほどあっさりとバイブレーターを受け入れていく。
『くくく、美味そうに喰っているではないか……』
 バイブレーターは、そのまま法子の奥深くまで一気に貫いていた。
「う、うふう、う、ううぅ……」
 法子は弱々しく首をいやいやと振るが、びく、びくと身体が快感に反応するのを止める事は出来なかった。
『ほうらほら、どうしたどうした。まだスイッチも入れていないのだぞ』
 バイブを出し入れしながら、嘲笑を含んだ声が法子に掛けられる。
「っく……う……!」
 キッと、声のした方向を睨みつける。だがその答えは、洩れ聞こえる嘲笑と──バイブのスイッチだった。
 ヴヴヴヴヴヴ…………。
「ひぃぃぃぃいいい……っ、いやぁあああ……」
 法子の背筋が仰け反り、喉からは思わず懊悩の叫びが洩れていく。快感に対する堪え性が、驚くほど無くなっていた。
 法子は愕然としながら股間に動くバイブレーターを見つめる。自分でするのと、こんなに違うなんて……。
「ど……うして……」
『くっくっく、教えてやろう。もうお前はこれまでの身体ではない。あれだけ気持ち良くイキまくっておいて、元に戻れるとでも思っていたのか? この私にイカされた女は皆、こうなるのだよ……』
「う……そ、嘘……」
『くくく。ではそのよがりようは何だ、えぇ?』
 更なる羞恥が法子を襲う。
「うぅ……ぃゃぁぁ……」
 辛うじて自由になる首筋を仰け反らせ、法子は必死に恥辱から逃れようとした。
 だが、バイブの動きはそれを楽しむように、少しずつその往復を速めていく。
『ほぉれ、ほれほれ、気持ちいいだろう?』
 声の主は言いながら、ぐりぐりと膣の中でバイブレーターをひねり回した。膣口からだらだらと愛液が零れ落ちていく。
「かはぁぁぁ……ああぁぁ……お願い、もう、やめてぇ……」
『なんだ、もう降参か? いいぞ、自分が夫を裏切って、快楽に走った淫乱女だと認めるのならな』
「いやぁ、そんなの、嫌ぁ……」
『では、もうしばらくこうしているんだな。貞淑な女なのだろう? こんなトコロでくじけていては説得力の欠片もないぞ』
 言葉とは裏腹に、バイブの動きはどんどん強く、大きくなっていった。
 法子の白濁した愛液は、畳に大きな染みを作っていく。



 大きく両脚を広げ、曝け出された女芯の向こうに、法子の悩ましそうな顔が見えた。
『くく、いい恰好だな、法子』
「あ……!!」
 かぁぁぁっ、と法子の顔に血が上る。
 今、自分がどんな痴態を晒しているのか、思い知ったのだろう。
『くくく……こんなにだらだらと愛液を流しおって……そんなに嬉しいのか? 見知らぬ男に嬲られるのが』
「うぅっ……いやぁぁ、助けて……助けて、誰かぁ……」
 快感だけではなく、私は言葉をも使って法子の精神を追い込んでいく。
『くはははは!! 通行人にその姿を見せて助けてもらうのか? さぞや面白い事になるだろうな』
「…………!!! う……うぅぅ……」
 法子はハッと目を見開き、そして力無くうなだれた。ようやく、自分がどうしようもない状況に追い込まれているのを認識したか。
『そうだ……お前はもう、逃げられない……この家に踏み込んだ時点で、お前は私の手の内に入り込んでいるのだ』
「うぅ…………あ……あなた、誰なの……誰…………?」
 法子は弱々しく、呟くように問うてきた。
 諦めたような、慄くようなその表情は、さすが親娘と言うべきか──次女の雪乃にそっくりだ。
『くく……それは、後でじっくりと教えてやる……今は──ほれ、その快楽だけを考えろ』
 そうして、より一層バイブの動きを速めてやる。
「あう……っ、うぁ、ああっ、あああっ……」
『ほれ、ほれほれほれほれほれ……』

 どうしようもなく、羽根をもがれた小鳥のように快楽の渦に飲み込まれていく人妻を眺めるのは、この上もなく楽しかった。



「あ、あぁ、あぁ、あぁ、あぁ……」
 もう、よがり声を止める事も出来い。既に言い逃れが出来ないほどに感じてしまっている──その事実は、法子を深く打ちのめした。
 もう何度も法子の中に侵入しているバイブレーターは、今回も的確に法子の感じるポイントを攻めている。
 ──いや、それ以上だ。法子は荒れ狂う感情の中で、ひどく冷静に考えていた。
 「彼」は、女の弱点を知り尽くしている。ただひねりながら出し入れしているのではない。バイブについているカリとイボ──それらがどこに当たるのか、計算し尽くしているのだ。
「ん、ん! く、くぅぅぅ……」
 女性と、このバイブそのものを使い慣れていないと出来ない動きだった。
 突かれる度に、女の悦びが突き抜ける。

 実際、両手で数える程しか性経験のない法子など、彼にとっては赤子の手を捻るようなものだった。



「ああぁ、あぁ、ああぁぁぁ……」
 必死に絶頂を耐えているようで、実は法子は快感曲線を完全に操られていた。
 ここまで法子は必死に耐えてきたのだが、それは焦らしに焦らしてから絶頂させて屈服させる、という彼の作戦に過ぎなかったのだ。
 限界ギリギリの快感を常に与え続け、法子の精神を疲労させる──身体はギリギリ耐えている状態でも、こんな事を続ければ身体を支える精神の方が堪らない。
 既に身体の調教は一段落ついているのだ。今度は精神を調教される段階にいる──法子はそれに、気付いていない。
「ふ、うぅ、うふぅ、うううぅ、ふうぅ、ふ……」
 そして彼の思惑通りに、法子は理性の輝きを完全に失ってしまっていた。
 ただボーッとした眼つきで、虚ろに中空を見つめている。
「ふぁ、はあ、はあ、はああぁぁ……」
 目と口からはだらだらと涙と涎が流れ、表情には幽かな絶望と、恥辱──そして罪悪感が浮かんでいた。
 ──限界が近づいている。もう、法子は強く一突きするだけで絶頂を迎えてしまうだろう。
 だが。それでも法子は絶頂を迎えなかった。
 弱く弱く、それでも法子の精神をチリチリと焦がすように、男はバイブの動きを緩めてしまうのだ。

 ──ぶちっ。

 法子の中で、何かが切れた。
「あぐぅ。くぅぅぅ……お、お願いです、もう、もう……」
 ──来たか。
 男はほくそえむ。ついに法子の精神を屈服させる時がきた。文字通り貞淑な人妻であった法子をここまで追い込めた……天にも昇る思いだった。
 後は最後の仕上げだ。ここからが正念場──男は計画をもう一度頭の中で確かめ、確認した。
『こらこらしっかりしろ、まだ10分も経っていないぞ……全く、こんなに嬉しそうに垂れ流しおって。これで感じていないとでも言うつもりか?』
「くぅぅぅぅ……」
 男は嘲笑いながらバイブをずん、と押し込んだ。無論計算され尽くした、イってしまう直前のギリギリの強さだ。身体は辛うじて絶頂を免れたが、もう法子の精神は、この衝撃で完全に追い込まれてしまった。
『どうした? もしかしてイきたいのか?』
 ずん。再びバイブレーターが突き込まれる。
「ひぃっ……!」
 ずん。
「ぐ……ひ……」
 ずん。
「ぎひぃぃ……」
 ずん!
「きぃぃぃぃ……っ、いっ、イっちゃ、イっちゃうぅ……」
 ひく、ひくひく──。
 喉を限界までしならせて、絶望の表情のまま絶頂を迎えようとした、その瞬間──。
 突然バイブの電源が切れた。男の手の動きも、ぴたりと止まる。
「…………!?」
 突然の中断に、法子は思わず声の主に向かって「やめないで」と言いかかり、愕然とした。
 焦らされている……!!
『おいおい、そんな目で私を見るな。イきたくなどないのだろう?」
 声が嘲笑とともに浴びせられる。
「くぅ…………!!」
 法子には、段々と「彼」の目論見が分かってきた。「彼」は、自分に言わせるつもりなのだ。

 「イったら負け」というゲームで、「イかせてください」と、哀願させるつもりなのだ。

 ──だが、それが分かったところで、もうどうしようもなかった。
 ずん!
「くひぃぃ……」
 ずん!
「いい……い……ぃ……」
『くっくっく。頑張るな、法子。それでこそオレの肉奴にする甲斐があるというものだ……では、これはどうだ?』
 ヴヴヴヴビビビビビ!!
 声と同時にバイブのスイッチが入り、枝の部分が今まで手付かずだったクリトリスを直撃していた。
「…………!!!」
 法子の中で、再び何かがブツッと切れた。目に宿る最後の光が消えていく。
「あぁ、ああああ!! もう、もうダメぇ!! お願い、おねがいイかせてぇ……」
 髪を振り乱し、法子は泣きじゃくりながら哀願した。Gスポットとクリトリスを同時に挟むように刺激され、身も世もない声をあげる。
『では、こう言え。「私は夫を裏切った淫乱女です」、とな」
「あ……あ……」
『言えないのか?』
 ビビビビビビ!!
 ぐりぐりとクリトリスに刺激を送り込むと、法子はあっさりと従った。
「きぃぃぃぃっ!!! わ、私は、あの人を裏切った淫乱な女ですぅっ!!!」
『「こんな淫乱な私を、どうかあなたの肉奴隷にして下さい」』
「…………」
 ビビビビビビビビ!!!
「かぁ……っ、こ、こんな……淫乱……な…………」
 ビビビビビビビビビ!!!
「わた……し……をぉ、どうか、あなたの、……」
 パチン、と音がして刺激が消える。法子はもう半狂乱になって屈辱の誓いを口走った。
「に……にく、肉奴隷にして下さいっ!!!!」
 だが、男は容赦をしなかった。
『途切れ途切れでは何を言っているのか分からんぞ。一気に言い切れ。「こんな淫乱な私を、どうかあなたの肉奴隷にして下さい」とな』
 そう言い、グリ、とバイブレーターをひねった。
 それだけで、充分だった。

「ひいぃぃ、ひいぃ、こ、こんな淫乱な私を、どうかあなたの肉奴隷にして下さいっっ!!!!」



 どくん、どくん、どくん──。

 静寂。

 ただ法子の心音だけが耳の奥で鳴り続ける。
『……よく言った』
 ヴヴヴヴヴヴビビビビビビ!!!!
 男の言葉と共に、突き抜けるような快感が法子の中で暴れだした。
「ひいいいいっ、いひぃぃいいいいいいっ!!!」
 待ちに待った快感に、法子は心からの喜悦の声をあげる。
 バイブは無茶苦茶に動いた。先刻に倍する動き、グラインド、そしてバイブのパワー。
 しかも、それだけ無茶苦茶に動いても尚、的確に弱いポイントを突き通すのだ。
「ふわぁ、ふぅわぁ、き、気持ちいい、気持ちいいーーっ!!!」
 法子の顔は放心しきって涙と涎を流し、表情を喜悦に歪ませていた。
『そぉれ、それ、イってしまえ』
「ふぅわぁあああ、イくぅ、イくぅ、イっちゃうううぅぅぅ……」
 唇を尖らせ、快感を貪欲に味わう姿は、まさに肉奴隷そのものだ。
 男は、渾身の力をこめて法子に『絶頂』のイメージを叩きつけた。
『では、これでトドメだ!! イけ!!!』
「!!!!」
 ばしぃ!! と法子の全身に衝撃が走る。
 法子は視界を真っ白に染めて、人としての限界を越えた絶頂を迎えた。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 がく、がくがくがく、がくがく、がく…………
 白目を剥いて法子は失神し、投げ出した脚の間から、ちょろちょろと小水を漏らしていく。
 黄金色をした噴水が、畳に水溜りを作っていた。
 びくん、びくんと、声も出せないほどの愉悦に、爆ぜた身体を震わせる法子。
『……終わった……』
 彼女が声も出せずに悦び、打ち震える中、彼の満足げな呟きだけが、寝室の中に響いていた。



 最後に法子を絶頂させた、あの感触──。
 「イけ!!」と念じた瞬間、何かが迸り、法子の身体を直撃していた。

 ──電気ショックのようなものか?

 法子は感電したように身体を仰け反らせ、ケモノのように叫び、激しい絶頂を迎えた。

 ──ふむ、使える能力かも知れん。また試してみるか──コイツで、な。

 イけ、という私の強大な意思に引きずられる形で、彼女は強制的に絶頂を迎えさせられてしまったのだ。

 ──また、愉しみ方が一つ増えたな……。

 また一つ見つけた新しい能力に、私は満足そうに笑っていた。


 亡霊の住む家 15 に続く




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