亡霊の住む家 15

 『母・法子 D』


 法子が再び目を覚ました頃には、外は既に夕刻に差し掛かっていた。
 もう涙も枯れてしまったのか、空ろな表情で起き上がる。機械のような動きだった。
『ようこそ、めくるめく快楽の世界へ』
「……!!」
 芝居めいた声が背中に聞こえる。途端に、法子の顔に生気が戻った。
 キッ、と憎しみを込めた眼差しで振り返る。
 そこには、ぼうっとした人影が浮かんでいた。白い影──煙のようなものにも見える。
「あなたは、誰!?」
『「御主人様」に対する口の利き方ではないな』
 声には嘲笑が色濃く含まれていた。さっと、法子の顔が青ざめる。
『もうお前は私のモノなのだ、そういう口の利き方はやめさせないとな』
「だ、誰があなたなどに……」

【ひいぃぃ、ひいぃ、こ、こんな淫乱な私を、どうかあなたの肉奴隷にして下さいっっ!!!!】

 言いかけた瞬間、突然テレビのスイッチが入り、画面に法子の痴態が映し出された。
 法子は呆然とし、がく、と畳に手をつく。
「……ど……うして……」
 答えの代りに、洗濯物の山の中からビデオカメラが浮き上がった。
 半年前に夫が買っていた物だ。
『もうダビングも終わったぞ。お前が寝室でオナニーに耽っているテープもある。近所や家族にこの痴態を見せるのもいいかもな』
 げらげらげらと笑う声に、法子は自分が逃れられない罠に嵌められていた事を知った。
「非道い……」
『非道いものか、あれだけの悦楽を味わっておいてそれはないだろう?』
 ヴン。
「ひっ!? ……くぁぁぁっ!!」
 いきなりの衝撃に、一瞬気が遠くなる。バイブレーターはまだ法子の膣に入ったままだったのだ。 
『ほれほれ、さっきまでの威勢はどうした、メス犬が』
「ち、ちが……ひぃぃぃっ!!」
 クリトリスに振動が襲い掛かり、法子の性欲は完全に目覚めてしまった。
『それならば、今度はカメラの真ん前でイってみるか……』
「うぅ、うぅ、うぅ、うふうぅ……」
 法子は必死に男の攻めから逃れようとするが、身体に染みる快感は法子の動きを鈍らせた。
『これからお前を完全な肉奴隷に仕込んでやる。私からは逃げられない。どこに行ってもな。四六時中ずっと調教してやる……それにな』
 ばしいっ!!
「ひぃぃぃぃぃいいああああああああーーーーーっ!!!!!!」
 いきなり電流が走り、逃げようともがいていた法子はあっけなく絶頂してしまった。
『さっきも言ったが、もうお前は以前のお前ではない──まあ、今に分かる。もうお前は私無しでは半日も我慢できんのだからな』
 がくがくと身体を震わせながら法子は畳に倒れ込む。
「……!!」
 目の前で、ビデオカメラ回っていた。かぁぁぁっ、と羞恥の炎が法子の頬を染める。
 圧倒的なまでの屈服感。今まで、これほどまでに自分が「女」である事を思い知らされた事は無かった。
「嫌……嫌です……私、私は…………」
『あれだけの痴態晒しておいて、今更偉そうな口を利くな』
「う……!!」
 あまりの恥辱と理不尽な出来事に、堪らずに涙が溢れた。
 涙など、もう枯れたと思っていたのに。
『これから不遜な物言いをする度に、今のを食らわすからな』
「い、嫌ですっ!! あなたなんかに……」
 ばしいっ!!
「──きひぃぃぃぃぃいいーーーーーっ!!!!!」
 ばしいっ!!
「ぃぃぃいいやぁぁぁああーーーーーっ!!!!!」
 ばしいっ!!!
「あ、ぁ……が……あ…………っ!!!!!!」
 ばしいっ!!!!
「…………も…………ゆ……る……し、て…………っ!!!!!!」
 男の電撃を何度も浴びて、法子はその度に絶頂し、とうとう涙に咽んで許しを請いた。
 咥えたバイブレーターの柄をわなわなと震わせて、法子の膣はとめどなく蜜を垂れ流している。
 快感を堪える事もできない身体になってしまった事、そして、以前とは比べものにならないほど感じる身体になってしまった事に、法子は自分が堕ちてしまった事を悟り……絶望した。



「…………う、う……」
『分かったか?』
「…………」
 法子は、咽び泣いたまま答えない。
『分からないならもう一度……』
「ひぃぃっ!! わ、分かりましたっ!! も、もう、逆らわないから、もう、やめてぇ……」
 だが、この男の脅しの前には逆らえなかった。
『……では、認めるか? お前は淫乱な女だという事を』
「……ぅ……みとめ、ます……」
 ふわり、とビデオカメラが浮き上がる。録画中を示すランプが点灯し、レンズが真正面から法子を捉えた。
『では、言え。「私は夫を裏切った淫乱女です」とな』
 ハッと見開いた目も、絶望と諦めに伏せられていく。
「私……は、夫を裏切った……淫乱女です」
 カメラに向かって屈辱の誓いを行いながら、法子はぽろぽろと涙を流していた──それが、彼女に許された唯一の自由だったのだ。
『よし……次は「こんな淫乱な私を、どうかあなたの肉奴隷にして下さい」だ』
「くぅ……」
『言え』
 ばしぃっ!!!
「ぎひぃぃぃっ!!! ああ、あ……」
『言えないのか? ならば、また──』
「いやぁぁっ!!! い、言います、言いますぅ……こ、こんな淫乱な私を、どうかあなたの……肉奴隷にして下さいぃ……ううぅ……」
 言い終わると同時に、法子は顔を覆って泣き崩れた。
『──よし、よく言った。これでお前は、他の誰の物でもない、私の物だ』
「……どうし……どうして……こんな事に……」
 もう、法子には泣く事しかできなかった。
『さて、最初の調教といくか。──立て』
 法子はもう逆らわない。逆らえない事を、逃げもできない事を思い知らされ、ただゆっくりと立ち上がり、白い影に向き直った。
『脱げ』
 びく、と身を竦ませた後、法子はぐずつきながら服を脱ぎ始める。
 カーディガンを脱ぎ、続いて半ば千切れかけていたワイシャツを脱ぎ捨てた。
「…………」
 少しだけ窺う視線を影に送ったが、影から『全部だ』と言われ、諦めたようにスカートに手を掛ける。
「う、う……」
 するするとスカートが下ろされていき、法子の秘部が露になる。屈辱的な事に、カメラのファインダーは、法子の蜜が膝まで垂れている事をはっきり映し出していた。
 半分外れかけていたブラジャーも外される。平日の夕映えの中、法子の裸身は神々しいまでに美しかった。
 とても子供を三人も産んだ身体とは思えない、若々しい、張りのある肉体だ。
『美しい……まさに、私の所有物になるに相応しい』
 涙に濡れた視線がカメラに向けられる。
『来い』
 声に従い、カメラの浮いている白い影の方へ近づいた。
『よし、そこで止まれ──動くなよ』
 声と同時に、ぐに、と胸が掌の形に凹む。
「う、……」
 半透明の彼の手は、巧みに法子の胸を愛撫した。
 揉み、撫で回し、急に乳首を摘み、転がし──調教を受けて淫靡になっている法子の肉体はすぐに反応し、むくりとピンク色の乳首を勃起させてしまった。
 法子は恥ずかしそうに、ツンと上を向いて屹立した乳首を見つめている。
「ふ、う……う、あ!」
 乳首を愛撫していた手は、今度は股間に伸びてきた。びしょ濡れになっている秘裂を撫で回し、するすると中に指を滑り込ませる。
 奥に隠れていた肉襞は、火傷に爛れたような赤色だった。表面のピンクとのコントラストが、法子の隠し持つ淫靡さを物語っているかのようだ。
 その襞の中心へと、半透明の指はずぶずぶと侵入し、痺れるような熱さを法子に送り込む。
「あ……あ、あ……」
 指での愛撫だけで、法子の女はだらだらと熱い涙を流していく。
 その指に纏わりついたのだろう、指の形に膜を作った愛液が空中に持ち上がり、法子の口に突っ込まれた。
「ぐ、う……ん……」
 自分の愛液を舐めさせられ、法子の脳裏に羞恥が蘇る。カメラはすぐ前で、事の一部始終を撮り続けているのだ。
 しかし、もう抵抗したいとは思わなかった。
 法子の妻としての、人間としての尊厳とプライドは完膚なまでに踏み躙られ、貶められていた。
 ──逆にマゾヒスティックな快感が生まれ、育ち始めてさえいたのだ。

 短時間のうちに完膚なまでに蹂躙され、あらゆる精神的な支えを失った法子は、代りに肉奴隷として愛撫される事に、悦びと自己存在理由を求めようとしていた。
 もともとが引っ込み思案で、精神の弱かった法子は、こうする事でしか自己の崩壊を防げなかったのだろう。
『まだ力が抜け切っていないな……どれ、私がほぐしてやろう……』
「あ……あ!! ああ、ああ、やめ、やめてぇ、やめてぇぇ……」
 氷のように冷たい、ざらりとした感触。
 莢から爆ぜていたクリトリスを、舌先が嬲るようにこねくり回し、ヤスリのように擦り上げる。
「うぁあ、あぁあ、あぁああぁあああああぁ……」
 法子は翻弄され、声を抑える事も忘れて悶え狂った。
 優しく、的確で、容赦のない愛撫。
 身体中が溶かされてしまいそうな、舌の感触。
「あぁあああぁぁ、やめ、やめてぇぇ……」
『やめて、だと? お前は誰に向かって口を利いているのだ?』
 突然口調の変わった男の声に、はっと法子の顔に恐怖が戻った。
「──!! あ……あぁ……ご、ごめんなさい……や、止めて下さいぃ」
『私に向かって指図する事自体、分不相応だ。お前はただ私に身を委ねろ。それがお前の役目だ』
「は……は、ぃ……もうしわけ、ありません……」
 消え入りそうな声で、法子は従順な態度を示す。
 途端、男の声は嬉しそうな口調に戻った。
『そうだ。ただ私に従い続ければ、この世の物とは思えない快楽を味わわせてやるからな。──さぁ、もっと脚を広げろ』
「はい……」
 法子がおずおずと脚を開くと、すぐさま舌の攻めが再開された。
 ざらり。ざら、ざら、ざら、ざら、ちゅぅぅぅ……くりくりくりくり……
「うっ、く、ぅ……ふう、ふ……ふぁ、ぁぁぁぁぁ……」
『……どうだ? 気持ち良いか、法子?』
「くぅ……そ、そんな事、ありません……」
 途切れ途切れの、法子の声。既に死ぬほど恥ずかしい姿を晒してしまっているというのに、法子はそれを認めたくなかったのだ。
 だが、彼の攻めが、そんな儚い抵抗を許すはずも無い。
『──ほう? まだ素直になりきれていないのか。全く、困った奴だ』
「ぅあ、あ!!!」
 まるでかりかりと音がするかのように──。
 彼の歯が、法子のクリトリスを噛んだ。
「ふわぁ、あああ、いやぁ、いやぁ、いやぁぁぁ!!!!」
 くり、くり、くり──
 歯の攻めには、容赦が無かった。
 無茶苦茶に暴れる身体を無理矢理押さえ込み、女の一番敏感な部分を、噛み、転がし、擦り、引っ張り──。
 突き抜けるような鋭い快感に、法子の全身が引き攣るように仰け反っていく。
「かはぁ……ぁぁ……やぁぁ、やぁぁぁ…………あ、あ!!! やめてぇ、やめぇぇ……」
『私に指図するな、と言うのに……仕方がない奴だな。ほれ、気持ち良いと言ってみろ、そうすれば許してやるぞ』
(どこまで、私を辱めれば気が済むの……)
 精も根も尽き果てた法子は、どこか他人事の様に、そんな事を考えていた。
(ビデオの前で服従を誓わされ、浅ましい姿を晒させて、その上──!!!)
「あ……!!!」
 きゅっきゅっ、と強く、小さな部分を噛み転がされて、法子は、
「ああっ、あああっ、あああああああああ!!!! …………きっ、気持ち、いい…………いいぃ!!!!」

 もう何も考えられなくなってしまった。



『……行くぞ』
 たっぷりとおんなを愛撫された後、ぐい、と右脚が持ち上げられた。法子の秘裂に、生暖かい「なにか」が押し当てられる。
「……はい……」
 頷いた彼女の顔は、諦めと悲しみの中に、僅かに喜びを滲ませていた。

 ──ずん。

 熱い。法子は最初は、圧倒的な熱を感じた。
 そして、その存在感を。
 自分の中心に、熱く大きな何かが、割り込んでくる──

 ずぐ、ずずずずずず……

 ──それは、実体化した彼の肉棒だった。

「あぁ」
 思わず、よがり声をあげる。
 全身の細胞が、歓喜の叫び声を上げていた。

 ずぐずぐずぐ、ず────ずん!!!

「ああぁ……あ──ああああああぁぁああああぁああああああああああああああっ!!!!!!!」

 ──それは、法子が、身も心も、彼の肉奴になり下がった瞬間だった。

 彼の肉棒が奥に到達した瞬間、それだけで法子は絶頂していたのだ。



(熱い……)
 とろけるような、膣だった。

 燃え滾る欲望を法子の女芯へと突き入れた瞬間、私はただ、その熔かされるような熱を感じていた。

「ああぁ……あ──ああああああぁぁああああぁああああああああああああああっ!!!!!!!」

 絡みつくように、包み込むように――まるで、女そのもののように、法子は私の肉棒を受け入れる。
(貫かれただけで、絶頂したか――)
 子宮口までを一気に貫くと、法子の膣はまた、劇的にその感触を変えた。
 数年振りに受け入れた男根に、膣はあっけなく絶頂を迎えて、激しく蠕動を始めたのだ。
 まるで全てを飲み込もうとするように、溶かしてしまおうとするかのように、肉襞の一つ一つが蠢いている。
『これは……凄い……』
 その目くるめく感触に、私は動くことも忘れて酔いしれた。
「ああ……ああぁぁぁあああぁぁ、ああううぅぅぅ、ああ……」
 自らを征服した男に、優しく絡みつき、貪欲に射精を促す――自らの内奥にその精を受け止める為に。その底知れぬ性は……。
(まさしく女そのもの、だな……)
 かつて、愛した女達の記憶が、一気に蘇る。
 だが――、その記憶の中にも、かつてこれほどの快楽をもたらしてくれた女はいなかった。
『本物の、名器、か……』
 ゆっくりと、動かし始める。
「うぁぁぁぁっ、ああああああ、あああああああああ、ああああーーーーーーーーーーっ!!!!!」
 絶頂の余韻に浸っていた法子は、新たな刺激にのたうち回った。
 動く度に、突き入れる度に、更なる快楽と絶頂が襲っているのだろう――膣口からごぽごぽと愛液を溢れさせながら、彼女の膣は小刻みに蠕動している。
 ず……ぐっ、ずぐぐ、ずぐ、ずぐ、ずぐ……
「ふ……太い、おおきいぃ、あああぁぁぁ、も、もう、もう、ダメぇぇ、壊れちゃう、こわれちゃ……あああっ、あああーーーっ!!!」
 法子は息も絶え絶えにそう訴えてきたが、私はそれに気付く事も出来なかった。
 やはり――凄い。
 襞の一枚一枚までが、まるで別々の生き物のように動き、絡みつくかのようだ。
 男を狂わせる全てを、この女は持っている――。
「ああああああぁ、熔ける、熔けちゃうぅ、こんな、こんなの……凄い、凄すぎ……る……ぅ……」
 法子の声も、恐怖や慄きの響きを失い、次第に艶のある女の声に変わっていく……。

 もう、考えるのはよそう、ただ肉欲の迸るままに、この女を貪り尽くそう――。
 全てを溶かし、混じり合い、一つになろう――そんな衝動に駆られていく。

 自分という存在が全て吸い出され、飲み込まれる、そんな錯覚さえ感じるセックスだった。
 女を犯し、貫く――目も眩むような、その激しく燃える劣情の全てに、没頭していく――。
 ずぐ、ずぐ、ずぐ――ずぐ、ぐ、ぐ、ずぐずぐずぐずぐずぐずぐ!!!
「あっ……あっ、あっ、あっ、だめぇ、もうだめぇぇぇぇぇぇっ!!!」
 来るか――ついに。
 法子の、最後の絶頂の瞬間が。
 全身を戦慄かせ、突かれる度に小さなアクメを迎えながら、とうとう全てを快楽の前に投げ出す瞬間が――近づいたのだ。
「だ……め、らめぇぇ、もう、もう、らめぇぇぇぇぇっ!!! 死んじゃうっ、死んじゃうっ、死んじゃうううううっ!!!!」
 輝きを失った瞳が、焦点を失って宙を見つめる。
 腰が、暴れ馬のようにくねり、跳ね回っている。
 その声は掠れて引き攣れ、次第に明瞭な言葉を無くして獣のような叫びを上げ始める。
『ふふ……そろそろ限界のようだな。さあ、思い切りイかせてやる、とくと、味わえっ!!』
 最後の追い込みとばかりに、ストロークのピッチを早め、激しく子宮口を突き上げた。
 ずぐずぐずぐずぐ!!! ずぐずぐずぐずぐずぐずぐ!!!!
 ぎくぎくんっ!! と、法子の全身が強張る。
 そして――

「ひぃぃぃぃーーーーーーーーーぁあああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
 
 がくんがくんがくんと全身を暴れさせ、ケモノのような絶叫を上げた。



 彼に迎えさせられた絶頂は、法子の精神をはるかな高みに導いた。
 快感とか、快楽とか、そういうレベルではなかった。むしろ臨死とか、死という言葉の方が近い。

 もともと「彼」の源になっていたのは、生前の彼の怨念からくる、圧倒的なまでの自我の強さだったのだ。
 欲望、憎悪、無念、生への執着──それらが歪んで寄り集まって、「彼」を生んだ。

 つまり、彼は情念そのもの──凄まじく強い意志、そのものなのだ。

 女たちが彼の言いなりになってしまうのも、催眠術の様な暗示を簡単に受けてしまうのも、彼女たちの意識が意識そのものである彼──それも、圧倒的に強力な意識に、飲み込まれるように影響されてしまうからだ。

 彼はその強力な思念の全身全霊をかけて法子の精神に「イけ!!」と命じ、
 法子の精神はそれに翻弄されるように、「身も心も」イッてしまったのだ。

 無理やりレイプされる時よりも心より愛しあう夫とのセックスのほうが、「幸せな」快感であるように、彼とのセックスを夫との時よりも「幸せな」セックスに「させられて」しまったのだ。

 つまり言い換えれば、法子はこの瞬間に、
 彼を夫よりも愛しい存在として刷り込まれてしまったのだと言える──洗脳のように。

「あ・あぁ、ああああああ・あぁぁ……く……あ、あああああ!!!!! あ・あ……あああ、ああ……あ・あ……っ!!!!!!」

 法子は気が触れてしまったかのように白目を剥き、汗と涎と涙をだらだら流してイき続ける。
 その様子を見て、彼は高笑いしながら、

 より深く彼女の精神に楔を打ち込むように、その精を彼女の子宮に叩き込んだ。



 十数分後、至福の時から目覚めた法子は、戸惑いを隠せなかった。 
 彼に対する絶対的な服従心とも言うべき感情が湧き上がり、自分の中を支配していたのだ。

 夫よりも、家族よりも大切な背徳の主人……。自分の、本当の所有者。
 理由もなく、目の前の人影をそう……感じてしまうのだ。

 自分がこんな感情を持つなんて……こんな、不道徳な人間になるなんて……。
 だが、恋愛感情が理屈抜きの抗い難い感情であるように、この気持ちも容易に消せそうにはなかった。
『どうした?』
「いっ、いいえ、何でもありません……」
 法子は動揺を隠すように答える。が、次に聞こえたのはくっくっく、という押し殺した笑い声だった。
 ──見透かされている。
 だが、それでも法子の精神に生じたのは、憎しみでも自己嫌悪でもなく、「恥じらい」だった。
『そうか……可愛い奴だ。これから思いきり善がらせてやるからな』
「は、い……」
 法子の顔が、恍惚に歪む。
 言いようのない喜びが湧き上がった。
 嬉しい。これからもずっと、あの快感を味わえるのだ──と。



『では、まずはお前が汚した部屋の掃除だ。綺麗にしておけ』
「……はい……」
 隣のリビングは、外から見える。しきりに外を気にしながら全裸で雑巾がけをする法子の様子を、カメラが克明に捉えていた。
 ──様々な角度から。
「あ……」
『何だ?』
「カ、カメラが……」
 法子は自分の背後に廻っているビデオカメラを見つめる。何を撮っているのかは、明白だった。
『気にするな』
「う……はい……」
 四つん這いになって後ろから秘部を撮られる──法子は必死に羞恥を堪え、畳を拭く手を速めた。

 理性や正気を残した上での完全な支配──それが、彼の求める究極の主従関係である。今の法子はまさに、その結実であった。



『そうだ……これからは私の事を「ご主人様」と呼べ、いいな?』
「は……はい……ご主人様……ぁ……」
 そう呼んだ瞬間、法子の全身を言いようのない悦びが突き抜けた。
 甘美なる響き。彼が自分の所有者であるという事を、口にする度に確かめる事ができる、その言葉。
 これからは全てを委ねればいい、もう私はご主人様のモノになったのだから──。

『では次だ。風呂場へ行け』
「……はい……」
 戸惑いも、恥ずかしさも、ご主人様に嫌われる事に比べたらどうでもよかった。

 法子は彼の言葉通りに浴室へと向かいながら、本当に自分の中で彼への嫌悪感が消えている事に――喜びさえ、感じていたのだ。



 亡霊の住む家 16 に続く





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