亡霊の住む家 16

 『母・法子 E』


 全裸の法子は、風呂場に違和感無く佇んでいた。
 西向きの小さな窓からは、かなり水平に近い角度で夕日が差し込み、法子の身体に鮮やかな陰影を象っている。
『座れ』
 風呂場に入って、彼は簡潔に命令した。
「はい……」
 法子は逆らわず、だが恥ずかしそうに頷き、浴槽の縁に腰掛ける。
『脚を広げろ』
「……、はい……」
 おずおずと両脚が開かれ、未だに白濁した液をたたえた秘裂が露わになった。
『よし、そのまま動くな……』
「は、はい……」
 淫靡なポーズを強要され、法子は恥ずかしそうに俯く。

 もう、逆らおうと考える事さえできなかった。
 法子はただこの出来事が他人に知られないように、それに帰宅の時間が近付いている鈴穂に見られないようにと、心配するだけだ。
 今の自分に対する羞恥はあれど、それはもはや、背徳的な悦びに裏打ちされた物に過ぎなかった。

 カチャ……カチャと音がして、剃刀と女性用シェービングクリームが法子の目の前に現われた。
「……!!!」
 法子は、彼が何をしようとしているのかを悟る。
 ──これが、儀式なのだ。
「ご……ご主人様、それだけは……」
 法子は涙を浮かべて訴える。
『何故だ?』
「お……夫に、その……見つかってしまいます……」
 瞬間、あの電撃が法子を襲った。
 ばしぃっ!!
「き、きひぃぃぃいいいーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 また、法子は全身をわななかせ、あっさりとイッてしまう。
 ひくひくと蠢く秘裂から、白濁液がどろどろと流れ出していた。
「あ、あ……ぐ……」
『いいか、お前は私の所有物であり、もうあの男のモノではない。その位の事は適当に誤魔化せばいいだろう』
「は……はい、はい、わかりました……」
 がくがくがく、と身体を震わせながら法子は必死に頷く。
『なるべく夫とは疎遠になれ。変化に気付かれると厄介だからな。──だが、娘達には変わらない態度で接しろ』
(子供たち……)
「あ……!!」
 そう言われ、法子は恐ろしい予感に襲われた。
『何だ?』
「あ、あの……あの子達には……」
『あぁ、手を出すな、か。──いいだろう、お前が完全な私の所有物である限り、娘達には手は出さん』
「わ、分かりました……あなたに、従います……どうか、どうかあの子達だけは、無事に……」
『良かろう……』

 娘達の為に、あの子達が無事でいられるなら、私の犠牲など……。
 決して劣情に負けたわけじゃない。私は、私は、子供達の為に、この人に従うの……。
 私さえ耐えれば、誰も、誰も……。

 法子は快楽を欲する自分を偽って、この主従関係を正当化していく。
 ──それすら彼にはお見通しで、しかも雪乃達はとっくに彼の顎に捕えられている事も知らずに。

『さぁ、それでは肉奴隷の儀式だ』
 彼はそう言い、シェービングクリームを法子の股間に塗りつけ始めた。
「……は、い……」
 くすぐったそうに、恥ずかしそうにしながらも、法子は頷いた。
「う……く、す、ぐったい……」
 泡の感触に身をよじる様子を見て、彼は少し嘲笑ったようだった。
『……行くぞ。動くな』
「はい……」
 剃刀の冷たい感触が走り、ぞり、と法子の陰毛が剃り採られた。
 ぞり、ぞり、じょり……
「ふうぅ……ふうぅぅ……」
 自分が貶められる、という感覚に、汚されていく、という実感。法子はそれらに、痺れるような快感を感じていた。
 ぞくぞく、と背筋を妖しい波が伝っていく。

 ぞり、ぞり、ぞり……
 彼の剃刀が動く度に、法子の身体はぴくり、ぴくりと反応していた。



 じょり、じょり……
「あ……あ……」
 その反応の度に、法子の中の理性や誇りは、痺れたように消え失せて行く。
 じょり、じょり、じょり、じょり……
「あぁ、あぁ、あああぁ……」
 そして──。
『……さあ、終わったぞ』
「あぁ……」
 熱いシャワーで秘部を流され、法子は熱いため息をつく。露になった股間は、生まれた時のようにつるつるになっていた。
 法子の膣口は年齢を感じさせない美しいサーモンピンクだ。まだ充分、20代で通用する身体だった。
「は、はずかしぃ……」
『これが、お前がオレの肉奴になった証だ。分かったな』
「はい……」
 頷いた法子の表情には、もう恐怖も嫌悪も見られない。

 そこにはただ、恍惚とした悦びだけが──。



『さて、と。もう一つ、やって貰う事があったな』
「え……何、ですか?」
 風呂の縁から降りようとしていた法子に、彼は再び命令を下した。
『もう一度脚を広げろ』
「は……はい……」
 再び、恥ずかしいポーズをとる法子。風呂の隅から一部始終を撮っていたビデオカメラが、再びふわりと持ち上げられた。
『出せ』
「え!?」
 ぎく、と法子は震えた。まさか……。まさかあんなに恥ずかしいことを、と。
 窺うように白い影とカメラを見る。
 しかし次の言葉で、法子は再び羞恥の嵐に翻弄される事になった。
『出すんだ、小便をな』
「え、えぇ!? そ、そんな事……」
『何だ?』
「し……した事ないです……その、人前でなんて……」
 恥ずかしそうに、法子が俯く。
『そうか……なら更に好都合だ。お前の初めての放尿シーン、今ここで見せろ』
「う……!!」
 法子の目尻から涙が溢れる。だが、法子はもう彼に逆らえなかった。
 羞恥を堪えて、下腹に力を入れる。──が、なかなか出てこない。
「どうした?」
『あ……あの、緊張して……』
 放尿という恥辱行為を、しかもビデオカメラの前で行うのだ。出そうと思っても中々出せるものではないのだろう。
 その時、す、と風が動き、彼の指が秘裂を割った。
「あ……!」
『仕方が無い奴だ。どれ、私がほぐしてやろう』
 声と同時に、あの巧みな指が法子の中にぬるりと滑り込む。
「ふぁ、あ……!! くふぅ……ぅぅ……」
 鼻にかかるような、法子の甘い声。
 半ば透き通った指に掻き回され、法子の花弁はカメラの目の前で妖しく踊っていた。
『それ、それ、それ』
「あぁ、あぁ、あぁ……」
 くちゅ、くちゅ、くちゅ、くちゅ──。
 人外の快感に目覚めてしまった彼女が、その身体を知り尽くした彼の指に、舌に、耐えられるはずもない。
 彼の愛撫が数分間続き、とうとう法子の身体は、ぶるぶると震え始めた。
 ──そして。
「あ・あ・ああ……」
 法子は両脚を大きく広げたまま、背筋を反らせて悲鳴を上げる。
『いよいよ出るか?』
「で、出ます、でま……あ・あ・あ!!」
 止めとばかりにクリトリスを甘噛みされ、法子は最後にぶるん、と身体を震わせ、ついに放尿した。
 ぷしゃぁぁぁぁ……びちびちびちびち……
「ああぁ…………ぁああぁ……」
 黄金色のアーチが美しく描かれていく。
 その根元から床の黄色い水溜りまで、そして全体を、カメラは舐めるように収めていた。
 ……びちびちびちびち……
「あぁ……あぁ……」
 びくん、びくん、と全身を震わせながら、法子は恍惚とした表情で放尿を続ける。
 もうカメラで撮られている事も気にならなかった。
「はぁぁ……」
 法子のついたため息は、快感と、全てを棄てた開放感に妖しく彩られていた。



『……どれ、ではもう一度、愉しむとするか』
 放尿を終え、すっかり放心してしまった法子に、再び彼の肉棒が侵入した。
 ずぐん。
「あぐぅ……あぁ、あぁぁ……」
 ず、ずずず……
 潤いをたたえた法子の膣は、貪欲にソレを飲み込んでいく。
『ふっふ……ほれ、奥まで入ったぞ』
「あぁ……あああぁ……」
 大した抵抗も無く、法子は一番の奥──子宮の入口まで、貫かれていた。
「うぁ、あぁ、あああ……ご、ご主人、さまぁ……」
 その先端でぐりぐりと子宮口を嬲った後、彼はゆっくりと動き始める。
『くっく、くっくっく、いいぞ、いい具合だ……これでこそ、長い時間を掛けて調教した甲斐があるというもの……』
 ず……ずっ、ずっ、ずっ、ずっ……
「ああ……ああぁ、あああぁ、すご……い、すごいぃ、ご主人様がぁ、一杯ぃ……」
 壁のタイルに手をついて身体を支えながら、法子は突き上げられ、何度も仰け反った。
 理性もプライドも打ち砕かれ、その隙間には彼への服従とその悦びが、少しずつ染み込んでいく。
『どうだ……堪らんだろう? これが性奴の味わう快感だ……』
「い……いいっ、いいのっ、いい……っ、あああっ、ああああっ……」
 彼の指先は法子のたわわな乳房を弄り、クリトリスを捏ね回した。貫かれながら、法子の背筋が仰け反っていく。
 実体化させた彼の肉棒は太く、長く、そして微妙な凹凸を自由自在に模っているようだった。
 その微妙な凹凸が法子のGスポットを擦り、そして刺激に飢えていた膣壁を嫌と言うほどに抉っていく。
『実体化というのは便利なものだな……ほれ、ここが良いのか? では、こうではどうだ?』
 言葉と共に、逸物の突起は更に鋭くなった。
「あああっ、ごっ、ご主人さまぁ、そこ、そこはぁ……」
『そうか。くくく──では、集中的に攻めてやるぞ、よがり狂うまでな』
「う、うわあぁぁ、うわぁぁぁ、あああ……ひ、ひぃ、ひぃーーーーーっ!!!」
 Gスポットのど真ん中──そこから子宮口までの一直線を、彼の逸物は攻め立てる。
 一突き、一突き毎に、女に生まれた悦びが、法子の脳裏を焼いていった。
『ほぉれ、ほれ、どうだ、どうだ──』
「あぐ……ぅ…………ひ……っくぅ……」
 法子はもう、まともな言葉を紡ぐことも出来ない。
『そうか……イくか。では、どびきりの絶頂を与えてやる──さぁ、イけ!! イけ!!!』
 ずん、ずんずんずんずんずんずんずん!!!
「はぁ……っ!!」
 止めとばかりの激しい突き上げに、法子は呼吸も忘れて跳ね上がった。

「かはぁ……っ、あああっ、あああぁああああああああぁぁあああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 がくんがくがくん──。
 激しい痙攣に身体全体を震わせながら、めくるめく悦びに貫かれ、法子は気を失いかける。
 だが、彼の攻めは終わらなかった。
『くっくっく……まだだ、まだだぞ、法子……もっともっと強烈な、とびきりの絶頂を味わわせてやる』
 ずんっ!!
「あ……ぁ……」
 絶頂にわななく法子の身体は、その突き上げに耐えられない。

「──うぁ、ああああああああ!!!!!!」

 びくん、びくんびくんびくん……
 より深い、めくるめくような絶頂が、男の一突きで訪れた。
 ずんっ、ずんっ、ずんっ!!!

『凄い……全身が、飲みこまれるようだ……』
「ああぁ、ま、またぁ、またぁぁ……あぐ、あああああああああ!!!!!!」

 一突き、一突き──突き上げられるたびに、法子は絶頂を繰り返していく。
 あまりの快感と苦痛に、法子は本能的に彼の身体に両手をついて離そうとした。だが、それも空しく、両手は白い影を突き抜ける。
『くはははは……そうか、そんなに気持ち良いか、素晴らしい量のエナジーだぞ……それ、もっと、もっとだ!!!』
 ずんっ、ずんっ、ずんっ、ずんっ!!!!

「うぁぁ、うあぁぁ、もう、もう……狂っちゃ……ああ、ああああああああああああああ!!!!!!」

 法子の両手は空しく宙を掴み、そのまま硬直して激しい絶頂に打ち震える。
 だらしなく開かれた口からは涎を垂らし――涙と汗でぐちゃぐちゃにしながらも、いつしかその顔は放心しきった笑みを浮かべていた。
『ふふふ……呼吸まで忘れて感じる奴があるか……死んでしまうぞ?』
「うぁっ……ああぁぁ……」
 さすがに不味いと思ったのか、男の肉棒が抜き出された。
 それでも法子は度重なる絶頂に、我を忘れて感じ入っている。

「くふ……ぅ…………ぁぁ……」
 そこにはもう、一人の母としての誇りなど微塵も存在しない──ただ動物として悦びを貪る、「雌」だけが存在していた。



『全く仕様のない奴だ。──ん?』
「──え? あ!!」
 いきなり両足を持ち上げられた法子は我に返り──そして、股間に彼の存在を感じ、慄いた。
「あ、あの、ご主人様……?」
『ふむ……これはひょっとして……』
「え? え!? ──あ!!!」
 ざらりとした感触が、いきなり法子のクリトリスを襲う。
 まだ絶頂から脱していない法子の身体は、過剰なほどに反応した。
 ざら、ざら、ざら、ざら……
「ひ……ひぃぃっ!!! あ、ご、ご主人さま、そんな、そんなぁ……」
 切なげな法子の訴えを身視し、男の舌は丹念に法子の秘部を這い回った。
 いきなりの優しい、優しすぎるほどの愛撫を受け、法子の身体は混乱していく。
「くぅ……ひ、ひぃっ!!! ああ、あああ、ご主人さま、お願い、お願いですから……」
『どうした? 法子……何をして欲しいのだ?』
「……そ、そんなに……優しく……優しく、しないで下さい……」
 消え入りそうな法子の哀願に、男の揶揄を含んだ声が答えた。
『くっくくく……そうかそうか、そんなに私の逸物が欲しいのか……だが待っていろ、少し確かめたい事があるのでな』
「うぅ……!!」
 興奮に真っ赤だった法子の顔が、更に羞恥に染まっていく。
 だが、その間にも愛撫は止まない。次第次第に、法子の限界が近づいていた。
 ちろちろ、ちろちろちろ……
「あ、あ……ぁ……こんな、こんなの、嫌……です……うっ、う……」
 切なさと恥ずかしさに泣きながらも、法子の腰はせり上がり、わなわなとその秘肉を震わせていく。
『どれ、これで一度イッてみろ。先程の奇妙な感触、もしかしたら……な』
「だめっ……駄目です……うぁ、あああ、こんなの……こんなの、嫌ぁぁぁ……」

 表面の、クリトリスと膣口だけの愛撫に、法子は強烈なもどかしさを感じていた。
 愛撫と絶頂──交互に何度も何度も絶頂を味わわされ、焦らされる快感も、思いっきりの絶頂も、法子は貪欲に覚えてしまっている。
 止めてほしくても、抵抗しても、法子の身体は絶頂への曲線を描いてしまうのだ。
 もどかしいだけの、ただ切なさを増すだけの、嬲るような愛撫──それでも法子は、絶頂の刻を、快楽に屈服する瞬間を、迎えてしまう。

「ひっ、ひぃぃ……こんなの……こんなの、おかしくなっ……ちゃ……う…………──ひぃぃっ!!!」
 膣口から、ぴゅっぴゅっ、と、膀胱に残っていた小水が迸った。
 そして──。

「ああっ、あああっ、いやぁっ、いやああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 びくびくびく、がくがく、がく……
 ぴゅっぴゅっ、びゅるっ……
『やはり……潮吹きだったか』
 法子の膣口から噴き出していたのは、小水だけではなかった。
(親娘揃って、とはな。くくく……)
 彼女の膣に溜まった愛液が……絶頂の痙攣に、噴き出ていた。



「あぁ……あああぁぁ……」
 びゅるっ……ぴゅっ……ぴゅるっ……
 わななく法子の様子を、男は満足そうに見下ろし──そして、おもむろに彼女への侵入を再開した。
 ずっ、ずずずずずず……

「ふぁっ、あああっ、あああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 法子はもう堪える事もできず、そのまま絶頂を迎えてしまう。
『さぁ、そろそろ私の精を埋め込んでやろう──覚悟はいいな?』
「あっ、あぐっ、ごっ、ごしゅじん、さまぁ……っ!!」

 ずん、ずん、ずん……ずんずん、ずんずんずんずんずんずん!!!

「あひっ、ひぃぃっ、ひぃぃぁぁぁああーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 わなわなと絶頂に蠢く膣内を、肉棒は更に攻め立てた。
 ずんずんずん!! ずんずんずんずんずんずんずんずん!!!!

「ひぎっ、ぎ…………っ、かはぁぁぁああああーーーーーーーーっ!!!!!!」

『さあ……そろそろ、私も出すぞ……受け止めろっ、法子!!!』
 ずんずんずんずんずん!!!! ずんずんずんずんずんずんずんずんずんずん!!!!!

「ああっ、あああっ、あああああああああああああああああああ!!!!!!」

『喰らえっ!!!!』
 ずんっ!!!!!!

「ひぃ……っ…………!!!!!!」
 どくどくん、びゅるっ、びゅるっ、びゅる……
 そして男の精は、最後の一突きとともに、再び法子の中へと放たれた。

「…………っ!!!! ……………………っ!!!!! ひ…………ぃ………ぃ……っ…………!!!!!!!!」

 がくんがくんがくん、と身体を揺らし、法子は声も出せずに絶叫した。
 そのまま白目を剥き、絶頂のわななきもそのままに失神してしまう。

 ずる……
 なかば浴槽に落ちるように、法子の身体が開放された。
『くくく、やった、やったぞ……完全に、成功だ……堕としてやった……くくく、ははははは!!!!』
 見えない腕は軽々と彼女を抱き上げ、寝室へと運んでいく。

 抱き上げられながら、法子はびくんびくんと時折身体を震わる──彼女は今、その精神を犯されていた。
 度重なる焦らしと絶頂の嵐に、法子の精神は疲弊しきっている。その空隙を埋めるように、その疲れを癒すように、男の精は法子の心に染み込んでいった。
 その内部に根を張るように、その精神を食い散らかすように……。

「ぅ……ぁぁ…………」

 彼女の何かが、精神の一番奥に潜む、一番大事な何かが――喰われていく。



「ただいまー」
「あら、お帰りなさい、鈴穂」
 鈴穂は玄関で出迎えてくれた母親に、違和感を感じた。
 泣きそうな、それでいて幸せそうな、奇妙な微笑を母が浮かべているのだ。
「…………? どうしたの、お母さん?」
「え? 別にどうもしないわよ。それより早く着替えていらっしゃい」
「……、うん……」
 鈴穂は法子のその態度に、どこか無理をしているような様子を感じたが、それ以上は追求できなかった。
 仕方なく言われた通りに、二階の部屋へと向かう。
(なんだろう……)
 嫌な予感がした。漠然と、しかしとても強く。

 目の前にいた母親が、本当の母ではないような、そんな気がした。




 亡霊の住む家 17 に続く







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