亡霊の住む家 18

 『母・法子 G』


「は……ぁ、はぁ…………ぁ……」
 まだ絶頂も冷めやらぬまま、荒く息をつく法子に、更なる責めが襲いかかる。
 貫き、胎内へと射精したまま、三本の指と肉棒は未だ彼女の体内に残っていた。
『今日は、また新しい攻め方を考え付いてな──存分に味わえ』
 その言葉と共に、ぼこっ、とペニスの周りにいくつものイボイボが生える。
「!!!」
 それだけではなかった。突起はそのままにゅるにゅると伸び続け、小さな触手となって法子の肉襞の間を擦り始めたのだ。
「ああ、ああああああ、あああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
 くちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅ……
 小さな触手は激しく動き回り、しかも表面に猫の舌のようなざらつきを纏わせて、法子の肉襞を暴いていく。
「ああぁぁ、ああぁぁ、ああぁぁぁ……もう、許してぇ、許してぇぇ……」
 涙と汗と、涎でぐちゃぐちゃになっている顔を歪めて、法子は子供のような泣き顔を浮かべていた。
『まだ酔い足りないな――拒絶の言葉などを口にできる様ではな。もっと壊れろ、善がり狂え』
「あああ・ああ、あ・あああああぁぁ、あう、くぅぅっ、うふぅ……ぅぅぅ……」
 絶え間ない刺激に弾かれ、法子の首はびくんびくんと動き回る。息をつく暇も無い。
 危うく呼吸を忘れそうになり、唇を奪われ、無理矢理呼吸を送り込まれた。
『また息をするのを忘れたか? 悪い癖だぞ、法子……』
「んんんっ、んーーーっ、は……はぁぁ……っ……」
 胸いっぱいに吸い込んでしまう──痺れるような感覚。
 肺の中に、そして全身に、ぞっとするほど冷たい息吹が入り込んでいた。
(こ…れ……何……?)
 冷たく、重く、締め付けるような、何かが――。
(頭……が……)
 急速に思考力が低下していく――何も、考えられなく、なっていく。
 だが、男はそれに気づかず、その逸物の往復を速めていた。
 肉棒そのものもうねうねと動き、小さな触手たちの動きを増幅している。
 ぐりっ、ぐりっ、ぐりっ――
「……すごい……すごいのぉ………ああ、あああああ……」
 膣の奥深くから襞の一つ一つまでを満たす、人間のペニスからは決して味わえない、膣内を全て暴かれているような、刺激。
 法子は抵抗を全くせず、それらを全て受け入れていく。
 今、彼女を支配しているのは、初めて味わう異質な快楽、それだけだった。
『そうかそうか、そんなに良いか……くくく、どんどん蜜が溢れてくるぞ』
「あああああ、ああああああぁ、すごぉい、すごいぃぃ……」
 男は法子の反応に満足したのか、今度は肉棒の速度を緩めた。替わりに、触手の動きが激しくなっていく。
 ぎちっ、ぎちっ、ぎちっ――
 アナルに差し込まれていた指も無茶苦茶に動いてその内壁を抉じ広げ続け、もう片方の手は愛液で濡れた会陰から太腿、臀部をヌルヌルと撫で回した。
 法子は、顎を跳ね上げて善がり狂っていく。
「し、死んじゃう、もう、死んじゃうぅ、ああ、あああああ!!」
 自分の全てが暴かれる――膣の中の全てを、嬲られ、削られ、犯し尽くされる。
 そのざらつきと、嘗めるような動きで膣壁を責め、またその動きで、先刻放出されている彼の精液を擦り込んでいった。
 本来ならば、とっくに身体のブレーカーが働いているような刺激の数々。
 それでも、男は法子に失神することすら許さず、容赦ない責めを加え続ける。
『くっくっく……後ろの方も、大分具合が良くなってきたな……』
「――――――――――っ!!!」
 ついには、後ろの指までが、触手と化して蠢き始めた。
 ぐりゅっ、ぐりゅっ、ぐりゅっ、ぐりゅっ――
「かっ、はぁぁぁぁっ、ああっ、ご、ご主人さ……く、くるし……ぃ……」
 前と後ろ――爆発的に膨張した二つの責めに挟まれて、法子は破裂しそうなほどの圧迫感に、呻き声を上げた。
「ああっ、あああっ、ごっ、ごしゅじぃ……っ、さ……まぁ……っ、ああっ、あああああ!!!!」
 だがそれもあっと言う間に、恍惚とした充塞感にすり替わっていく。

 もうとっくに、法子の精神は焼き切れてしまっていた。
 されるがまま、受け入れるがままに、その快感の全てを、脳裏に刻み込まれて行く。
 もう――彼女は、決して人間の男性相手では満足できまい。人の身には耐えられるはずもない悦楽を、味わい過ぎてしまったのだ。

 そして、もう何度目なのかも分からない、大きな大きな、絶頂が訪れる。
『――さあ、これでトドメを刺してやる、存分にイけ!!!』
 指が、ペニスが、小さな触手の一本一本が――バイブレーターのように、激しく、振動して――
 長い触手の一本が、くるりと屹立したクリトリスに巻き付いて――

「!!!!!!」
(わた、し……もう……だ、め……)
 また――来る。来てしまう。
 魂まで吹き飛んでしまいそうな、至高の瞬間が――。

 全身を突っ張らせて、法子は、獣のような断末魔を放った。

「うあ、あ、あ、あぁーーーーぁーーーーっ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 もう、何も分からない。
 あるのは、圧倒的な快感の奔流だけで――。

 全てを忘れ、捨てた者だけが味わえる開放感──。
 それは、堕ちた者の「快絶」だった。

 がくん、がくん、がくん――
「ああ……あぁぁぁ……あ、ぅぅ……」
 ぶるぶる、ぶるぶると絶頂に震える身体。
 剥き出しになった法子の精神に、また、彼が、染み込んでいく。
 小さな触手の一本一本の先端から、彼の精が、膣襞の奥にまで注ぎ込まれていた。
「ああ、あ……」
 くたり、と全身を弛緩させ、法子は便器の上に崩折れる。
「あ……ぅ……ぅぅ……」
 自分が誰なのかも思い出せないほど、彼女はその快楽に酔いしれ――呑み込まれていた。
 女として味わう最高の悦楽――加えて、精神そのものを犯されていく、痺れるような快感。
 隷属することに快楽を覚える女の、それは究極の被虐だった。
「ああ……あああぁぁ……」
 びく、ん、びくん、びく……ん……
 絶頂の波はいつまでも収まる事がなく、法子は歌うような呻き声で、その余韻を味わい続ける。

 背後の扉のすぐ向こうに、娘の一人──雪乃がいるとも知らずに。




 絶頂を迎える直前に、法子が垣間見せる表情を、私はかなり気に入っていた。
 哀願の言葉を発しながらも、この女は雌の表情を浮かべるのだ。
「し、死んじゃう、もう、死んじゃうぅ、ああ、あああああ!!」
 ぼろぼろと大粒の涙を零し、全身をぴんと張り詰めながらも、法子は顔を喜悦に歪める。
 焦点を失った瞳、嬉しそうに歪んで涎を垂らす唇、止め処ない喘ぎ声、頬を零れ落ちる涙、全てが最高だった。

「うあ、あ、あ、あぁーーーーぁーーーーっ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

 そして、法子の全身から極上のエナジーが迸る。
 私に愛される度に、調教される度に、法子のエナジーは洗練されていた。
(くっく……美味い、美味いエナジーだ……)
 そうして、私はまた、法子の子宮に存分に精を叩き込む。
 子宮の内壁に放出が当たる度に、法子は撃たれたように身体を震わせた。
(最高、だ……)

 この、打ち震えるような征服感は何なのだろう。
 手の届かないはずの美しい花を手折り、蹂躙する──。
 貞淑な人妻を、無垢な娘達を、犯し、弄び、虜にする──この悦楽は何とした事か。

(この悦楽は……忘れられそうにないな。くくく……外に出られる時が、楽しみだ……)

 女達を絶頂へと導く度に、私の力と行動範囲はどんどん広がっている。
 この家に縛られ続けなければならないのも、そう長い間では無いはずだった。

(待っていろ……女共よ。もうすぐ、もうすぐ……お前等を喰らってやる……くくく、ははははは!!!)

 そうすれば、今までとは桁違いの数の獲物がいる。
 だがまずは──。
 
(この家の女共を貪り食ってから、だな……)

 邪悪な計画は、刻々とその度合いを進めていた。



 わななく拳を握り締め、雪乃はドアの向こうの嬌声を聞いていた。
(お母さんが……)
 時折聞こえる彼の声。もはや何が起きたかは、明白だった。
(やめて……っ……)

 どす黒い何かが、雪乃の中に生まれかけていた。
 朝食の時の前戯から、雪乃は完全に「おあずけ」の状態だ。
 身を揉みし抱くような疼きの中、善がり狂う母親の声は、堪らないほど憎憎しく、雪乃の耳に響いていた。

(……お母さん……どうして……)

 最初の血を彼に捧げ、身も心も彼に捕えられ、弄ばれ──。
 雪乃は夢見る少女のまま、無理矢理大人への世界へと引きずり込まれた。

 全てを失い、また新たな全てを与えられ、雪乃はそれに飲み込まれる。
 その中で従属と隷属の悦びを、彼女は恋と愛へと、挿げ替えられていた。

 子供の持つひた向きさで、今、雪乃は男を「愛して」いるのだ。

 そして、その愛を脅かす出来事を前にして、彼女は「女」としての感情に目覚めてしまった。
 彼女の中で生まれた感情は、

(お、お母さん……)

 恐怖でも絶望でもなく、

(お母さん……)

 家族を気遣う気持ちですらない。それは──。

(お母さん……許さない……!!) 

 女としての、雄を奪い合う雌としての、嫉妬と憎悪だった。

(お母さんなんかに……あんな、あんな女なんかに、ご主人さまは渡さない──!!!)

 雪乃の中で、何かがぼろぼろと崩れ去っていく。
 大切だった何か。確かだった何か。愛していた何か。
 ──本当に好きだった何か。
 もう、それが何だったのかも、分からない。

 夢見る少女から、肉欲と愛欲に溺れる女へと──。
 雪乃は、自ら少女である事を──愛する家族の一員である事を、かなぐり捨てたのだ。

「ああぁぁ、ああぁぁ、ああぁぁぁ……もう、許してぇ、許してぇぇ……」
 
 トイレの中から、再び嬌声が響き始める。
 口では許しを請いながらも、腰を振って男にねだる、そんな情景が頭に浮かんだ。
(うぅ……うぅ、うぅ、うぅ……お母さん、お母さんお母さんお母さんっ!!!)
 あまりの悔しさと憎しみに、涙がぽろぽろと流れ落ちる。 

 身体の疼きと、精神の昂揚にわなわなと震えながら、雪乃は廊下に立ち尽くしていた。




 亡霊の住む家 19 に続く









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