亡霊の住む家 19

 『次女・雪乃 F』


 どんどんどんっ!!
「――――っ!!!」
 突如鳴り響いたドアの音に、法子ははっと我に帰った。
「あ……!!」
 あられもない自分の姿、そして壁やマットに飛び散っている狂乱の証。
 一気に正気に戻った法子は、服を整え、信じられないスピードでそれらを片付け始めた。
「お母さんっ!! もう、早くしてよっ!!」
「ご、ごめんね、ちょっと待って……」
 おろおろと狼狽しながら、それでも必死の勢いでトイレの内装を整えていく。
 壁を拭き取り、マットレスを交換し、辺りに立ち込めた情欲の匂いに消臭スプレーをぶちまけた。
「――、おまたせ」
 やっとの思いでドアを開けた法子を半ば叩き出すように、雪乃が入れ替わりに飛び込んだ。
「あ――」
 ばんっ!!
 声をかける暇も無く、目の前で勢いよくドアが閉じられる。
 あまりのめまぐるしい展開に、法子は雪乃の一瞬の表情に気づかなかった。
 鋭く睨み付ける、その敵意に満ちたまなざしに。



 一瞬の空白の後、法子はやっと現実感を取り戻した。
 時計を見ると、もうとっくに学校が始まっている時間だ。由佳と鈴穂はもう家を出たのか、廊下に人の気配は無い。
「あ……雪乃、学校……」
「具合が悪いから、休む!!」
「そ……そう……」
 叩きつけるように言われ、思わず法子は気圧されるように頷いていた。
「どこか……痛いの?」
「もう、いいからあっちに行ってっ!!」
「え、ええ……」
 どこか釈然としなかったが、このまま廊下に立っているわけにもいかない。法子はまだ何も家事に手をつけていないことを思い出し、台所へと向かう。

 つい、と、傍らにいた気配が離れていくのに、彼女は気づかなかった。
 


 雪乃は後ろ手で閉じたドアを押さえながら、中空に訴えるような眼差しを向けていた。
「ご主人さま……ぁ……」
『……待たせたな、雪乃……』
「あぁ……」
 待ち望んでいた者の気配に、雪乃は感極まった声を上げる。
 安堵と、母に対する入り乱れた感情が一気に押し寄せ、雪乃はその場に泣き崩れた。
「うぅ、う……ご主人さま……どうして、どうして……お母さんと……」
『……』
「わた、わた、し……嫌です……お母さんに……あ、あんな、あんな女にご主人さまをとられるなんて……嫌……」
 涙に濡れた頤を、男の指が、くい、と持ち上げた。
「あ……んぅ…………」
 唇を塞がれ、侵入してきた冷たい舌先が雪乃の舌を絡め取る。一方では彼の指が彼女の服の中に入り込み、さわさわと脇腹と太腿を攻め始めていた。
「んふ……ん、んん……」
 巧みなそれらの動きに、ぞく、ぞく、と雪乃の全身が粟立つ。激情に忘れかけていた情欲が、一気にその疼きを取り戻していく。
「ん……は、はぁ……」
 唇を開放されたときには、雪乃はすっかり夢心地になっていた。ぼうっとした視線には力が無く、その表情には蕩けるような悦びが灯り始めている。
 食卓では焦らしに焦らされ、しかもその後に母親の痴態を聞かされながらお預けを食っていた身体は、一気にその欲求不満を爆発させていた。
「ご主人……さまぁ……」
 急速に無防備になっていく彼女の精神に、男の囁きが染み込んでいく。
『雪乃……私がお前を見捨てるとでも思ったか?』
「違います、でも……でもぉ……」
 幼児がイヤイヤをするように、雪乃はふるふると首を振る。
『お前は私の所有物なのだ……私に全てを委ねろ、と言っただろう?』
「あっ、あ……わかって……ます、でも、でも…………どうして……」
 その間にも、男の指先は的確に雪乃の身体を舞い上げていく。いつもよりも繊細で、優しい、うっとりするような快感だった。
 桜色の乳首を、濡れた花びらを、そして奥に隠れた花芯を……巧みに、丁寧に、しかし容赦なく――攻め立てられる。
「ふあ、ああ、ああああっ、ご主人様ぁ、ご主人様ぁぁ……」
『そうだ……、そのまま、快楽に全てを任せろ……』
 半透明に実体化した彼の頭を抱き締める。いつのまにかはだけられていた制服のワイシャツとブラジャーの隙間から、今度は彼の舌先が乳首を弄りはじめていた。
「ああ、ああああっ、も、もうダメ……ですぅ、もう、もう……」
 今までの行為とは正反対の、優しく切ない愛撫に、雪乃はどうしていいかも分からずに、追い込まれていく。
『そうか……では、行くぞ……』
 くい、と、右足が持ち上げられた。無防備な状態になった股間に、熱く息づく先端が押し当てられる。
 ずぐ、ずぐ、ずぐぐぐぐぐぐ……
「あっ、あ……はいってくる……ご主人さまがぁ……あああああーーーーーっ!!!」
 そのまま雪乃は、一気に貫かれていた。
 視界が、真っ白に歪んでいく。待ち望んでいた『ご主人様』の侵入に、身体中が歓喜の声を上げていた。
 男は持ち上げた右脚を固定したまま、ゆっくりと抽送を繰り返し始める。
 ず……ぐ、ずぐぐ、ずぐ、ずぐ、ずぐ、ずぐぐ……
「あ……う、あうぅ、あう、あう、あう、あああぁっ……」
『ふ……くくく……どうだ、全てがどうでもよくなるくらい、気持ちいいだろう?』
「うあ……あ、あああああ、すごい、すごいですぅぅ、ご、ごしゅじん……さまぁ……っ」
 制服姿のまま、その無垢な身体を犯されていく少女。
 男根の的確な攻めに加えて、指先はクリトリスを自在に弄び、歯と舌先は完全に尖った乳首をしごくように刺激している。
 努めて優しく、甘く加えられた攻めに、彼女の精神はドロドロに混濁していった。
『私に愛される悦びを、魂の奥底まで刻みつけろ……そう、私に従う事以外、何も考える必要などないのだ……』
「あああ、あああああ、あう……ご主人さまぁ、ご主人さまぁぁ、くぅ、く……あ!! あああああっ!!」
『もう、まともに言葉も出せぬか……いいぞ、そのまま悦楽の果てに堕ちて行け……くっくっく……』
 ほどなく、雪乃の膣がぎゅうっと男根を締め付け始める――絶頂の予兆だ。
「あう、あう、あああああっ、あああううう、も、もう、もう、らめぇぇぇ……」
 呂律の回らないほどに感じたのか、雪乃は焦点を失った瞳を彷徨わせながら、全身を反らせ始めた。
『そうか、イクか……ならば、最高の絶頂を味わわせてやろう……』
 ずん――ずん、ずん、ずん、ずん――
 少しづつ、ピッチが早まる。一刺しごとに微妙に角度をつけ、男根は雪乃のGスポットを容赦なく抉っていく――。
「ああああ、あああああああ、す、好きぃ、ご、ごしゅじんさま、すき、すきなのぁ、あああああ、もう、もう、ああああああああ!!」
『さあ、イけ――お前の膣に、またたっぷりと精を注いでやる――さあ、イけっ、イけっ!!!』
「出してっ、私のなかに、だしてぇぇっ!!! ――あああああああああっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
 ――どぷ、どぷん!! ごぽ、ごぷ、ごぷ――
 がく、がくん、がくがく、がく……
 子宮の奥に、怒涛が迸り――雪乃はその衝撃にとうとう絶頂を迎えてしまった。
「かは……ぁ、あああぅ、あぅぅぅ、あふ……う、ぅぅぅ……」
 嵐に翻弄され、なす術もなく渦に飲み込まれていく小さな木の葉のように、雪乃の精神は快楽の渦に堕ちていく。
 がくん、と、糸の切れた操り人形のように、彼女の全身から力が抜けた。
 
 ◇

 雪乃が再び目を覚ました時には、まだ逸物は膣内にあった。
 抱えあげられた姿勢のまま、失神していたのだ。
「あ……ご主人さま……」
 照れたような、恥じらいに満ちた笑顔で私を見つめる――その表情には、もういささかの恐怖も、嫌悪も、読み取ることはできない。
 童女のように自分の所有者を信じきった笑顔だった。
『雪乃……お前は私の何だ?』
「私……は、ご主人様の所有物、です……」
 恍惚とした表情のまま、雪乃が答える。
『そうだ。私の所有物だ。所有物がその主人に向かって命令や反抗をするようでは話にならん。そんな物は容赦なく捨てられる……分かるな?』
「はっ、はい……」
 その言葉にハッと我に返ったか、一気に真剣な表情を取り戻し、頷いた。
『お前は私の命令に従っていればそれでいい……疑問も願望も抱くな。分かったな?』
「……、はい……」
『――だがまあ、所有物同士の優劣を決める方法なら、無いわけでもない』
「――!!」
 はっ、と雪乃は顔を上げる。私は内心でほくそえんだ。
『簡単な話だ。私の寵愛をほかの女よりも深く受けたいのならば、より私を悦ばせればいい――ほかの女よりも、一番にな』
「――――っ!!!」
 雪乃の目が爛々と輝き始める。

 女どもの調教は快調だ。もはや雪乃や法子には、万が一にも私に逆らうような真似はできまい。
 だが、保険は無いに越したことは無い。女同士の競争心を煽って、より深い寵愛を得ようとするように仕向ければ、その服従心はより強固になるだろう。

「私……わたし、ご主人様のためなら、なんでもします……ですから、ですから、どうか……」
『ふむ、そうだな……』
 私は思わせぶりに、考える振りをする。雪乃が次の言葉を聞き逃すまいと身構えているのを確認し、そして口を開いた。

『法子は昨日、見事な放尿ショーを見せてくれたものだが……お前には、できるかな?』



「……ああぁ……」
 ぷしゃぁぁぁぁぁ……
 優に5分以上の逡巡と躊躇いの果てに、遂に雪乃の花弁から黄金の曲線が描かれた。

 幽霊に物理的な制限はない。私は便器に腰掛けた雪乃の身体の下に回りこみ、便器の中からの視点で雪乃の放尿を鑑賞する。
『くくく……いい光景だぞ、雪乃』
「うぅ……!!」
 戯れに声を掛けると、雪乃はびくりと震えて放尿を中断した。突然の揶揄に筋肉が緊張してしまったのだろう。
『どうした、続けろ……見ていてやるぞ』
「あ、あの……その……」
 雪乃はただ、狼狽するばかりだ。力を抜こうとするが、緊張してしまって上手くいかない。
『……仕方ない奴だな──どれ、私がほぐしてやろう……』
「あ、っあ、あ!!!」
 じゅるりという音と、突然の衝撃に、雪乃の身体は跳ね上がった。舌先に、少し苦い尿の味が広がっていく。
『ほれ、早く力を抜け。まだ出し終わっていないのだろう?』
「あ、でも、でも──あっくううぅっ!!!」
 舌先にクリトリスを擦りつけられ、雪乃は甲高い悲鳴を上げて仰け反った。たちまちのうちに雪乃の花蜜が湧き出してくる。
『おやおや……もうこんなに蜜を垂らしおって……そんなに気持ち良いのか? 淫乱な娘め……』
「う、うわぁっ、だっ、だって、だってぇぇ……ごしゅじんさまぁぁ……」
 雪乃は涙目で訴える。

 ふと、陰唇のうしろでひくひくと蠢く菊門に気がついた。
(……ふむ、そろそろ雪乃のアナルも味わってみるか……)
 舌先を、そのまま彼女の会陰の奥へと進めてみる。
「――あっ!? ひっ、やぁぁぁぁっ!!!」
 雪乃が瞬時にその意図を察し、戸惑いの声を上げる――が、その時には既に舌先は、そこへと到達していた。
「ご、御主人さま、そこは、そこはぁ……」
 思わぬところからの刺激に、雪乃は声を震わせる。だが舌の動きは一向に収まらず、雪乃の菊門をぬらぬらと這い回り続けた。
『……何だ?』
「あぁぁっ、や、め……やめて、ください……」
『何故、止めねばならん? こんなに感じているではないか』
「うふぅ、ううぅ……でも、そんな、そんな処……汚いですぅ……」
『汚くなどないぞ……綺麗な尻の穴だ。褒美にきちんと舐ってやらんとな』
 そう言って私はにやりと唇を歪ませ、より執拗に雪乃の後ろを愛撫し始めた。
 ぞくぞくぞくぅ、と雪乃の全身に妖しい悪寒が駆け抜けていく。
「でっ、でもぉ、でもぉぉ……う、くぅ!! ふぁ……あぁぁ……は、恥ずかしい……ですぅ……」
『恥ずかしがる事はない。お前は私に全てを曝け出さなければならないのだ。お前が尻の穴を舐められて感じる淫乱な少女なら、私にちゃんとそう知らせなければならないのだぞ』
「ああぁ、そんな、そんなぁ……私は、私はそんなぁぁ……あぁ、あぁ、だめ、だめですぅ……」
 少しづつ少しづつ、雪乃の力が抜けていく。本来排泄の用途しかないはずの器官だが、性の快楽を貪欲に求めて成長している雪乃の身体は、いち早くその快感に夢中になってしまったのだ。
『ふん、そんなに嫌ならば止めてやってもいいが……法子に負けたくはないのだろう?』
 その言葉に、ぎくり、と雪乃の全身が強張った。
 舌先から逃れようと、ゆらゆらと動き回っていた腰が、急にその動きを止める。
「――――っ」
『先刻、法子はこの便器の上で私を楽しませてくれたものだ――ここに、指を三本も突っ込まれてな』
「――――っ!!」
 ぎゅっ、と、膝を掴んでいた雪乃の両手に力が篭った。
「……っ、ご主人様……」
『なんだ?』
 内心の笑みを隠し、私はからかうような声で雪乃に答える。
「お、お願いしま……す、わたしを、私の……お尻、を、可愛がって……くだ、さい…………」
『……よかろう』
(――それでいい。言葉の誘導もしないのに良くぞそこまで言った。お前は本当に最高の少女だ、雪乃……)


 
 ちろ、ちろちろちろ、ちろ――
「はぁ……っ、あぁ、はぁぁぁ……」
 お尻の穴を舐められて感じてしまうという、少女には耐えがたい事実に、雪乃の頭の中は真っ白になっていく。
『それ見た事か。こんなに嬉し涙を流しているくせに、今更純真なふりなどするな、淫乱娘め』
「あぁぁ、あぁぁ、ああぁぁぁ……」
 男の言葉通り、これまでの丁寧で執拗な舌技で、雪乃の「女」はすっかり濡れそぼってしまっていた。
 そしてそれに追い討ちを掛けるように、男の指が中へと侵入していく。
 つぷつぷつぷつぷ……
「うあっ、ああああっ、あああああああっ!!!!!」
『……くっくっく……こんなにヌルヌルにしおって……これでも言い逃れをするつもりか? ほれ、ほれほれほれほれ』
 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ……
 じゅぽ、じゅぽ、じゅぽ……
「あああああっ、ああああああああああっ、す、すごいです、すごいですぅぅ、ごしゅじんさまぁぁ……」
 指の動きが激しくなり、同時に舌が先端を押し込もうとぐりぐりと動き始めた。
 完全に悦楽の虜となり、雪乃はぼろぼろと涙を流して咽び泣く。
『ほれほれほれほれ、ほれほれほれほれ』
「す、すごいぃ、すごいぃぃ……ああ、あ、も、もう、もう……」
 雪乃の身体に絶頂の前兆が──小刻みな痙攣が起き始めた。彼の声が嬉しそうに揶揄する。
『くっくっく、イッてしまえ、前と後ろを同時に弄られ、浅ましくな。ほれ、イけ!! イッてしまえ!!!!』
 最後には彼の親指にクリトリスをぐりぐりと押し潰され、雪乃は全身を引き攣らせて絶頂してしまった。
「くぁっ、あああっ、あああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
 ぎゅうっ、と、少女特有の強力な締め付けが指先を襲う。
 びくびくん、と震えながら、雪乃は絶叫に喉を震わせて仰け反っていた。
 ──ぴっ。
 じょぼ、じょぼじょぼ、じょぼ、じょぼじょぼじょぼ…………
「うあぁ……っ、あぁ……ぁ…………」
 びくん、びくん、と絶頂の痙攣を繰り返しながら、雪乃は放尿を再開した。
 雪乃はぐったりと背もたれに身体を預け、だらしなく両脚を広げたまま、ぼぉっと他人事の様にその光景を見つめている。
 じょぼじょぼ、じょぼじょぼじょぼ……
「う……あぁ……」
 ようやく水音が収まった頃には、雪乃は半ば放心して虚ろに自らの性器を見つめていた。
『どうだ、雪乃……感じただろう?』
「はぁ……はいぃ……きもち、よかったですぅ……」
 恍惚とした表情のまま、雪乃は男の声に応える。
『そうか……では、褒美をやろう』
「え、きゃ、あ……あああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 いきなり下半身を持ち上げられ、雪乃は驚く暇もなく、騎上位の姿勢で貫かれていた。
 絶頂に震えていた膣はびくんびくんとわななきながら、邪悪な肉棒に蹂躙されていく。
『くっくっく……どうだ? イッてすぐに犯される感想は』
「うあ、ああああ、ご、ご主じぃっ、ご主人さまぁっ、か……はあああああっ!!!」
 まだ奥まで到達しないうちに、雪乃の膣は絶頂に震えた。彼の愛撫と催眠術のような言葉に、雪乃の身体はそれほどまでに変えられてしまっていたのだ。
 もうその性感は少女のそれではない。淫業の罠に掛かり、快楽の前に屈し、堕ちてしまった女だけが味わえる、魂が吹き飛ぶような快楽だった。
「うぁ……ああぁ……ごしゅじんさまがぁ……いっぱい、いっぱいぃぃ……」
 絶頂にぶるぶると震えながらも、雪乃は自らを貫いている主人の存在に涙を流して悦んだ。
 男は雪乃の痙攣にもお構いなしに、彼女の身体を突き上げ続ける。
 ずん……ずん、ずん、ずん、ずん……
 膣壁を削り取られるような刺激の中、再び絶頂の波が押し寄せる――
『よし、そこまでだ』
「――――っ!?」
 その瞬間、不意に全ての刺激が消え失せた。
 めくるめく絶頂に酔いしれていた身体が、いきなりの中断に悲鳴を上げる。
「あ……ぐ…………」
 わなわなと震える全身を抱きしめるように腕を組み、雪乃は壊れそうな瞳で男を見つめた。
 にやり、と男の唇が歪む。
『今度はこれを試してみるか――』
 頭上の棚の扉が開かれ、中から奇妙な形状をしたバイブレーターが浮いてきた。
「――?」
 一瞬、それが何なのか雪乃には分からなかった。
『舐めろ』
 いきなり目の前に突き出され、そのグロテスクとも言える形に雪乃は知らずに戦いた。
 だが、男の言葉は絶対だ――言われるままに、おずおずとその先端に舌先を伸ばす。

 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ――
 先端から満遍なく、唾液で全体を濡らすように、雪乃の拙い愛撫が続いた。
『もう、いいか――雪乃、これは何だと思う?』
 ぬらぬらと淫靡な輝きを纏った淫具に、雪乃は恥ずかしそうに目を伏せる。
「あっ、あの……バ、バイブレーター、です……」
『そうだ……だが、こいつは少し特殊な用途に使うものでな――雪乃、尻の穴を広げろ』
「はっ、い………」
 もう、躊躇を覚えている余裕はどこにもなかった。ただただ快楽を欲して、男の言うなりに両手で自らのアヌスを広げていく。
 雪乃はそうして、再び男の指先を待ち構える。しかし――
「――ひぃぃっ!!!」
 予想を裏切る異質な――硬く、太い感触に、雪乃は半ば飛び上がった。
『どうした――』
「ごっ、ご主人さまっ、まさか、それ、まさか……」
『くっくっく――そうだ、これはアヌス専用のバイブだ』
(嘘、うそ……っ!?)
 そこにそんな物を入れるなんて、そんな嫌らしい道具が存在しているなんて、想像もしていなかったのだ。
「そ、そんな、そんな……っ、か……はぁ、あああ、ああああああ!!!」
 半ば恐慌したまま、拒絶も哀願も口にできないうちに、その先端はぐりぐりと雪乃の菊門を穿ち始める。
『ほれ、力を抜け――そうだ、落ち着いて、力を抜いていけ――くっくっく、くくくくく!!』
「だ――だめっ、だめぇぇっ、そんな、そんなのぉ……ああ、ああああーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 男の言葉に強制的に括約筋の力を緩められ、雪乃はその邪悪な侵入をなす術もなく許してしまった。
「うあ、ああ……っ、ごしゅじ……さまっ、おねが……ぬい、て……ぇ…………」
 息ができない。
 あまりの異質な衝撃に、身体全体がショックを起こしていた。
 だが、男は容赦しなかった。全く躊躇することもなく、バイブはずぶずぶと雪乃の身体を貫いていく。
『どうだ? 前と後ろに同時に入れられるとたまらないだろう?』
「うぁ、あああっ、ごしゅじんさ……ま……」
 そして、男根の突き上げが再開された。
 二つの穴からの桁違いの刺激に、雪乃の意識がすぅっと遠くなっていく。
『おっと……気絶することは許さんぞ、雪乃――私の調教は壊れてでも受け止めねばならん、それが性奴の務めだ』
「――――――っ!!!」
 無理やり意識が覚醒する。とうてい受け止めきれないほどの快絶が一気に押し寄せ、雪乃の脳は悲鳴をあげた。
 呼吸も、声を上げることもできず、感電したように全身を突っ張らせる。
『いいぞ、雪乃……そうやって忘れられない快楽を、より深くお前の魂に刻んでいけ――さあ、最後の仕上げだ』
 かちり、と、小さな音がした。

 ヴン!!

「ひぃぃぃぃーーーーーーーーぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
 何が起きたのかもわからぬまま、雪乃は再び絶頂の嵐に飲み込まれた。
 それが、後ろの穴を貫いているバイブレーターのスイッチの音だったと――思いを巡らせることもできず。
「――あ…………ぎ………………ぃぃぃっ!!!!!!」
 ぶつん、と、音を立てるように、意識が途切れた。

 ◇

 だらり、と、雪乃の両手が垂れ下がる。
 騎上位の状態のまま、雪乃は気絶していた。
 力なく揺れる前髪の向こうで、その瞳をカッと見開いたまま……。
『ふむ……声で意識を固定しても限界はあるか……』
 それでも雪乃の身体は動き続けているアナルバイブに反応してびくんびくんと痙攣を繰り返し、膣は精を飲み込もうとせわしく蠕動している。
『さあ、こちらも限界だ――行くぞ、雪乃っ!!』
 一番深く、子宮の入口まで突き入れて、私は思い切り精を放った。
 どくん、どくん、どくん――
「あ……、あぅ…………」
 意識のないはずの雪乃の口から、小さく呻き声が漏れる。
 魂を侵食される事による悲鳴か、それとも恍惚か――。
『はぁっ、はぁっ、はぁっ、はは、はははははははは!!』

 放たれた精は暫く子宮の中に留まった後、体内に染み込むように霧散していく。
 実体化を解かれ、そのまま雪乃の魂の中核へと溶け出して行くのだ。
 普段は強固な意識の殻に守られた魂体も、度重なる絶頂に完全に無防備になってしまっていた。
 ――そこに、何度も精が入り込む事によって、女の心は完全に私の虜となる。

 催眠術とも、洗脳とも違う――それは、魂の支配なのだ。

 完全に意識を失ってしまった雪乃の身体を、私は念力で持ち上げる。
 まだ雪乃の事を、母親である法子に知られるのは避けたい――雪乃はいいが、法子の方の仕上げがまだだ。
 トイレの扉を開き、二階の雪乃の部屋にその身体を運んでいく。
(まあ、見られたら見られたでその場で法子の仕上げをすればいいだけだがな……)
 幸い洋間の掃除をしていた法子が、こちらに気付く事はなかった。

 ベッドに横たえ、布団を掛ける。雪乃は具合が悪いと法子に告げていたので、このまま寝かしておけば疑われる事はないだろう。
(今日はもう限界だな……このまま寝かせておくか……)
 消耗しきった様子の雪乃の寝顔を、実体化させた掌でそっと撫でる。
(雪乃はこれでいい……後は法子だな)
 そうだ。
 今夜にでも、法子の仕上げをするとしよう。

(奴を完全に……仕上げてやるのだ……)
(そして……)
 夜が明ける頃には、二匹の完全なる肉奴隷が、私の物となる――。

 運命の夜は、もうすぐそこまで迫っていた。




 亡霊の住む家 20 に続く









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