──小島有希(3)──       作:SYARA


 やがて俺は、計画を綿密に練り始めた。
 ──小島有希を、僕のモノにする為の計画を。

 中学生を捕獲するのだ。計画は慎重に、かつ確実に立てなければならない。
 家族の動きを把握し、絶好のチャンスを探すのがまずは有効だと思い、僕は計画の第一段階を実行する事にした。



 カチャ。
 ……開いた。
 これで有希の家に、自由に入れる。僕は思わず微笑んでいた。

 やはりパラ粘土製の複製鍵は、精度が悪い。
 結局あの時間で開いていた鍵屋などあるはずも無く、僕は持ち合わせのパラ粘土で鍵の複製を試みていた。
 朝までに鍵をロッカーに戻しておかないと、有希に怪しまれてしまう。計画を確実に実行する為には、それは避けたい事態だった。
 その為の苦肉の策だったのだが……。
 念の為に10個ほど作っておいたが、開いたのは6個目を試した時だった。
 ……徹夜して大量の合鍵を作った甲斐があったというものだ。



 僕は息を殺して有希の家に忍び込む。
 家族がみんな出払っているのは確認しているが、用心に越した事は無い。
(……誰もいないようだな)
 時間が無い。僕はなるべく音を立てないように、あらかじめ決めておいた項目を実行に移していった。

 まずは靴箱の中の、有希の父親の靴を一足盗む。家から出るとき、そして今度ここに来る時はこれを履くつもりだった。
 次に、玄関に置いてあったスペアキーを一つ盗む。これで、しっかりした合鍵を作っておくのだ。
 そしてリビングと有希の部屋、それに風呂場の脱衣室とトイレに隠しカメラを仕掛けた。
「よし、と……」
 まずは家族の動きと生活時間帯を把握し、会話などからチャンスを探すつもりだった。

 また、こうして普段の生活の中の有希を見られるのは最後だから、こういった映像も貴重なのだ。
 もうすぐ、有希は僕の所有物になるのだから……。



 翌日、合宿から有希が帰ってきた。
 仕掛けたカメラは大成功で、赤裸々な有希の姿を幾つも捉える事ができた。
 トイレ、脱衣、机の中からのパンチラ、部屋でバスタオルを解いた瞬間……。
 今まではとうてい撮影不可能な有希の姿……。このコレクションを手に入れただけで、僕は天にも昇る思いだった。
 だが、これだけで計画は終わりにできない。
 有希を、僕のモノに……。その望みが、叶う時までは。



「どうしましょう、やっぱり心配だわ……」
「大丈夫だってば、母さん」
 居間に仕掛けた盗聴器からそんな会話が聞こえてきたのは、数日後の夜だった。
「だって有希一人で留守番なのよ、何かあったら……」
「だから大丈夫だってば、もう子供じゃないんだから」
(ご両親は子供じゃないから心配してるんだよ、有希……)
「やっぱり止めましょうか、ねえ、お父さん」
「うーん、そうだな……」
「だーかーらー、大丈夫だってばっ!! せっかくの夫婦水入らずの温泉旅行なんだから、行ってきなさいって」
(……旅行!? 有希の両親が!? これは……)
 チャンスだ。僕は必死に耳をそばだてて、録音のスイッチを押した。
「でも……」
「でもも何も無いの!! せっかく私が町内会の抽選で当てたの、無駄にする気!?」
「おいおい、こっちも心配なんだよ」
「出発の二日前になって、今更なに言ってるのよ、もう!!」
 (二日後……に、出発か……)
 親子の押し問答はしばらく続き、結局は両親が折れて旅行に行く事になっていった。
「……じゃあ、本当に気をつけてね。知らない人が来てもドアを開けちゃダメよ」
「だからぁ、小学生じゃないんだから」
「四泊五日か、心配だわ……こんな時くらい明希人も帰って来れればいいのに」
「だからぁ……」
(その間、有希は一人きり、か……絶好のチャンスだな。まだ一日余裕がある……綿密に計画を練らなくちゃ……)
 僕は会話を一言も聞き漏らすまいと耳を澄ましながら、頭の中で計画の第二段階を組み立てていた。



 明後日……。
 僕は両親が出発するのを確認し、そして有希が買い物に出かけたのを確認し、家に忍び込んだ。
 ──とうとう、決行の日が来たのだ。
 履いてきた父親の靴は、前あったところに戻しておいた。
 最初は夜にでも忍び込もうと思ったが、張りこむ必要があるのに気がついた。なにせ、チェーンが掛けられていては入れない。
 そこで、事前に家に潜り込んでおく事にしたのだ。

 ひとしきり家の中を見て回り、有希の部屋や洗濯物を楽しんだ後、僕は両親の寝室のクローゼットの中に潜り込んだ。
 後は、有希が帰ってくるのを待つだけだ。僕は、忍び笑いをしながら逸る気持ちを必死に抑えていた……。

 数時間後、有希が帰ってきた。
 僕が侵入しているのには気がついていないようだ。
 一人で夕食をとり、風呂に入る。僕は覗きたい衝動に駆られたが、ここでバレては計画が台無しなので、我慢した。

 やがて風呂から上がった有希に、両親から電話があった。
「大丈夫だって……」
「はいはい、そっちも気をつけてね……」
 有り難い。これで両親もしばらくは安心して旅行を続けるだろう。僕にとっては実に好都合だった。

 そして……計画を実行に移す時が来る……。



 真夜中。
「…………?」
 有希は、僅かな気配を察して目を覚ました。
 部屋の中に誰かいる……!?
 がば。
 跳ね起きようとしたその瞬間、何者かの手が有希の口を押さえ込んだ。
「……!?」
 口の中に広がるゴムの臭い。
(ゴム手袋……!?)
 歯を立てようとした瞬間、凄まじい電撃が有希を襲った。
 バチ!!!
「うぁぁっ!!!」
(スタン……ガン…………)
 びくん、と身を震わせ、有希は意識を失った。

 翌日の朝、有希の姿は家から無くなっていた。
 有希の家族がそれに気付くには、更に三日という時間が必要だった。
 更に、有希の身の回りのものと大き目のカバンが無くなっていたという事、そして部屋にも他にも争った形跡が全く無い事から、単なる外泊ではないかと家族が思ってしまった為、発覚は更に遅れる事になる。

 その日は部活も無く、どの友人の家にも泊まっていない事が発覚して大騒ぎになったのはその三日後。
 その時には、もう有希は彼等の手の届かない処に連れ去られていた。

 有希の運命は、今や完全に僕の手の中に堕ちたのだ……。


 さらにつづく